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第2章 荒れる国、動く刻
第1話 同盟
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フェリミアの言葉に、ジルベルトが静かに一礼して立ち上がる。
「まずは、我が国のラーム様からの書状は拝見されましたか?」
「ああ、だが返答は貴方方からのお話も聞きたい」
「それで結構です。我々ヒルムド王国は現在危機に瀕しております」
「それはカナレリアも一緒」
ジルベルトの言葉にラヴィが一言で遮る。
「此処も最近アクストリアにアルケニアと侵攻されて、正直私達は危機と言う言葉じゃ片付けられない領域にいる。満足にカナレリア王国領と胸を張って言えるのはここ王都でしかないよ」
「失礼、お名前は?」
「ラヴィ…ラヴィ・ティラール」
「そうですか、君がラヴィ殿。失礼、ごもっともでございましょう。ですが、その問題は我々と同盟を結ぶ事こそ解決の糸口があるのです。大陸中央から北方に位置する三つの小国が滅んだのは何故か、それは一つ一つが小さく弱者、手を取り合う時間もなく潰された事が理由です。守るだけなら時間をかけさえすれば滅ぶ道しかないのです。現在カナレリアはアクストリア、アルケニアと挟まれ我々ヒルムドの援助も遠い位置の国です。今回我々ヒルムド、そしてシュヴァリトが手を取り合いアクストリアを挟み撃ちをすれば、その危機も回避できると考えました」
「そりゃ、そうかも知んねーけど。ウチは戦力になるほどの兵力はないぞー?」
エースが耳をほじりながら、気だるげに答える。
そんなエースの姿にレミリアが引きつりながらフェリミアを見る。
きっとどうにか失礼をさせるなとのアイコンタクトに、フェリミアも冷や汗をかきながらエースの前に移動してジルベルトから見えなくしながら会話に入る。
「彼はエース・ティラール、一介の傭兵ですが、腕は確かで…」
「大丈夫です、フェリミア殿。彼等が噂の隠者の弾丸でしょう?一度お会いしてますよ」
ニコリと笑うジルベルトに、フェリミア、レミリア、それにエリックもホッと胸を撫で下ろした。
エースは更に口を挟む、彼の中では無駄な消耗がしたくないのか拒否の意見を口する。
「俺達はこの前大敗したばかりだ、やっとの思いで追い払う事しか出来ないんだから足手まといだろうよ」
「いやいや、それが大いに力になりましょう。二大国から攻められても崩れない力。今もこうして健全な王都を見て強く思いました。我々は別に一緒に戦うだけが目的ではありません。その先の事もアクストリアを侵攻する意味があるのです。考えて見ましょう、アクストリアが無くなればどうなるか。ヒルムドとカナレリアその間の大きな壁も無く、我々反対連合と合流できるのです」
反対連合、五つの大国の内たった一つの大国オルカニアを筆頭に隣接する小国ヒルムドを入れたカナレリア以外の小国と同盟を結び徹底交戦している。
カナレリアもそこに加えられれば、確かに今と違い圧倒的優位に進められる。
だが、アクストリアは大陸一の武闘国家であり簡単には倒せない。
先のアクストリア戦は奇跡であり、運も味方にしていたのが大きいからだ。
エース自体、勝手にヒルムドとシュヴァリトがアクストリアを攻め滅してもらう事の方が楽でカナレリアに被害が及ばないと考えていた。
だが、そんな兄の意見を知ってか知らずかラヴィが進言する。
「やるべき」
その言葉に同調する様に、笑顔でルゥルゥも賛同の声を上げる。
「そうね、これは願ってもないチャンスね」
「は?ルゥルゥお前確か【不戦条約】が」
「それは唯一アクストリアには無いわ、十の国に対して私は過去に支えたり親交があるけれど…アクストリアは唯一魔法をあまり使うことを嫌っていたのよ昔は。だから私は親交も無いし条約も結んでいない。今奇跡的にカナレリアに舞い降りたのだから、手を貸してあげても良いと思ってるわ」
ルゥルゥがレミリアを見ながら、にっこりと笑いかけて言う。
【不戦条約】、ルゥルゥの実力と自由な性格により国々と契約を結んだ自分自身の魔法の呪いでもある。
それがある限り、ルゥルゥはどこへでも自由で、それ故敵対する事もない決まりになっている。
現在では多少アクストリアも魔法部隊などを作ってはいるが、正直なところそれは飾りに近く弱い。
アクストリアの持ち味は野戦と個々の力なのだ、前回のアクストリアはたまたま力のない強欲が取り柄のアレクセイが相手だったからだ。
今回はその一個大隊だけでなく、国全てに喧嘩を売るのはリスキーなのだが、レミリアはフェリミアと顔を見合わせてルゥルゥとラヴィの言葉を受け入れた。
「良いでしょう、これより私が代理で同盟を結ぶ事を認めた書状を用意します」
レミリアの返事に満足したジルベルトは一礼する。
マーシャルに案内され2人は客室に向かうために部屋を出たのを、ラヴィは確認してレミリアの前に出る。
「レミリア、いくつか条件を入れよう」
「ラヴィさん?」
その言葉にフェリミアが困った様に反応するも、ラヴィは話を続ける。
「ただ闇雲に手を貸して同盟じゃ意味がない。勝った後の事を話すのも大事、戦う為の事を話すのも大事だよ。今此処はかなりの疲労と消耗で国として動かすのギリギリ、その中で戦争するのは正直無謀」
「でも、ラヴィちゃん…さっき良いって」
「うん、だからアクストリア戦は戦争で使う物資なんかをヒルムドとシュヴァリトに賄って貰う。これが第一条件、二つはアクストリア領を均等に三つに分配領土権は話し合いにて決める事を条件にして」
「そこまでしなくても、ヒルムドは旧くからの親交がありますよ?」
フェリミアの言葉にエースがため息混じりに交ざる。
「これは戦争だ、親交があろうが同盟に対してもカナレリアが損する事は絶対起きちゃいけねーし、今は風吹けば崩れるぼろ家な状態だ。そういう所はしっかりと言っとかねーと後々困るって事だろ?」
「うん、エースの言った通り。盟約は必須、ヒルムドとは仲良しでもシュヴァリトはそうでもないでしょ?」
「確かに、レミリア様。ここは書状の内容は私が書いてもよろしいですか?」
「いいわ、お願いねフェル」
話がまとまり、それぞれが解散となった。
フェリミアはエリックと共に今後の件の話し合いと、マーシャルは客人であるジルベルト、ヴァニラの世話を任されそれぞれの仕事に就いた。
エース達は勿論真っ直ぐと屋敷に帰る事にしたが、ルゥルゥはレミリアと病床のユリウス王に会うとの事で残り、それに伴ってラヴィもフェリミアの手伝いに呼ばれてしまった。
帰路にてエースとフレンは2人で屋敷に戻る事になった。
「ねえ…」
「んー?」
フレンが不安そうに俯き加減で立ち止まると、上の空のエースに向き直り話しかける。
エースはただやる気ない返事と共に立ち止まり、フレンに視線を向けた。
「勝てると思う?」
直球の質問に、エースの瞳の中に映るフレンはあのバルトと堂々と盗賊をやっていた様な強気な女性ではなく、不安に一杯で怯える女の子の様に映り込んだ。
少し無言になり、考えた後に頬を指で掻きそっぽを向きながら口を開いた。
「俺達隠者の弾丸は、骨折り損と無駄死にはしない主義だ。俺の妹が反対しないって事は、勝てるって事だ。俺はあいつの兄貴だから、妹を信じてる。お前は……そんな俺を信じて安心しろよ」
そう言ってフレンの肩を叩き、さっさと歩き始める。
小声で「約束したからな」と、自分に言い聞かせる様に呟いて屋敷に向かった。
屋敷に着くと、リィリヤはお昼を作り終えたばかりで笑顔で出迎えてもらい、そのままエースは2人を待たずしてお昼を食べ終えた。
「食った食った、ご馳走様リィリヤ」
そう言ってお茶を飲み干すと、席を立つエースにリィリヤはお出掛けですか?と訊ねる。
「いや、作業場に籠るから邪魔しないでくれ」
「わかりました、お茶などはお持ちしますか?」
「いや、大丈夫だ。欲しくなったら出てくるから誰も通さないでほしい」
「わかりました!」
リィリヤの返事に、エースは頭を撫でて作業室に向かう。
♢♦︎♢
エースは作業室に入ると、腕捲りをして机に散らばる部品を一つ一つ手に取って確認する。
9割の完成間近のドラグニルを見ながらため息を吐く、少しだけ考えながら意を決した様に銃身を分解していく。
基盤になる骨格だけになったドラグニルを見ながら、手元の白紙の紙に色々と書き込み窓際に移動する。
窓を開けて口笛を吹くと一羽のカラスがやってくる、このカラスは隠者の弾丸の唯一の伝達手段であり、ある決まった場所に依頼書を置くとこのカラスが持ってきてくれるのだ。
最近はカナレリア専属となり、その噂が広まった事により依頼書は来なくなっていたが、今回エースはそれを逆にある者に手紙を届ける為にお願いする。
「んじゃ、いつも通りよろしくな?」
カラスが一声鳴くと指先で頭を撫でて上げて空に飛ばす。
「さーて、久しぶりにエース様気張りますか」
と、背伸びをしながら今まで使っていたドラグニルまでも分解しながら、壊れていたドラグニルに組み替えて行く。
ずっと前にラヴィが考案した新ドラグニルの設計図を見ながら一つずつ丁寧にパーツを組み込む、今までは部品もなく新しいモデルを作る必要性が見えなかったというより、エースがめんどくさがり修復だけにしていたが、今回の件でやる気が入った様で作る事にした。
現在持っているパーツで組めるだけ組む、後はパーツが届くのを待つだけまで行くと今度は矢弾を作る事にしたエース。
普通の矢に対して決まった長さに切断し、矢尻の部分薬莢とくっ付く様に弄り、そしてこの世界の未知とされている火薬を作り上げ、それを薬莢に流し込み繋げると一本の矢弾が完成する。
それを何本も何本も作り、弾倉に入れる作業をする。
コンコンー
ノックと共にフレンが顔を出す。
「どうした?今忙しいんだが?」
ある程度矢弾を作り終えると、またカチャカチャと何かを作り始めるエースは見もせずに答える。
フレンも申し訳なさそうにおずおずと中に入って自分の弓を置く。
「あ?」
「えーっと、貴方の妹ちゃんに相談したんだけど…これ、時間余ったらやってくれないかな?」
そう言って一枚の紙も一緒に置く、それを手に取るとどうやらラヴィが考えたカスタムアーチャーの設計図だった。
どうやらフレン自身も力になりたくてラヴィと相談した際に、快く考えてもらいそれをエースに作ってほしいとの事だった。
「全く新しくなるけど、大丈夫か?」
設計図を見ながら無造作に伸ばしている髪を掻きながらフレンを見る。
「う、うん。最初は驚いたけど、一応私もカナレリアの傭兵だし……この前のはあまり役に立てなかったから、頑張ろうと思って」
「良いよ、明日またここに顔だしてくれれば試作型は作れるからまた来てくれ」
「良いの!?」
「ただし…」
エースはニヤリと笑って手をフレンに差し出した。
「材料費はお前持ちな」
「ケチ」
渋々了承したフレンは出て行く前に舌を出しながらお礼を言って行くのを苦笑交じりで手を振って見送る。
エースはもう一度設計図を見てぽりぽりと頭を掻いた。
「相変わらずめんどくさい設計図ばっか考えやがって、流石俺の可愛い妹なだけある」
と、自慢気に独り言を言いながら棚に整理されている部品パーツなどを漁り始めた。
「まずは、我が国のラーム様からの書状は拝見されましたか?」
「ああ、だが返答は貴方方からのお話も聞きたい」
「それで結構です。我々ヒルムド王国は現在危機に瀕しております」
「それはカナレリアも一緒」
ジルベルトの言葉にラヴィが一言で遮る。
「此処も最近アクストリアにアルケニアと侵攻されて、正直私達は危機と言う言葉じゃ片付けられない領域にいる。満足にカナレリア王国領と胸を張って言えるのはここ王都でしかないよ」
「失礼、お名前は?」
「ラヴィ…ラヴィ・ティラール」
「そうですか、君がラヴィ殿。失礼、ごもっともでございましょう。ですが、その問題は我々と同盟を結ぶ事こそ解決の糸口があるのです。大陸中央から北方に位置する三つの小国が滅んだのは何故か、それは一つ一つが小さく弱者、手を取り合う時間もなく潰された事が理由です。守るだけなら時間をかけさえすれば滅ぶ道しかないのです。現在カナレリアはアクストリア、アルケニアと挟まれ我々ヒルムドの援助も遠い位置の国です。今回我々ヒルムド、そしてシュヴァリトが手を取り合いアクストリアを挟み撃ちをすれば、その危機も回避できると考えました」
「そりゃ、そうかも知んねーけど。ウチは戦力になるほどの兵力はないぞー?」
エースが耳をほじりながら、気だるげに答える。
そんなエースの姿にレミリアが引きつりながらフェリミアを見る。
きっとどうにか失礼をさせるなとのアイコンタクトに、フェリミアも冷や汗をかきながらエースの前に移動してジルベルトから見えなくしながら会話に入る。
「彼はエース・ティラール、一介の傭兵ですが、腕は確かで…」
「大丈夫です、フェリミア殿。彼等が噂の隠者の弾丸でしょう?一度お会いしてますよ」
ニコリと笑うジルベルトに、フェリミア、レミリア、それにエリックもホッと胸を撫で下ろした。
エースは更に口を挟む、彼の中では無駄な消耗がしたくないのか拒否の意見を口する。
「俺達はこの前大敗したばかりだ、やっとの思いで追い払う事しか出来ないんだから足手まといだろうよ」
「いやいや、それが大いに力になりましょう。二大国から攻められても崩れない力。今もこうして健全な王都を見て強く思いました。我々は別に一緒に戦うだけが目的ではありません。その先の事もアクストリアを侵攻する意味があるのです。考えて見ましょう、アクストリアが無くなればどうなるか。ヒルムドとカナレリアその間の大きな壁も無く、我々反対連合と合流できるのです」
反対連合、五つの大国の内たった一つの大国オルカニアを筆頭に隣接する小国ヒルムドを入れたカナレリア以外の小国と同盟を結び徹底交戦している。
カナレリアもそこに加えられれば、確かに今と違い圧倒的優位に進められる。
だが、アクストリアは大陸一の武闘国家であり簡単には倒せない。
先のアクストリア戦は奇跡であり、運も味方にしていたのが大きいからだ。
エース自体、勝手にヒルムドとシュヴァリトがアクストリアを攻め滅してもらう事の方が楽でカナレリアに被害が及ばないと考えていた。
だが、そんな兄の意見を知ってか知らずかラヴィが進言する。
「やるべき」
その言葉に同調する様に、笑顔でルゥルゥも賛同の声を上げる。
「そうね、これは願ってもないチャンスね」
「は?ルゥルゥお前確か【不戦条約】が」
「それは唯一アクストリアには無いわ、十の国に対して私は過去に支えたり親交があるけれど…アクストリアは唯一魔法をあまり使うことを嫌っていたのよ昔は。だから私は親交も無いし条約も結んでいない。今奇跡的にカナレリアに舞い降りたのだから、手を貸してあげても良いと思ってるわ」
ルゥルゥがレミリアを見ながら、にっこりと笑いかけて言う。
【不戦条約】、ルゥルゥの実力と自由な性格により国々と契約を結んだ自分自身の魔法の呪いでもある。
それがある限り、ルゥルゥはどこへでも自由で、それ故敵対する事もない決まりになっている。
現在では多少アクストリアも魔法部隊などを作ってはいるが、正直なところそれは飾りに近く弱い。
アクストリアの持ち味は野戦と個々の力なのだ、前回のアクストリアはたまたま力のない強欲が取り柄のアレクセイが相手だったからだ。
今回はその一個大隊だけでなく、国全てに喧嘩を売るのはリスキーなのだが、レミリアはフェリミアと顔を見合わせてルゥルゥとラヴィの言葉を受け入れた。
「良いでしょう、これより私が代理で同盟を結ぶ事を認めた書状を用意します」
レミリアの返事に満足したジルベルトは一礼する。
マーシャルに案内され2人は客室に向かうために部屋を出たのを、ラヴィは確認してレミリアの前に出る。
「レミリア、いくつか条件を入れよう」
「ラヴィさん?」
その言葉にフェリミアが困った様に反応するも、ラヴィは話を続ける。
「ただ闇雲に手を貸して同盟じゃ意味がない。勝った後の事を話すのも大事、戦う為の事を話すのも大事だよ。今此処はかなりの疲労と消耗で国として動かすのギリギリ、その中で戦争するのは正直無謀」
「でも、ラヴィちゃん…さっき良いって」
「うん、だからアクストリア戦は戦争で使う物資なんかをヒルムドとシュヴァリトに賄って貰う。これが第一条件、二つはアクストリア領を均等に三つに分配領土権は話し合いにて決める事を条件にして」
「そこまでしなくても、ヒルムドは旧くからの親交がありますよ?」
フェリミアの言葉にエースがため息混じりに交ざる。
「これは戦争だ、親交があろうが同盟に対してもカナレリアが損する事は絶対起きちゃいけねーし、今は風吹けば崩れるぼろ家な状態だ。そういう所はしっかりと言っとかねーと後々困るって事だろ?」
「うん、エースの言った通り。盟約は必須、ヒルムドとは仲良しでもシュヴァリトはそうでもないでしょ?」
「確かに、レミリア様。ここは書状の内容は私が書いてもよろしいですか?」
「いいわ、お願いねフェル」
話がまとまり、それぞれが解散となった。
フェリミアはエリックと共に今後の件の話し合いと、マーシャルは客人であるジルベルト、ヴァニラの世話を任されそれぞれの仕事に就いた。
エース達は勿論真っ直ぐと屋敷に帰る事にしたが、ルゥルゥはレミリアと病床のユリウス王に会うとの事で残り、それに伴ってラヴィもフェリミアの手伝いに呼ばれてしまった。
帰路にてエースとフレンは2人で屋敷に戻る事になった。
「ねえ…」
「んー?」
フレンが不安そうに俯き加減で立ち止まると、上の空のエースに向き直り話しかける。
エースはただやる気ない返事と共に立ち止まり、フレンに視線を向けた。
「勝てると思う?」
直球の質問に、エースの瞳の中に映るフレンはあのバルトと堂々と盗賊をやっていた様な強気な女性ではなく、不安に一杯で怯える女の子の様に映り込んだ。
少し無言になり、考えた後に頬を指で掻きそっぽを向きながら口を開いた。
「俺達隠者の弾丸は、骨折り損と無駄死にはしない主義だ。俺の妹が反対しないって事は、勝てるって事だ。俺はあいつの兄貴だから、妹を信じてる。お前は……そんな俺を信じて安心しろよ」
そう言ってフレンの肩を叩き、さっさと歩き始める。
小声で「約束したからな」と、自分に言い聞かせる様に呟いて屋敷に向かった。
屋敷に着くと、リィリヤはお昼を作り終えたばかりで笑顔で出迎えてもらい、そのままエースは2人を待たずしてお昼を食べ終えた。
「食った食った、ご馳走様リィリヤ」
そう言ってお茶を飲み干すと、席を立つエースにリィリヤはお出掛けですか?と訊ねる。
「いや、作業場に籠るから邪魔しないでくれ」
「わかりました、お茶などはお持ちしますか?」
「いや、大丈夫だ。欲しくなったら出てくるから誰も通さないでほしい」
「わかりました!」
リィリヤの返事に、エースは頭を撫でて作業室に向かう。
♢♦︎♢
エースは作業室に入ると、腕捲りをして机に散らばる部品を一つ一つ手に取って確認する。
9割の完成間近のドラグニルを見ながらため息を吐く、少しだけ考えながら意を決した様に銃身を分解していく。
基盤になる骨格だけになったドラグニルを見ながら、手元の白紙の紙に色々と書き込み窓際に移動する。
窓を開けて口笛を吹くと一羽のカラスがやってくる、このカラスは隠者の弾丸の唯一の伝達手段であり、ある決まった場所に依頼書を置くとこのカラスが持ってきてくれるのだ。
最近はカナレリア専属となり、その噂が広まった事により依頼書は来なくなっていたが、今回エースはそれを逆にある者に手紙を届ける為にお願いする。
「んじゃ、いつも通りよろしくな?」
カラスが一声鳴くと指先で頭を撫でて上げて空に飛ばす。
「さーて、久しぶりにエース様気張りますか」
と、背伸びをしながら今まで使っていたドラグニルまでも分解しながら、壊れていたドラグニルに組み替えて行く。
ずっと前にラヴィが考案した新ドラグニルの設計図を見ながら一つずつ丁寧にパーツを組み込む、今までは部品もなく新しいモデルを作る必要性が見えなかったというより、エースがめんどくさがり修復だけにしていたが、今回の件でやる気が入った様で作る事にした。
現在持っているパーツで組めるだけ組む、後はパーツが届くのを待つだけまで行くと今度は矢弾を作る事にしたエース。
普通の矢に対して決まった長さに切断し、矢尻の部分薬莢とくっ付く様に弄り、そしてこの世界の未知とされている火薬を作り上げ、それを薬莢に流し込み繋げると一本の矢弾が完成する。
それを何本も何本も作り、弾倉に入れる作業をする。
コンコンー
ノックと共にフレンが顔を出す。
「どうした?今忙しいんだが?」
ある程度矢弾を作り終えると、またカチャカチャと何かを作り始めるエースは見もせずに答える。
フレンも申し訳なさそうにおずおずと中に入って自分の弓を置く。
「あ?」
「えーっと、貴方の妹ちゃんに相談したんだけど…これ、時間余ったらやってくれないかな?」
そう言って一枚の紙も一緒に置く、それを手に取るとどうやらラヴィが考えたカスタムアーチャーの設計図だった。
どうやらフレン自身も力になりたくてラヴィと相談した際に、快く考えてもらいそれをエースに作ってほしいとの事だった。
「全く新しくなるけど、大丈夫か?」
設計図を見ながら無造作に伸ばしている髪を掻きながらフレンを見る。
「う、うん。最初は驚いたけど、一応私もカナレリアの傭兵だし……この前のはあまり役に立てなかったから、頑張ろうと思って」
「良いよ、明日またここに顔だしてくれれば試作型は作れるからまた来てくれ」
「良いの!?」
「ただし…」
エースはニヤリと笑って手をフレンに差し出した。
「材料費はお前持ちな」
「ケチ」
渋々了承したフレンは出て行く前に舌を出しながらお礼を言って行くのを苦笑交じりで手を振って見送る。
エースはもう一度設計図を見てぽりぽりと頭を掻いた。
「相変わらずめんどくさい設計図ばっか考えやがって、流石俺の可愛い妹なだけある」
と、自慢気に独り言を言いながら棚に整理されている部品パーツなどを漁り始めた。
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