4 / 32
第四話
しおりを挟む
「奥様ですよね。ここに住まわせていただきありがとうございます」
離れの中に入るなり、ミーナさんは深々と頭を下げてきた。てっきり、傲慢でわがままな人なのかと思っていたので面食らった。
離れの中はかなり快適な作りになっており、テラスもあった。リビングの椅子に座らせてもらい、ミーナさんは紅茶をいれてくれた。かなり高価な紅茶だった。テーブルも椅子も、かなり高価なものを使っている。すべてカールが手配したのだろう。
「ミーナさん、貴方にお話しがあってきました。ほんの少し時間をください」
怯えながらもミーナさんは逃げることをせず、私と向き合ってくれた。
「はい…」
カールが帰ってくるのはあと一時間後。三十分ぐらいなら余裕をもって話すことができる。
「ミーナさんあの」
「本当にすみません」
彼女は深々と頭を下げて、誠心誠意謝罪をしようとしている。困惑した。話を切り出す前に彼女の話に耳を傾ける結果となった。
「奥様がいらっしゃるというのに、私がカール様と住んでしまって。この離れだって私のために建ててくださったと聞きました。申し訳なくて」
申し訳なさそうに俯きながら、私とは決して目を合わせなかった。
「カールの気持ちは変わることはないでしょうから、もういいのです。それより、ミーナさんに少し移り住んでもらいたいと考えておりまして」
「移り住むのですか?」
深く下げていた頭を上げて、大きな瞳で私のことを見つめてきた。その瞳には少しばかりの不信感がある気がした。
「はい、少しの間だけでいいのです。この年の仕事納めが終わるまで」
「なぜでしょうか」
「カールが仕事をしないのです。貴方のそばに居たいのでしょう。仕事が終われば戻ってきていただいても大丈夫なので」
それに対してミーナさんはますます申し訳なさそうな表情を浮かべて「そうでしたか」としょんぼりと頭を垂らした。私でさえ彼女に罪はないだろうと考えてしまうのだから、カールが彼女に惚れてしまうのも無理ない。
「でもカール様から、仕事は楽な物ばかりだと」
神経質そうなその視線で私のことを睨みつけてきた。
「領主の仕事が楽なわけがございません。年の終わりまでの仕事納めまではかなり立て込みます。私はかなり手伝っているのですが、中々終わる気配がせず」
「すみません。カールには私からも言って聞かせます」
きっと彼女もカールのことを好いている。俺は見ていれば分かる。きっと私には申し訳ない気持ちがあるのだろうけれども、それより大きくカールへの想いがある。そんな気がする。
「そうなんでしたか。奥様には本当に申し訳ないことをいたしました」
「では移り住むところですけれども」
穏便に話が終わりそうだと思ったとき、ミーナさんは「でも」と先ほどよりも固い声色で言った。それを聞き一度言葉を止めた。
「それって、奥様が私を追いだすってことですよね。カール様は同意してくれているんですか?」
部屋の空気が一瞬にして変わった。
そりゃあ、不信感たっぷりでしょうね。初対面の、しかも彼女からしたら彼氏の本妻。自分を追い出そうとしている。自分からカールを奪おうとしている。彼女はそう感じているのかもしれない。
「カールにはこれから、話します」
「奥様はカール様には内緒でここにいらしたんですよね。私のことも内緒でここから追い出すっていうことですよね?カール様にはもう二度と会えなくなるってことになるかもしれないですよね?」
不安にまみれた彼女は、手を握りしめていた。私は「違います」とはっきりと言った。でも彼女は私のことを信じてくれる気配はなかった。
勢いよく立ち上がると、拳を作り、ミーナさんは大きく息を吐いた。
「なら、カール様とご相談なさってから、ここにいらしてください」
まるでここを自分の屋敷のように。
「でも、カールは私と貴方と会わせようとしないから」
「そりゃあ、そうでしょう。奥様はきっと私のことを追いだすか、追い出さなくても、何かしてくるに決まってるんだわ」
被害妄想がすごい。今までどんな人生を歩んできたのか。
「いったん落ち着きましょう」
「落ち着けませんよ!カール様と話し合ってから、私を追いだしてください!もう出て行って!」
その時外から聞きなれた馬車の音が聞こえてきた。突然何が起こったのかと思ったら、あと一時間近くあるというのにカールが帰宅した。今日はかなり大切な会議だったはずだけれども。
私があの会議に出席するときは一時間延長ぐらいはいつものことだけど、なんでこんな早く帰ってこれたの?意味が分からない。
もちろんカールは屋敷に入る前にこの離れへやってきた。早く逃げだした方が良いけれども、ここで逃げ出してしまえば話ができない。
「なんで、君がここにいるんだ」
今まで見たことが無い酷い剣幕で私のことをまくしたてると、腕を掴まれて外へと連れだされた。
「ミーナさんとお話がしたかったのよ」
「カール様、その人、勝手に離れに入ってきたの。私怖くて」
家に招き入れたの貴方じゃない!被害妄想に取りつかれているのね。
「ミーナに何をした」
「貴方が仕事をしないから、出て行ってもらおうとしただけよ!」
はっきりとそう言った瞬間、私の頬に衝撃が走り、地面に倒れた。
「さっさと帰れ!」
離れの中に入るなり、ミーナさんは深々と頭を下げてきた。てっきり、傲慢でわがままな人なのかと思っていたので面食らった。
離れの中はかなり快適な作りになっており、テラスもあった。リビングの椅子に座らせてもらい、ミーナさんは紅茶をいれてくれた。かなり高価な紅茶だった。テーブルも椅子も、かなり高価なものを使っている。すべてカールが手配したのだろう。
「ミーナさん、貴方にお話しがあってきました。ほんの少し時間をください」
怯えながらもミーナさんは逃げることをせず、私と向き合ってくれた。
「はい…」
カールが帰ってくるのはあと一時間後。三十分ぐらいなら余裕をもって話すことができる。
「ミーナさんあの」
「本当にすみません」
彼女は深々と頭を下げて、誠心誠意謝罪をしようとしている。困惑した。話を切り出す前に彼女の話に耳を傾ける結果となった。
「奥様がいらっしゃるというのに、私がカール様と住んでしまって。この離れだって私のために建ててくださったと聞きました。申し訳なくて」
申し訳なさそうに俯きながら、私とは決して目を合わせなかった。
「カールの気持ちは変わることはないでしょうから、もういいのです。それより、ミーナさんに少し移り住んでもらいたいと考えておりまして」
「移り住むのですか?」
深く下げていた頭を上げて、大きな瞳で私のことを見つめてきた。その瞳には少しばかりの不信感がある気がした。
「はい、少しの間だけでいいのです。この年の仕事納めが終わるまで」
「なぜでしょうか」
「カールが仕事をしないのです。貴方のそばに居たいのでしょう。仕事が終われば戻ってきていただいても大丈夫なので」
それに対してミーナさんはますます申し訳なさそうな表情を浮かべて「そうでしたか」としょんぼりと頭を垂らした。私でさえ彼女に罪はないだろうと考えてしまうのだから、カールが彼女に惚れてしまうのも無理ない。
「でもカール様から、仕事は楽な物ばかりだと」
神経質そうなその視線で私のことを睨みつけてきた。
「領主の仕事が楽なわけがございません。年の終わりまでの仕事納めまではかなり立て込みます。私はかなり手伝っているのですが、中々終わる気配がせず」
「すみません。カールには私からも言って聞かせます」
きっと彼女もカールのことを好いている。俺は見ていれば分かる。きっと私には申し訳ない気持ちがあるのだろうけれども、それより大きくカールへの想いがある。そんな気がする。
「そうなんでしたか。奥様には本当に申し訳ないことをいたしました」
「では移り住むところですけれども」
穏便に話が終わりそうだと思ったとき、ミーナさんは「でも」と先ほどよりも固い声色で言った。それを聞き一度言葉を止めた。
「それって、奥様が私を追いだすってことですよね。カール様は同意してくれているんですか?」
部屋の空気が一瞬にして変わった。
そりゃあ、不信感たっぷりでしょうね。初対面の、しかも彼女からしたら彼氏の本妻。自分を追い出そうとしている。自分からカールを奪おうとしている。彼女はそう感じているのかもしれない。
「カールにはこれから、話します」
「奥様はカール様には内緒でここにいらしたんですよね。私のことも内緒でここから追い出すっていうことですよね?カール様にはもう二度と会えなくなるってことになるかもしれないですよね?」
不安にまみれた彼女は、手を握りしめていた。私は「違います」とはっきりと言った。でも彼女は私のことを信じてくれる気配はなかった。
勢いよく立ち上がると、拳を作り、ミーナさんは大きく息を吐いた。
「なら、カール様とご相談なさってから、ここにいらしてください」
まるでここを自分の屋敷のように。
「でも、カールは私と貴方と会わせようとしないから」
「そりゃあ、そうでしょう。奥様はきっと私のことを追いだすか、追い出さなくても、何かしてくるに決まってるんだわ」
被害妄想がすごい。今までどんな人生を歩んできたのか。
「いったん落ち着きましょう」
「落ち着けませんよ!カール様と話し合ってから、私を追いだしてください!もう出て行って!」
その時外から聞きなれた馬車の音が聞こえてきた。突然何が起こったのかと思ったら、あと一時間近くあるというのにカールが帰宅した。今日はかなり大切な会議だったはずだけれども。
私があの会議に出席するときは一時間延長ぐらいはいつものことだけど、なんでこんな早く帰ってこれたの?意味が分からない。
もちろんカールは屋敷に入る前にこの離れへやってきた。早く逃げだした方が良いけれども、ここで逃げ出してしまえば話ができない。
「なんで、君がここにいるんだ」
今まで見たことが無い酷い剣幕で私のことをまくしたてると、腕を掴まれて外へと連れだされた。
「ミーナさんとお話がしたかったのよ」
「カール様、その人、勝手に離れに入ってきたの。私怖くて」
家に招き入れたの貴方じゃない!被害妄想に取りつかれているのね。
「ミーナに何をした」
「貴方が仕事をしないから、出て行ってもらおうとしただけよ!」
はっきりとそう言った瞬間、私の頬に衝撃が走り、地面に倒れた。
「さっさと帰れ!」
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
2,849
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる