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第七話
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目の前に立った父は憤怒の表情で目の前までやってくると、私の頬を強くビンタした。
「お前はなんてことを考えているんだ!フョードル家と婚約することは決まっていることだ!お前とゲイベルとを見合いさせたのはただの面子を保つためだ!断じてお前と結婚させるためじゃない」
頬を触り床を眺めて立ち尽くしていると、強く母に肩を掴まれた。
「貴方、どうかしちゃったんじゃないの?つい最近まで伯爵家のフョードル様とお見合いできることをとても嬉しそうに喜んでいたのに、なんでこんなことになってしまったのよ!」
ただぼんやりと床を眺めていると、母は娘がおかしくなったと頭を抱えて、ワンワン泣きだす。今までずっと私たちの命令を聞く可愛い娘だったのに、今は命令を聞かなくなってしまったなんてことなの。きっと両親はそんな風に思っている。
「お前がフョードル家と結婚することは決定事項だ。フョードル伯爵が来るときはしっかりともてなせ」
お前呼ばわりする父も、自分の言う通りに動かないからと泣き崩れる母も、大嫌い。今まで犯行出来なかった分、反抗しているだけ。当然の権利。
「そんなにもてなしてもらいたいなら、私の前で頭を下げてよ」
腫れた頬を触りながら私は父を睨みつけたまま言った。
「お前、父親に向かってなんて口を聞く!」
「父親って言っても、お父様私がいなくなったら貴族に戻る手立てがないじゃない。私に何かしてほしいなら頭を下げて懇願して、それがお願いするの態度なの?」
すると今度は赤毛を強く掴まれて、引っ張られた。壁に頭を打ち付けて、私は床に手を着いた。
「いつからそんな口を聞くようになった!」
頭の中がぐらぐらと揺れて、手についていたはずのかさぶたが取れかけていた。それと同時に昔の手の痛みを思い出した。古い記憶。大切だったのに、なぜだか忘れていた大切な宝の箱を思い出したような、そんな気がした。
幼い私は舞踏会に居て、薔薇の棘を触ってできた傷を見て、痛くて痛くて仕方が無かった。周りの大人たちは私の事を可愛い可愛いと頭を撫でて、気持ちが悪い猫撫で声を発しているのだ。
そんな時に一人だけ私に対して、とても不器用で、おどおどとしている男性がいた。とてもひ弱そうで、でもなぜだか強そうで、なんでそんな風に見えたのか私には分からない。
その人が自分の耳についていたサファイアのピアスをハンカチに包んで渡してくれた。
『このサファイアは君を守ってくれる。これで手の傷も痛くなくなるよ』
その人の手には無数の豆があって、豆が潰れた痛々しい傷もあった。でもその人は平気そうにしているのだ。私はそれが不思議で不思議でたまらなかった。
きっと、だから私はその人の事を強いと思ったのかもしれない。
目を覚ますと私は寒い、ベッドの上でメイドの介抱を受けていた。手にはぐるぐると包帯が巻かれて、右目は包帯が巻かれて前が良く見えない。
「おとう、さまは?」
それについてメイドは何も言わない。
「フョードル家の方々は?」
「旦那様がお嬢様を屋敷から出すなと」
「ああ、そう」
体が寒かった。さっきまで温かい記憶を見ていた気がしていたのに、それが思い出せない。
思い出したいのに、思い出せない。
「お前はなんてことを考えているんだ!フョードル家と婚約することは決まっていることだ!お前とゲイベルとを見合いさせたのはただの面子を保つためだ!断じてお前と結婚させるためじゃない」
頬を触り床を眺めて立ち尽くしていると、強く母に肩を掴まれた。
「貴方、どうかしちゃったんじゃないの?つい最近まで伯爵家のフョードル様とお見合いできることをとても嬉しそうに喜んでいたのに、なんでこんなことになってしまったのよ!」
ただぼんやりと床を眺めていると、母は娘がおかしくなったと頭を抱えて、ワンワン泣きだす。今までずっと私たちの命令を聞く可愛い娘だったのに、今は命令を聞かなくなってしまったなんてことなの。きっと両親はそんな風に思っている。
「お前がフョードル家と結婚することは決定事項だ。フョードル伯爵が来るときはしっかりともてなせ」
お前呼ばわりする父も、自分の言う通りに動かないからと泣き崩れる母も、大嫌い。今まで犯行出来なかった分、反抗しているだけ。当然の権利。
「そんなにもてなしてもらいたいなら、私の前で頭を下げてよ」
腫れた頬を触りながら私は父を睨みつけたまま言った。
「お前、父親に向かってなんて口を聞く!」
「父親って言っても、お父様私がいなくなったら貴族に戻る手立てがないじゃない。私に何かしてほしいなら頭を下げて懇願して、それがお願いするの態度なの?」
すると今度は赤毛を強く掴まれて、引っ張られた。壁に頭を打ち付けて、私は床に手を着いた。
「いつからそんな口を聞くようになった!」
頭の中がぐらぐらと揺れて、手についていたはずのかさぶたが取れかけていた。それと同時に昔の手の痛みを思い出した。古い記憶。大切だったのに、なぜだか忘れていた大切な宝の箱を思い出したような、そんな気がした。
幼い私は舞踏会に居て、薔薇の棘を触ってできた傷を見て、痛くて痛くて仕方が無かった。周りの大人たちは私の事を可愛い可愛いと頭を撫でて、気持ちが悪い猫撫で声を発しているのだ。
そんな時に一人だけ私に対して、とても不器用で、おどおどとしている男性がいた。とてもひ弱そうで、でもなぜだか強そうで、なんでそんな風に見えたのか私には分からない。
その人が自分の耳についていたサファイアのピアスをハンカチに包んで渡してくれた。
『このサファイアは君を守ってくれる。これで手の傷も痛くなくなるよ』
その人の手には無数の豆があって、豆が潰れた痛々しい傷もあった。でもその人は平気そうにしているのだ。私はそれが不思議で不思議でたまらなかった。
きっと、だから私はその人の事を強いと思ったのかもしれない。
目を覚ますと私は寒い、ベッドの上でメイドの介抱を受けていた。手にはぐるぐると包帯が巻かれて、右目は包帯が巻かれて前が良く見えない。
「おとう、さまは?」
それについてメイドは何も言わない。
「フョードル家の方々は?」
「旦那様がお嬢様を屋敷から出すなと」
「ああ、そう」
体が寒かった。さっきまで温かい記憶を見ていた気がしていたのに、それが思い出せない。
思い出したいのに、思い出せない。
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