クズな夫家族と離れるためなら冷徹騎士でも構いません

第四話

　鞭で打たれて真っ赤になった手を握りしめた。目の前に立つ母は憤怒の様子である。

「結婚するなら絶対にフョードル家よ。分かった？ゲイベル団長と見合いをさせたのはウチの面子を保つためですからね。ゲイベル団長からのお見合いの話を断ることなんて出来ないのですから。だから見合いをさせたんです。あの人と結婚なんてさせません。絶対にフョードル家と結婚なさい」

　こんなに厳しくて、自分勝手で利益を優先するような母親だったか。私は深く考え込んだ。きっと前世の私は両親の洗脳を受けていた。両親を大好きになる洗脳を受けていた。そして懸命にシャロール家にために生きようとしていた。でも今ならわかる。そんなこと道具として生きているだけだし、両親も私のことを道具としか考えていない。

「わかったわね。一週間後にフョードル伯爵が来るらしいから、絶対に成功させなさい」
「はい」
「それと、お父様の言う事を聞きなさい。お父様の言う事を聞かないと怒られるのはお母様なのよ！」

　母がここまでする理由はよく分かっている。母はずっと父に操られているのだ。父は酒を飲むと暴力的になり、私は母のために動いてきた。母が父にぶたれない様に、父の機嫌を取って、父中心の。そんな家庭がこの家なのだ。

「貴方は私の味方でしょ？ならちゃんとフョードル家との結婚を承諾して」
「え、ええ、分かっています」

　でも私は母に言いなりにだってなりたくない。母が苦労していることはすごくよく分かるけれども、だからって私は母の事が好きなわけじゃない。母にずっと父の壁となって生活させられてきたし、母の愚痴を一晩中聞いて来たこともあった。

「お金があればお父様も昔の優しいお父様に戻るの」

　目に涙を浮かべながら母は鞭を持って手を震わせている。
　それを見て自分の手を眺めながら、笑った。

「でも、お父様は浮気してるよ」

　すると母は私の頭を鞭で殴りつけてきた。

「そんなことどうでもいいのよ！だってお父様はこの家の主人なのよ」

　ただひたすらに私は母に鞭で殴られていた。顔も手も鞭で叩かれて、ひりひりと痛くなって、息が上がった母は鞭を握りしめたまま、傷だらけの私を置いて部屋から出て行った。
　窓に映る夕焼けが綺麗だった。手からは酷い血が出て、布団にしみこんでいく。頭も痛くて、血が流れ出ていくこともよく分かった。
　懐かしいこの感覚。私はずっと母の奴隷だった。母の奴隷をしていた。

　前世でこんなことは話されなかった。もしかしたら、私がほとんどゲイベル様と話をせずにエリックのことを選んだためにそういう話をしなかったかもしれない。なんだか両親の嫌な部分を知ってしまったようで嫌だ。
　ソファに座り込み、これからどうしようかと考えた。テーブルを見やると舞踏会の招待状が置かれている。それも騎士団がやってくる舞踏会だ。前世の私なら絶対に行かなかっただろうけれども。今の私は違う。これを使わない手はない。
　舞踏会へ行く度、私は真っ赤な目立つドレスばかりを着ていた。お金が無いので、安い赤いドレスを着て、装飾は自分で行っていた。
　でも今回は目立つことはしたくない。ただゲイベル様を探し、誤解を解きたいだけだから。

　でも今は眠って居よう。今日は疲れた。