30 / 32
第三十話
しおりを挟む
広い中庭にある大きな樫の木を眺めていた。もうずっと精神的に疲れていたから。何かぼんやりとしていたいと思ったのかもしれない。暖かい風に吹かれながら、穏やかに小説を読むだなんていつぶりだろうか。とても落ち着く。あとはすべて裁判所がいろいろやってくれると思うし、私はエリックと結婚して、結婚生活を謳歌するだけ。
それを思うと、大人ながらとても心躍るし、なんて幸せな日々なんだろうと思える。心の荷が下りるとここまで楽に過ごすことが出来るのね。
そんな風に物思いにふけっていると、足音が聞こえてきて、一枚の茶封筒が目の前にさせだされた。持っている人間を見ると、エリックだった。
「これは、ミーナの居場所が書かれている」
「それ、どういうこと?なぜ?」
そう言われて驚き、思わず私は眉をひそめた。
一応ミアのことも追おうとは思っていたものの、ミーナは六歳の時から人を騙して、姿をくらますことにも長けていた。そのためミーナを見つけて逮捕しようなんてことは私ができることではないと思ったのだ。それに彼女は私と同じぐらい策略家で、たぶん私が何か仕掛けようとしていたことに気づいていた。だから私がカールのところへ到着する直前、知らない男の馬車に乗り、姿を消したと聞き面食らった。
「実のことを言うと、あの舞踏会の時、ミーナから一つの手紙を渡されていた。その手紙の中身は連絡先だった。それから俺以外にも連絡先を貰っている人物が居たらしいから。その人をしらみつぶしに探していたら、運よく見つかった。今頃すでに他のお所のところへ身を寄せているかもしれないけどな」
「それでも、ありがとう」
茶封筒を開けて、中身を見てみると、ミーナがまだ王都にいることが分かった。私から逃げているというのに、王都に悠々といるとは、中々肝が据わっている。
立ち上がり、茶封筒に紙を仕舞った。
「これは騎士団に渡しましょう。私はもうすべての体力を使い切って、もうほとんど力なんて残っていやしないから。それに騎士団の方がこの女をずっと捕まえたいはずよ。相談箱の中に、ミーナの相談がいくつも寄せられていたもの。それでもいい?」
「お前がそれでいいなら、それでいい」
眠そうに目をこすりながら、エリックは屋敷の中へ歩いていく。その背中を見ていると、なんだかとても申し訳なくなってしまった。今までさんざん、私のことに振り回してしまって、最初なんて、とても失礼なことをしてしまった。
「ありがとう。ここまで一緒にやってくれて。本当に助かったの。辛かった時も、貴方が心のよりどころだったし」
「別に。俺がやりたくてやったことだ」
足を止め、エリックは平然とそう言った。分かってる。貴方がずっと私のこと好きで、ただ純愛に私のことを助けてくれたこと。
「こんな私にできることなんて、そう多くないし、仕事が大好きな女だから。恩返しみたいなことできないけど、私にできることをさせて」
背中を向けていたエリックは私の方を向いて「ただ」と静かに言った。私と目を合わせようとはしない。
「一生俺のそばに居てくれればそれでいい。それ以外は何もない。眠いから寝る」
恥ずかしそうに前を向いていたけれども、耳がほんのり赤くなっていることが私は分かった。こういうことは本当に苦手なのだろう。確かに分かっていたことだけれども、見ている方としては面白い。
でもきっと好きでもない女性と結婚していた時は、もしかしたら嘘とか。子作りとか……
「私も一緒に寝るわ。最近ずっと休めてなかったから」
それを思うと、大人ながらとても心躍るし、なんて幸せな日々なんだろうと思える。心の荷が下りるとここまで楽に過ごすことが出来るのね。
そんな風に物思いにふけっていると、足音が聞こえてきて、一枚の茶封筒が目の前にさせだされた。持っている人間を見ると、エリックだった。
「これは、ミーナの居場所が書かれている」
「それ、どういうこと?なぜ?」
そう言われて驚き、思わず私は眉をひそめた。
一応ミアのことも追おうとは思っていたものの、ミーナは六歳の時から人を騙して、姿をくらますことにも長けていた。そのためミーナを見つけて逮捕しようなんてことは私ができることではないと思ったのだ。それに彼女は私と同じぐらい策略家で、たぶん私が何か仕掛けようとしていたことに気づいていた。だから私がカールのところへ到着する直前、知らない男の馬車に乗り、姿を消したと聞き面食らった。
「実のことを言うと、あの舞踏会の時、ミーナから一つの手紙を渡されていた。その手紙の中身は連絡先だった。それから俺以外にも連絡先を貰っている人物が居たらしいから。その人をしらみつぶしに探していたら、運よく見つかった。今頃すでに他のお所のところへ身を寄せているかもしれないけどな」
「それでも、ありがとう」
茶封筒を開けて、中身を見てみると、ミーナがまだ王都にいることが分かった。私から逃げているというのに、王都に悠々といるとは、中々肝が据わっている。
立ち上がり、茶封筒に紙を仕舞った。
「これは騎士団に渡しましょう。私はもうすべての体力を使い切って、もうほとんど力なんて残っていやしないから。それに騎士団の方がこの女をずっと捕まえたいはずよ。相談箱の中に、ミーナの相談がいくつも寄せられていたもの。それでもいい?」
「お前がそれでいいなら、それでいい」
眠そうに目をこすりながら、エリックは屋敷の中へ歩いていく。その背中を見ていると、なんだかとても申し訳なくなってしまった。今までさんざん、私のことに振り回してしまって、最初なんて、とても失礼なことをしてしまった。
「ありがとう。ここまで一緒にやってくれて。本当に助かったの。辛かった時も、貴方が心のよりどころだったし」
「別に。俺がやりたくてやったことだ」
足を止め、エリックは平然とそう言った。分かってる。貴方がずっと私のこと好きで、ただ純愛に私のことを助けてくれたこと。
「こんな私にできることなんて、そう多くないし、仕事が大好きな女だから。恩返しみたいなことできないけど、私にできることをさせて」
背中を向けていたエリックは私の方を向いて「ただ」と静かに言った。私と目を合わせようとはしない。
「一生俺のそばに居てくれればそれでいい。それ以外は何もない。眠いから寝る」
恥ずかしそうに前を向いていたけれども、耳がほんのり赤くなっていることが私は分かった。こういうことは本当に苦手なのだろう。確かに分かっていたことだけれども、見ている方としては面白い。
でもきっと好きでもない女性と結婚していた時は、もしかしたら嘘とか。子作りとか……
「私も一緒に寝るわ。最近ずっと休めてなかったから」
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
2,849
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる