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第二十一話

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 魔物が倒されたと連絡がやってきたのはリリア達が旅立って一週間後のことだった。連絡をよこしたアンナは文字からも分かるほどに憤怒しているのが伝わってきたものの、そんな風に手紙が書けるのであれば三人とも元気なのだろう。
 それとノアはもう一方の方へ視線を移したそこには一枚の紙が置かれている。紙を開くとそこには文字の癖で分からないように、定規を使って書かれたリリアへの侮辱がさんざん書かれている。
 定規を使って文字の癖が分からないようにさせているということは頭が良い。それにバレたらいけないという意識があるということは、権力があるのかもしれない。それにしても現在リリアがこの国にいることはこの王宮にいる者しか知らない。
 王宮にいる者か、貴族からの仕業であろう。
 それを両手で持っていたノアは、手を握りしめて、紙をグシャッとつぶした。

「絶対に、捕らえてやる」

 けれどもノア自身も色々自由をしすぎた自覚はある。国の戦力へ大きな偏りが生じ、リリア自身の精神もきっと安定していない。リリアを管理する気はないという意志を示すためにも、ほとんど人を付けずにリリアを討伐へ向けさせた。
 でも周りの人間、兄であるハロルド公爵、それに国王もそれには嫌悪を示していた。
 今現在ノアの立場は高いには高い。魔法の発展と共に力を貸してきた、それに20で公爵になるまでは王子と言う立場だ。
 でも今良くても、昔の行いにはノア自身も反省しているために、ハロルド公爵が貴族から支持されることは当然のことである。長男であり、王となる教育を今まで受けてきた。
 仕事が一行に進まずノアは執務室の机で羽ペンをもてあそんでいた。そんな時、唐突に部屋の扉をノックされた。

「どうぞ」

 部屋へ入ってきたのはハロルド公爵であった。神経質そうな目元に、愛想のない表情だ。

「どうしたんだい。兄上」
「魔物は討伐されたのか?それともまだ討伐されていないのか?」
「討伐されたよ」
「あの女が逃げ出したり、この国に反乱を起こす可能性はどうなんだ。下っ端の魔法使い一人でとらえられるものなのか。なぜあの剣を返した!」

 切羽詰まった様子でハロルド公爵は、ノアへと詰め寄った。ストレスが溜まっているためか、顔色もよろしくない。

「あの人は聡明な方だ。暴れればすぐに牢屋に入れられるか、自分が人間の扱いを受けなくなると分かっているから、きっと自らの人権を守るために野蛮なことはしないと思うよ。それに彼女は魔法がある環境で育っていないために、魔法耐性がそこまでない、魔法の普及しているこの国なら彼女を圧倒できる」

 とにかく宥めるために、ノアは静かな口調、穏やかな表情でそう言った。それを聞いたハロルド公爵は、眉間にしわを寄せて手を握りしめた。

「本当にお前という奴は、大嫌いだ。敬語をまともに使い、大人しくなったかと思ったら。考え方は昔から全く変わっていない!一人でどこまでも突っ走るなと言っているだろ!」

 長男だからだろうか、国を背負うという責任からか、ハロルド公爵は人一倍生真面目で、全く冗談が通じないような人間に育った。
 けれども兄弟とは補い合うものだ。真面目さと責任感をハロルド公爵が、柔軟さと行動力をノアが、癒しとコミュニケーション能力をエリザベスが。そうやってこの兄弟は成り立っている。

「でも父上も兄上も、魔物を倒してほしがっていたではないか。結果オーライでは?」

 机に置かれている魔法法改正の資料をパラパラとめくりながら、ノアは視線をそちらへ移した。

「結果だけ見ればいいという話ではない!物事には順序がある。だから私が王位に就く前に行動し始めるなと散々言っただろ!私が国王になった暁には、魔法を普及させられるよう、働きかける、だからそれまで大人しくしていろと言ったのにお前は」

 説教をされたノアは椅子から立ち上がって、ハロルド公爵を指さした。

「じゃあ、家畜のように働かされていた彼女を黙ってみていればよかったのか?兄貴だって位が釣り合わない男爵令嬢と結婚して、ブーブー言われてるくせに、私だけ我慢していろと言うのか!」
「今までさんざん我慢させられてきたのはこっちだ!幼少期から散々お前に世話を掛けられてきたというのに、私の王宮での立場まで悪くしようというのか!だから、お前は…」

 兄弟ケンカの最中であったハロルド公爵の足元にエリザベスが引っ付いていた。

「お兄様!!」
「エリザベス?」
「お父様が舞踏会開くって」

 
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