隠者の弾丸

桐条 霧兎

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第1章 カナレリア王国

第4話 NAUGHTY A THIEF①

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 屋敷の生活にも慣れたティラール兄妹、世間一般的には隠者の弾丸ハーミット ブレッドなどと呼ばれてもいる。

 そんな彼等は日中なにをしているかというと、エースは作業部屋にて壊れたドラグニルを新しく組み直し、ラヴィは城へとフラフラ歩き書庫に入り浸る日々を送って居た。

 だが、今日は珍しくエースとラヴィは食事兼客間に2人して座っている。
 正面には長い金髪を後ろに束ね、すっとした美形の男、フェリミア・ガーナバルトが座る。

「盗賊?」

 嫌そうな表情で無造作に伸ばした白銀の髪を掻き分けながらエースは、フェリミアから伝えられた事を復唱する。

「ああ、戦争が起こる前にカナレリアを賑わせた二人組の盗賊が、また活発に動き始めたと情報が入った」

「んなもん、エリック達の仕事だろ」

 ダルそうな瞳でフェリミアに視線を向けながら言う。
 ラヴィも腰まで伸ばした白銀の髪をゆらゆら可愛く揺らしながら本を読みふけるも、エースに同意と頷く。

「もちろんエリックは既に動いているが、例の盗賊は避難してきた村人達の村々を漁っているんだ」

 アクストリアを退けても、今だ避難してきた民達は王都に多く滞在している。
 最近になって収まりきらない避難民達の為に、新しく土地開発を行うために王都の隣に簡易な町を作り始めている。
 もちろん王の命令とフェリミアの考案で動いている。

(その様子じゃ、1億Eはまだ先だな)

 と、呑気な考えをしているエース。

「俺達に提示した条件は国の危機だろ?アクストリアや他の奴等が攻め込んできたわけじゃねーんだから」

「いや、条件は合う。国の危機だ、時間が経てば民の財産が減る、王への不満が起こりうる」

「どーする妹よ」

 読書家のラヴィにエースが話を振る。

「…」

「おーい」

「……」

「ラ、ラヴィちゃーん」

「…何?」

 ラヴィちゃんに反応して不機嫌そうに本から顔を上げる。

「聞いてた?」

 エースの問いに、また何が?と首を傾げる。

「ラヴィ君は随分難しい本を読んでいるな、レムリア新書なんて、その歳でまず読まないよ」

 感心した様にフェリミアが本を指差す。

「面白いよ、この間お城の書庫で見つけた」

「つまんなそーだぞ、それ」

 フェリミアの反応に隣に座るラヴィに顔を近づけ本を覗くと、引き気味にエースが言った。

「だからエースはバカなんだよ、頭の回転は早いのに知識が虫」

「辛辣ぅー!ラヴィさんお兄ちゃんに辛辣ー!」

「盗賊をやっつけたいんでしょ?フェル、被害にあった村とかはわかってるの?」

 胸を抑えながら倒れこむエースを無視しながら、しおりを挟み本を閉じてフェリミアに視線を向ける。

「ああ、全部とは行かないが…」

「そう、リィリヤ」

 ラヴィは本を机に置くとキッチンの方面に声をかける。
 奥からパタパタと足音を立てながら忙しなく現れたメイド服を着た女性が顔を出す。

 まるで陽に当たった森の様な綺麗な髪色、長く腰まで伸ばした長髪をポニーテールに、身長はマーシャルと変わらない程、顔立ちは少し幼い様でラヴィ、マーシャルとそこまで差はない少女だった。

「はい、ラヴィ様。お呼びですか?」

「カナレリアの地図ってある?」

「はい、確かこの前空室のお部屋を掃除してましたら発見致しました」

「持ってきてくれる?」

「少々お待ちください。フェリミア宰相様、飲み物のおかわりはいかがですか?」

 ニコニコとしながらフェリミアの空いたカップに紅茶を注ぐ。

「ありがとうリィリヤ、だいぶ慣れたかな?」

「はい、御二方がとても優しくて、楽しくお仕えしております。それではラヴィ様、すぐお持ち致しますね」

 一礼すると、またパタパタと足音を立てて退室するリィリヤ。

「彼女で正解だったかな?とても素直で賢い子なんだ」

 どうやらリィリヤをティラール兄妹に選んだのはフェリミアだった様だ。

「うん、とっても優しくてご飯もお茶も美味しい」

「気がきくしな、ありがとなフェル」

 2人が笑顔で言うと、フェリミアは嬉しそうに紅茶を口に運ぶ。

「お待たせ致しました、こちらがカナレリアの地図でございます」

 リィリヤがせっせと大きな紙を持ってくると机に広げ始める。ラヴィはそれを覗き込む。

「ここが最初に被害を受けた村だ、そしてここと、ここ…」

 フェリミアが1つ1つ順番に指を指して行き、ラヴィはペンで印を付けて行く。

「こりゃ…」

 エースがふと何かに気付いたような表情になる。

「エース様、何かお気付きになったのですか?」

 リィリヤがエースの反応に気付き声をかけると、ラヴィが応えた。

「最初は東の一番端、アクストリア領に近い所…そこから順に徐々に南下して来て王都方面に向かってる」

「二人共流石だね、推測通りだ。そしてここ王都に1番近いアリアナ村が被害にあったのを3日前に確認した」

「近いし最近じゃないですか」

 リィリヤが口元に手を当てる。

「エリックと話をして同じ考えに至ったよ、これは盗賊が国に対して戦線布告し、次は王都なんじゃないかとも考えた」

「んな、まさか。だってよ、避難してがら空きの村しか狙ってねーんだろ?」

 エリックの反論にラヴィが口を開く。

「否定はできないよエース」

 地図を見続けながらラヴィが言う。

「挑戦的に攻めて来てると思う、理由は印を結び付けると簡単…。無数にまだらにあるはずの村をしらみ潰しに漁ってるわけじゃない、湾曲に王都へ繋がるように狙ってる。今まで漁った村が6ヶ所、私達が同じ立場ならアクストリアの近くを中心に狙ってるペースだよ」

「その通りだ、ラヴィ君の言うようにアクストリアの近くには10近くの村が存在している。そこで被害にあったのは二ヶ所のみ、1番始めの被害にあった村の真隣は狙わずにだ」

 ラヴィの説明にフェリミアが補足して地図に書き足しながらエースに言う。

「否定させてくれよ、めんどくせーから」

「エース、これは否定する方が無理な動き方だよ」

 さらにダラけた表情になるエースに、ラヴィが言う。

「そこまで理解してるならエリック達で動けるだろ?なんでわざわざ俺達が動かなきゃならん」

「でた、バカ兄のニート魂」

「ラヴィさん!?ニート魂って何?…俺は対価が無きゃやらない質なんですぅー、それにご本ばっか読んで引きこもってる子に言われたくないわっ!ぷんぷんっ」

 子供の様に膨れるエースを尻目に、ラヴィは考える仕草を取る。

「なんで途中で活動をやめて、なんで今ここで動いてるんだろう」

 そんな疑問を純粋にラヴィが口にする。

「戦争に入り、がら空きとなった村は絶好の盗み場だからだと思うが」

 そんな分析にフェリミアが答える。

「そうかな…」

「何か、気になるのかい?」

 納得のいかないラヴィにフェリミアが聞く。

「単純に考えてそうなんだけど、この印を見るとそうじゃない気もする」

 地図を指差しながら湾曲に線を繋げられる印した村々をなぞりながら呟く。

♢♦︎♢

 カナレリア王国のある廃村にて、黒マントの二人組が一軒の家にいた。
 屋根は腐り落ち、雨風凌げないボロボロの家でまともなソファに1人が寝そべりながらあくびをする。

「気付いたかな?」

 もう1人がソファに寝そべる者を見ながら、問いかける。
 声からして女性の様だ。

「ふあー…あ。カナレリアの宰相様や、あの隠者の弾丸なら気付くだろ、多分。アクストリアの3万の兵を退けたあれがマグレじゃなけりゃな」

 身体を起き上がらせながら言う。

「つまんない世界が、やっと面白くなってきた矢先に最高のオモチャ・・・・が現れたんだ。精々退屈させないでくれよ、隠者の弾丸ハーミット ブレッド兄妹…」

 目元まで隠れたフードから、僅かに見える口元が笑う。

「そうね、わたしも同じ弓使いとしてあのヘンテコな矢は気になるわ」

♢♦︎♢

 カナレリア王都、玉座の間にて王の前にエリック、フェリミア、マーシャル、ティラール兄妹が立っていた。

 玉座の横にレミリアも座っている。

「報告を聞こう、フェリミア」

 また少し疲れが増した表情を見せながら、王が口を開く。

「最近村人達が避難の為に空村になっている村々がある盗賊に狙われています。被害場所は…エリック」

「ああ」

 フェリミアの指示にエリックは手元の地図の端を持ち、もう一方をマーシャルに渡すと広げた。

「こちらの丸印は、被害があった村です」

 1つ1つ被害状況を説明する。

「見てわかる通り、湾曲になぞると綺麗に王都へと結び付きます」

「盗賊の狙いは王都か?」

 地図を見つめながら顎に手を当てながら王が聞いた。

「ええ、何を狙っているかはわかりませんが…ラヴィ君の推測通りだと間違いなくここを狙うとの事です」

「そう、喧嘩売ってる」

 ラヴィが静かに頷きながら答えた。

「狙いはなんなのかしら」

 レミリアが唸る様に考える。

「あー多分だけど…」

 そこでずっと退屈そうにしていたエースが手を上げた。

「教えてくれないか?」

 王の問いにずいっと前に出るエース。

「多分こいつら遊んでる?つーか、挑発してる」

「遊んでいる…ですって?」

 バカバカしいとレミリアが口を開く。

「やぁー俺もそう思うだけどさ、こいつらは戦争が始まった時にピタッと動くのやめたんだろ?」

「ああ、そうだ」

 エースの問いにフェリミアが静かに答えた。

「それと戦争前のこいつらはそんな事してくる奴等だったのか?」

 王への視線から後ろに並んでいるメンバーに問いかけるエース。

「いや、そんな報告は受けていない。戦前は派手な事をしなかった、行商人の馬車を詐欺紛いな事をしては荷物を盗んでいたり…」

 フェリミアの言葉に大きく頷くとエースはさらに言葉にする。

「そう、こいつらは頭を使った盗賊だ。俺よりは劣るが、人を騙し被害の少なさと自分達の負担を極端に減らすやり口は俺と同じ匂いがするな」

「確かに」

 エースの話にラヴィが納得した表情へ変わった。

「そう、エースだ」

「ラヴィ様、エース様、陛下や僕達にわかる様に説明できますか?僕はさっぱりです」

 2人で納得し合っていると、恐る恐る手を上げながらマーシャルが言った。

「悪りぃ悪りぃ、怠け者に遊び人って事だよ」

「…わからんぞエース」

 半笑いのエースにエリックが首を傾げた。

「まあ、俺達に任せとけよ」

「そうそう、ただ一つだけやってほしいことがあるかな」

 ティラール兄妹達が悪巧みな笑顔を向ける。

♢♦︎♢

 闇夜を照らす月の光、今宵は満月。
 王城を囲む城壁を眺める黒マントの二人組がいた。

 王都は外壁に囲まれ、その中の王城には、更に城壁で囲まれた都全体が要塞となっている。
 王城に入るには大体四つに区分けされた1つ住居区のみ門があり、二人組はその反対方向真逆に位置する港区の一角の屋根に立っていた。

『現在国宝のマテリアは謁見の間にて避難民達が王に会いにきた際に安らぐ様展示されている』

 そんな噂を耳にした二人組。

「ねえ、狙いは…」

「わーかってるって、変更無しだ」

 くっくっくっと笑いながら屋根から降りて城壁に近寄るとロープを投げ入れる。
 ロープの先には錨が付いており、城壁の壁に引っかかったのを引っ張りながら確認すると、するする慣れた動作で城壁をよじ登る。

 城壁の上では巡回兵が背筋を真っ直ぐ伸ばし槍を片手に見張りをしている。

 巡回兵にバレない様登り終えると、すぐ様背後に周り気絶させる。

「誰だ!…がっ!?」

 背後からの声に素早く反転すると、声を上げた兵士が倒れこむ。

「気をつけてよ、もう」

「ひゅー、あっぶねー」

「もう…、狙いは反対側よ?」

「わかってるって、ここを登ってすぐ様降りる。めんどくさくても、こうして侵入した方がスリルがあって久しぶりに楽しいだろ?」

「あっそ、じゃあ急ごう。今夜は満月で月明かりが強くてヒヤヒヤする」

 気絶させた兵士達を引きずりながら隠すと城壁を飛び降りて王城内に入り込んだ。

 一切城へと入ろうとせずに通り過ぎると、小さな屋根を見つける。

「あそこか?」

「ええ、間違いないわ」

 そこはティラール兄妹、隠者の弾丸が住んでいる屋敷だった。

「くくっ、楽しませろよ」

 草陰から素早く走り屋敷に近付こうとした瞬間、突如屋敷前から兵士達が現れ始める。

「まさか、本当に現れるとはな」
 
 兵士の間からエリックが魔剣を引き抜きながら現れる。

♢♦︎♢

 ……。

「やってほしい、事ですか?」

 フェリミアがラヴィに聞く。

「そう、噂を二つばら撒く」

 ラヴィがおもむろに背中に背負っていたカバンから青白く光る鉱石を取り出す。

「そ、それって!」

「おい、なんでお前達が国宝の"マテリア"を持っている!?」

 マーシャルとエリックが慌てながら2、3歩思わず後ずさる。

 カナレリアの国宝"マテリア"、原石は魔導士の人間に備わっている魔力を生み出す元素"マナ"の結晶体。
 遥か昔に、ここカナレリアに伝説となった魔導士が自らの命を賭して成ったとされる鉱石。

 何故、国宝がラヴィのカバンから出てきたか、それはアクストリアとの戦に勝利した後の1億Eのやり取りに続きがある。
 フェリミア、そして国王のみが知っている事。

 全てのやり取りを終えたティラール兄妹に、住む事になる屋敷へと案内途中の事、フェリミアを先頭にティラール兄妹と3人が歩いていた際に、こんなやり取りをしていた。

『今後もしも、我々が負けて国が滅んだ場合…君達も屋敷には住めず結局骨折り損になるだろう』

『はっ…お陰様で』

『ふっ、安心しろ。これを持っていてくれ』

 そう言ってフェリミアは強固な物で作られた箱を2人に差し出す。

『なんだ、これ?』

『重い…』

 眠そうなラヴィが一瞬持つとエースに渡す。

『こらこら、厳重に大切に保管してくれ、それは担保として持っていてくれ。中身は国宝"マテリア"』

『はあ!?』

『マナの…結晶体』

『そうだ、もしもの場合それが君達に1億Eの代わりになる対価だ』

『1億以上の価値だぞ』

 驚きの隠せないエースにフェリミアは落ち着いて答えた。

『滅んだらだ、それまでは勿論我がカナレリアの物だ。滅んでしまえばそれは俗国の物になる。そんな事になるなら、陛下と話し合って君達に譲る事にした、それまでは大切に保管しておいてくれ』

 そんなやり取りをラヴィが驚く2人に説明した。

「本気ですか陛下!?」

「マテリアなんて世界にそれしか存在しない、生きた神話の塊みたいな物ですよ!?」

 納得しない表情で2人が国王に詰め寄る。

「誠だ…だか…」

 王は目を瞑りながら頷くと、エリックやマーシャルと同じように困惑していき冷や汗を垂らしながらラヴィを見る。

「なぜ、裸で持っておるんだ・・・・・・・・・

 そう、ラヴィの手元にはあの強固な箱はなく、気持ち布切れを2、3枚重ねて包んでいるマテリアがそこにあった。
 …国宝"マテリア"が小さいラヴィの手にあった。

 その言葉にラヴィ以外の者達が一斉に汗を吹き出し青ざめる。

「ラ、ラヴィ…来る時は箱あったよな!?」

 エースすらも驚きの声をあげる。

「むぅ、エースが持たないから重いのは置いてきた」

「な、なにぃ!?」

 むっすぅーと少し鼻息を荒くするとラヴィがそっぽを向く。

「ラヴィさん?そいつの価値はおわかりですよね?」

 エースが慌ててマテリアを優しく取り上げて布に包む、自身の上着すらも脱いでまで包む。
 あのエースすらもマテリアは世界中認知している伝説の鉱石なのだ。

「だって、重い」

 反省の態度を全く見せず、か弱さの意思を押し通す。

「そこのお前!急いで屋敷に戻ってリィリヤから箱受け取って来い!」

 エースが近くにいた兵士に声をかけると、兵士は目に物見せない速さで飛び出す。

 すぐ様戻って息切れを起こしながら兵士が帰ってきた。
 箱を受け取るとエリックが箱を開け、エースがゆっくりとしまう。

「「ふぅー」」

 と、その場にいた全員が安堵する。

「じゃないっ、貴様こんな重たい物を妹に持たせようとしたのが事の始まりじゃないか!!」

 エリックが我に返りエースを叱責した。

「わ、悪い…いや、ほんとすんません」

「ま、まあ…傷は付いてなさそう…ですが」

 フェリミアも普段冷静な男であるが、こればかりは少し冷や汗をかきながら箱の中身を確認する。

「むぅー…うっさい。これから言う事を聞いて!」

 ラヴィが拗ねながら声を上げた。

「一つ、そのマテリアを謁見の間に不安を抱えて訪れる人達を安心するとか理由で展示するって噂流して」

 人差し指を見せる。

「二つ、隠者の弾丸の住処…私達の屋敷を噂でバラして」

 ラヴィの言葉にフェリミアは考えながら口にする。

「一つ目は餌として、二つ目はなぜだい?」

「それは、可能性がどっちも薄くてどっちも可能性がある物だから」

♢♦︎♢

(まさか、ほんとにどちらかが正解だったとはな…感心するなお嬢ちゃん)

 エリックは笑みを浮かべながら、目の前にいる黒マントの二人組に近寄る。

 マテリアの警護にはここの倍以上の人数でフェリミアが見張っている。

「観念しろ」

 そう言うとエリックは真っ直ぐに駆け出すと、黒マントの1人が腰から二本の剣を引き抜くと、同じタイミングでエリックに駆け出す。
 もう1人はすぐ様後退し、弓を構えてエリックに向けて放つ。

 味方の首筋のフードを擦りながら正確にエリックの額を狙う。

 ドンッと重低音が鳴る。

「うっそ…」

 エリックの額に届く前に矢は真っ二つに折れたのだ。

「あれが、アクストリアのか!」

 笑い声に混じった声で双剣使いの黒マントがエリックめがけ跳ぶと、腰を入れながら首元めがけ剣を振る。

 カキンッと火花を散らしながらエリックはギリギリの所で魔剣で防ぐ。

(こいつ、できる)

 双剣の連携技をかわし、防ぎながらエリックは思った。

「師団長!」

「動くな!!」

 味方の兵が動こうとするのをエリックが止める。

「よそ見すんなよ師団長様」

「くっそ!」

 若干エリックが押され、態勢を崩しかけたのを狙い双剣使いが構えようとするも、何かを察知し飛んで来るものを剣で弾き味方の元に後退る。

「マジかよ、見えんのか夜でも」

 エースが驚きと呆れた表情で兵士達の後ろからラヴィと共に現れる。

「ちぇ、人数少ないから手伝いまーすとか言って、部屋で寝ようとしてたのにビンゴとはねぇ~、流石俺の自慢の妹、ラヴィ様なこって」

「えっへん」

 可愛い仕草で胸を張るラヴィに髪を撫で、肩にドラグニルの銃身を乗せながらエリックの横に立つ。

「あれれ~師団長様~?もしかして、危のうございました?」

 バカにしたニヤけた表情でエリックを見る。

「う、うるさい」

 若干肩で息をしているのを見てエースが真面目に感心する。

(ラヴィさんは俺と違って身体能力は高い…そんなラヴィと暇な時エリックが組手してんの見てたけど、あのエリックが若干圧されるとはな)
「ラヴィ、エリックとあの双剣野郎を捕まえろ。俺はあそこにいるレディを相手にする、弓同士仲良くしよーぜお姉さん?」

「1人は女だと?」

 エリックの問いに、黒マントの2人が顔を見合わせフードを脱ぐ。
 双剣使いが月明かりに照らされた、赤く輝く瞳、そして短髪の黒髪に襟足のみ少しばかり伸ばし一つに束ねた男。
 フェリミアと変わらず、エースより上、エリックより下の身長、ニヤリと笑うと八重歯が見える。

「はっはっは、やっぱり隠者の弾丸お前達は面白いな、そう思うだろフレン?」

「そうね、バルト」

 弓を持つフレンと呼ばれた者が次にフードを外すと同じく黒髪ショート、華奢な肉付きだがエースの視線を奪う胸の大きさが目立つ。
 身長マーシャルより少し高く、目元にホクロが見え、妖艶な紫の瞳で笑いながらエースを見る。

「お、おお~~」

 思わずエースが声を漏らすと後ろの兵士達も若干興奮している様に見える。

「おいエース、ふざけている場合か」

「無駄だよエリック、あの女の人…できる」

「できるとは、やり手か?」

 エースの反応にラヴィが冷や汗を流しながらごくっと喉を鳴らす。

「エースのストライクゾーンど真ん中のお姉さん巨乳タイプ」

「………」

 ラヴィの恐ろしい物を見る目にエリックがア然とした。

「エース、目を覚ませバカ!」

 思わず味方のエースを魔剣で小突く。

「イテッ…何しやがんだっこの脳筋ファッキン野郎!」

「お前が中々帰って来ないからだろ!」

「ふっざけんな、見ろあのおっぱい!あれに何も感じないとか、お前さてはロリコンだな?」

「何をこんな時にバカな事を!」

「はっ、さては俺のマイエンジェルシスター、俺の心の中のアイドゥルラヴィに惚れてんな?!やらんぞ!お兄さんは貴方を婿とは認めまッゼッパァー!!!?」

 止まらないエースに思わずラヴィが溝に回し蹴りを入れた。
 どさりと崩れ落ちるエースを一瞥しながら双剣使いのバルト、弓使いのフレンと名乗る盗賊に視線を向ける。

「良くもやったな」

「あっ!?」

「え?」

 誰がどう見てもラヴィによる回し蹴りを目撃し、その打撃によって崩れ落ちたエースを見ながら、ラヴィは復讐を誓う健気な妹を演じながら2人を睨む。
 2人は思わず間抜けな声で固まる。

「許さない」

「いや、お嬢ちゃん……エースはお嬢ちゃんが…」

「エリック…」

「は、はい!」

「構えて」

「はい!」

 何も言わせないラヴィがエリックを睨みつけると、エリックは魔剣を慌てて構える。
 ラヴィも太ももに取り付けたナイフを二本鞘から引き抜き構える、

「そういう定で戦おう」

 ラヴィが真面目な顔で2人に向けて言った。
 

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