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第十五話

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 国王から聞いた話によりリリアはやることがあった。そしてやってきたのは、これからのこの国での方針、目指すべきものを定める必要がある。そして今現在冷静に俯瞰して、ルーデンス王国と周辺諸国の情勢、ノアの考えていること、国王が考えていること。
 ソファに寝転がりながら、綺麗な天井を眺めていると、夢の中に居るような感覚がして、現実味がないような気がしていた。

「大丈夫ですか?リリア様」

 扉の方を見るとそこにはルカが立っていた。 

「ルカ」

 久しぶりに見慣れた顔を見てリリアは少しだけ安堵した。

「いままで、どこに行っていたの」
「ノア様のところで少し。慣れない土地でお疲れでしょう。大丈夫ですか」

 目元をこすりながらリリアはぼんやりとルカのことを眺めていた。

「私が、何をすべきなのか、分からない」

 いろんな問題が絡み合って、そこには私情も混じっている。どちらかと言えば私情のために国民を巻き込もうとしているのかもしれない。貴族への恨みなのかもしれない。この強大すぎる力はリリアの手には余りものだ。でも誰を信用すればいいのか、分からない。
 男という中で信用できるのは今のところルカぐらい。

「ついてきてください。リリア様がお喜びになるものを用意しました」
「私が?」

 重い体を起こして立ち上がると、先を行くルカの背中を追いかけるようにして、重い足取りで歩いた。まっすぐな廊下を歩いて、絵画の飾られた階段を降り、角を曲がったりしながら向かった。なんだか食事のいい香りが漂ってくる。
 ルカが立ち止まったのは食堂だった。宴会、ちょっとした晩餐会に使われる部屋だ。その部屋の両扉をルカが開けた。部屋のなかを見た途端にリリアは目を丸くした。
 たくさんの料理が大きなテーブルに並んでいる。でもそこにあるのは、肉料理と、揚げ物、パンも種類が豊富で、酒にジュース、それと少しの野菜。貴族らしい栄養が整ったフルコースなんて品のあるものではなく、高カロリーな品の無いバイキングだ。けれどもそれに思わずリリアは久しぶりの高揚感と共に、つばを飲み込んだ。

「ここにきて中々会えずに申し訳ありませんでした。私からの歓迎の意ですよ」

 ノアが立ち尽くすリリアの元へやってきて、手を取って中へ招き入れた。

「こ、これは」
「彼から、食べる事が好きだとお聞きしたので」

 漂う料理の匂いに負けそうになりながら、強い理性でリリアは、ノアの手を振り払い、背中を向けた。

「リリア様?」
「今までずっと食べることを我慢してしたんです。戦士となってからずっと食事制限をしてきたんですよ。だから、申し訳ありませんが」

 それでもリリアの中の食欲はそこにある料理を好きなだけ食べたくて仕方がなかった。でもここ四年ほどずっと食事制限を続けて、戦士らしい体を作ってきた。それなのに今更それを崩すなんて事は中々できない。
 強い理性に従うまま外へ出ようとしたとき、目の前にルカがやってきた。手にはほくほくのジャガイモに、ベーコンと、玉ねぎで炒めた、ジャーマンポテト。その上とろとろのチーズまで乗っている。

「リリア様一口ぐらい。大丈夫です」

 チーズとベーコンが絡んだジャガイモを目の前に出されて、リリアの中の理性はギリギリ保っていた。でもおもわぬ人がやってきた。

「ねえねえ、私がアーンする」

 ノアの後ろからパスタのケチャップで口元を汚したエリザベスが顔を出した。リリアより先に食べていたのだろう。くちを汚したままで、ジャガイモをさしたフォークをルカから奪った。
 満面の笑みで、リリアにジャガイモを突きつけた。

「はい、アーン!口開けて」

 幼い子供に抵抗が出来なくなったリリアはそれを一口食べてしまった。そのジャーマンポテトは今までさんざん我慢してきた分美味しく感じた。

「美味しい」

 にっこりと笑うエリザベスの口元をリリアはハンカチで拭いてやった。

「じゃあ、食べましょう!じゃんじゃん、食べましょう!」

 そう言ってノアは無抵抗になったリリアを椅子まで連れていき、ほぼ無理やり、椅子に座らせた。目の前にはたくさんの料理が並んでいる。もうリリアに抵抗する力は無い。

「リリア様」
「なんですか?」

 大人しく椅子に座りナプキンを首につけ、もうリリアは素直に食べることにしたらしい。そのそばでノアは右ひざを立てて、左ひざを床につけて、リリアの手を取った。そして胸元からきらめく指輪を取った。

「この指輪を付けると、食べた物がカロリーゼロになるんです」

 それを聞いたリリアは嘲笑った。

「何を馬鹿なことを。私と結婚したいのだかなんだかわかりませんが、貴方が王になるためにこの指輪を渡しにプレゼントしているなら、受け取りません」

 諦め顔で大きなローストチキンを自分の皿の上へと置いた。

「富も権力もあって、眉目秀麗なノア様なら、可憐で儚い子羊の方がお似合いですよ」
「ねえ、これも食べて、みーとぼーる。アーン」

 拳ほどある大きなミートボールを口の前にだされ、頬をリスみたいに膨らませながら食べた。
 食事制限のことを無理やり忘れたリリアは、もう目の前にある食事を幸せの一部と思い、今だけは食べる事だけを考えた。

「そうですか」

 そんなリリアを眺めながら指輪を握りしめたノアは、立ち上がって、テーブルの端へと歩いた。歩きながら「そう言うことじゃないんだけどな」と苦笑いをこぼした。

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