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第二十二話
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馬車から降り立ったリリアは大きく背伸びをして、青色の空を仰ぎ見た。それから、まっすぐと前を見てみると、そこにはこのウィルトン王国の騎士団がリリアを迎えた。その大勢の騎士団に、一般人ならば恐れおののくのだろうが、リリアは堂々と立っていた。
そんなリリアの目の前に大きな図体をしたガタイの良い、顔に大きな傷がある男がやってきた。リリアより何倍も威圧的である。
「魔物を倒してくださりありがとうございました。私達騎士団では手に負えずにおりましたので」
「私は私が出来ることをしたまでよ」
男のことを見上げながらリリアはそう言った。
それから男はひざたずき、頭を下げた。
「できることでしたら、リリア様に我が騎士団の戦力を上げるために、お力添えいただきたく、外でお迎えさせていただきました。ご検討のほどよろしくお願いいたします。」
「この騎士団がそれを望むのであれば、力を貸しましょう」
「ありがとうございます」
この国の騎士団だって、ほとんど最強であるリリアのことを放っておくほど無能ではないということだろう。リリア自身もそれをよくわかっている。
「いいのですか。リリア様」
「なにが」
「負担が増えますよ」
「別に構わないわ」
その積極的なリリアの様子を見てアンナは少し意外だった。リリアは騎士団がそこまで好きではないために、これを断るのではないかと思ったのだ。あの魔物との決闘の際。本当にリリアは一人で魔物を倒してしまった。でも戦い方はめちゃくちゃで、土が舞い上がり、地面がひび割れ、山々の木々はいくつも倒れた。
きっとあそこへ魔法使いが入っていけば巻き添えを食らって怪我をしていただろう。何かしらの心境の変化か、ただの強い正義感か。アンナは少しだけ考えた。
それから三人は戻ったのだけれども、戻った途端三人は唖然とした。使用人たちは騒がしく動き回り、ドレスで着飾った女性達、タキシードを着た男性が行きかっている。
疲労困憊のリリアはその大嫌いな光景に眉をひそめた。
「私は殿下へ報告へ行ってまいります」
早々にアンナはその場から居なくなり、リリアとルカはリリアの部屋へと向かった。とにかくこの騒がしく、トラウマを刺激するような場所から脱しなければいけない。
「リリア様、大丈夫ですか」
「別に大丈夫よ」
虚ろに前だけを見据えるリリアの瞳を見て、ルカは大丈夫ではないと感じた。すぐに部屋へ戻りたいが、なんせ広く大きな宮殿、すぐに宴の声が届かないところまで行くのはかなり難しい。
「帰ってきていたのですか」
まっすぐと伸びる太陽の光が差し込む廊下から、ノアが小走りでやってきた。
「なぜ舞踏会などやっているのですか。リリア様のトラウマを刺激しないでください!」
「申し訳ありません。でも、これは私には同仕様もないことでして」
「別に大丈夫。馬車の中にずっといたから疲れているだけ」
抗議しようとするルカのことを押しとどめて、リリアはノアと向かい合った。
「貴方の話をお師匠様から、お聞きしました」
ギクッとしたのちに、ノアはリリアから視線を外した。そんなノアのことをリリアはまっすぐと見つめた。
「あなたに積極的に協力いたします。私のことをアインラウドと呼ぶのではなく、これからはリリアと呼んでください。私も貴方をノアと呼びます。敬語もやめましょう」
二人は今まで大人のふりをして、大人になろうと背伸びをしすぎていた。だからリリアは、それをやめようと思ったのだ。ただ平等に、仲間となるために。
つけていた手袋を外して、手を差し伸べた。
「握手よ」
「それは、イエスということですか」
今までになくノアは嬉しそうに、笑い、目を輝かせた。リリアは口角を上げ薄く笑う。そうしてノアの手を握り、上下に振った。
「貴方が私をここに無理やり連れてきたのだから、拒否することは許さない。これから私達は運命を共にする仲間でしょ」
「ナ、ナカマ?」
「ええ、世界平和のために、一緒に魔物を倒すために、力を合わせましょう」
リリアの瞳は今までになく力強く輝いていて、随分と長い間リリアが忘れていた夢と希望を思い起こさせた。それと同時に結婚という単語は頭から抜けていた。強い正義感故に、自分の幸せよりも世界の幸せ。ノアと共に世界を平和にするということの方がリリアには大切だった。
「わ、わかりました。よろしく」
そんなリリアの目の前に大きな図体をしたガタイの良い、顔に大きな傷がある男がやってきた。リリアより何倍も威圧的である。
「魔物を倒してくださりありがとうございました。私達騎士団では手に負えずにおりましたので」
「私は私が出来ることをしたまでよ」
男のことを見上げながらリリアはそう言った。
それから男はひざたずき、頭を下げた。
「できることでしたら、リリア様に我が騎士団の戦力を上げるために、お力添えいただきたく、外でお迎えさせていただきました。ご検討のほどよろしくお願いいたします。」
「この騎士団がそれを望むのであれば、力を貸しましょう」
「ありがとうございます」
この国の騎士団だって、ほとんど最強であるリリアのことを放っておくほど無能ではないということだろう。リリア自身もそれをよくわかっている。
「いいのですか。リリア様」
「なにが」
「負担が増えますよ」
「別に構わないわ」
その積極的なリリアの様子を見てアンナは少し意外だった。リリアは騎士団がそこまで好きではないために、これを断るのではないかと思ったのだ。あの魔物との決闘の際。本当にリリアは一人で魔物を倒してしまった。でも戦い方はめちゃくちゃで、土が舞い上がり、地面がひび割れ、山々の木々はいくつも倒れた。
きっとあそこへ魔法使いが入っていけば巻き添えを食らって怪我をしていただろう。何かしらの心境の変化か、ただの強い正義感か。アンナは少しだけ考えた。
それから三人は戻ったのだけれども、戻った途端三人は唖然とした。使用人たちは騒がしく動き回り、ドレスで着飾った女性達、タキシードを着た男性が行きかっている。
疲労困憊のリリアはその大嫌いな光景に眉をひそめた。
「私は殿下へ報告へ行ってまいります」
早々にアンナはその場から居なくなり、リリアとルカはリリアの部屋へと向かった。とにかくこの騒がしく、トラウマを刺激するような場所から脱しなければいけない。
「リリア様、大丈夫ですか」
「別に大丈夫よ」
虚ろに前だけを見据えるリリアの瞳を見て、ルカは大丈夫ではないと感じた。すぐに部屋へ戻りたいが、なんせ広く大きな宮殿、すぐに宴の声が届かないところまで行くのはかなり難しい。
「帰ってきていたのですか」
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「なぜ舞踏会などやっているのですか。リリア様のトラウマを刺激しないでください!」
「申し訳ありません。でも、これは私には同仕様もないことでして」
「別に大丈夫。馬車の中にずっといたから疲れているだけ」
抗議しようとするルカのことを押しとどめて、リリアはノアと向かい合った。
「貴方の話をお師匠様から、お聞きしました」
ギクッとしたのちに、ノアはリリアから視線を外した。そんなノアのことをリリアはまっすぐと見つめた。
「あなたに積極的に協力いたします。私のことをアインラウドと呼ぶのではなく、これからはリリアと呼んでください。私も貴方をノアと呼びます。敬語もやめましょう」
二人は今まで大人のふりをして、大人になろうと背伸びをしすぎていた。だからリリアは、それをやめようと思ったのだ。ただ平等に、仲間となるために。
つけていた手袋を外して、手を差し伸べた。
「握手よ」
「それは、イエスということですか」
今までになくノアは嬉しそうに、笑い、目を輝かせた。リリアは口角を上げ薄く笑う。そうしてノアの手を握り、上下に振った。
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「わ、わかりました。よろしく」
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