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第八話

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 中庭でカールは木刀を持って素振りをしていた。来ている軍服にはこの国最強と言われる第三騎士団隊長の称号がきらめている。今までずっとほしかった勲章がきらめいているのだ。大体今までリリアがこの騎士団の隊長をしていたことが、この国では異例中の異例だった。
 普通隊長になるには、貴族の男児であり騎士団学校を卒業している必要がある。しかしながらリリアは女であり、騎士団学校にも入学していなかった。この王都へ侵入した魔物の大群をたった一人で倒したことで力が認められ、軍へ所属となったためだ。

「カール様、随分と熱心ですね」

 オリヴィアが建物の中から日の差す中庭へと姿を現した。リリアと同じ金髪に青い瞳だというのにこんなにも違う。女の子らしい白いワンピースを着て、純潔とされる百合の髪飾りをつけている。

「ああ、やっと騎士団学校を卒業して、騎士団の隊長の座をいただいたからな。これから上を目指さなければ。君のためにもな」
「頑張ってください。私応援していますわ。今までお姉様があんなことをしていたのがおかしかったんです」

 頬を桃色に染めてオリヴィアはにっこりと可愛らしい笑みをカールへ向けた。

「本当にカール様にはずっと申し訳なくて」
「こっちもそうだ。この国とウィルトン王国との友好のために、器量と学があるオリヴィアをあの王子と結婚させようとさせていたのだからな」
「いいえ、カール様と結婚できるのですからそんなこともうどうでもいいです」

 嬉しそうにオリヴィアはにっこりと笑った。

「それにリリアがいくら魔王軍の四天王を一人倒したからって。数百人も騎士、魔法使いで死傷者を出したんだ。ただとどめを刺しただけだ。それなのにあんなに強がりやがって」
「本当にその通りです」

 天使のような笑みを浮かべるオリヴィアはカールにとってのイエスマンに近い。オリヴィアだけはカールに何でも賛同してくれる。
 そうやって二人で穏やかな話を続けていると、突然どこからか爆発音が聞こえた気がした。その音がした後、地鳴りも起こった。

「何!?」

 驚いたオリヴィアは地面に座り込み、カールはオリヴィアに覆いかぶさるようにしゃがんだ。

「おい、何が起こったんだ!」

 近くにいた騎士にカールは怒鳴りつけるように言った。

「わ、分かりません。確認してまいります」

 その確認が分かったのは、あと十分後のことだった。第三騎士団隊長となり始めての仕事。それがカールに執務室で伝えられた。

「王宮の武器庫が爆破されました。そして今現在リリア・アインラウド副隊長が王都から逃走を図っているようです」

 言いにくそうにリリアの名前を告げると、魔法使いは地図を出した。その地図には赤色に光る点が王都の外側で遠くへ行こうと移動している。

「なんだ、これは」
「副隊長の首には首輪がつけられておりまして、その魔力をたどりました。王都を出ると自然と首を絞めるように設計されています」

 執務室で話しているところへ、突然男が一人勢いよく扉を開けて、駆け込んできた。

「アインラウド隊長の小姓が降りません」

 男は焦っていたためかリリアのことを隊長と呼んだ。それを聞きカールは目を細める。

「隊長は僕だ!とりあえず、あいつを追うしかないだろ。王都の外側の騎士団駐屯地に声をかけ囲い込むしかない。だが首が絞められるんだろ?そのうち戻ってくるんじゃないか」
「それが、ウィルトン王国から視察にやってきていたノア・ミューズ様もいらっしゃらないので、ともに逃げたのかと。そして、あの首輪は確かに強い魔法がかけられていますが、手練れの魔法使いに解析されてしまえばすぐに破壊されてしまいます」

 焦った様子で魔法使いは地図を眺めている。

「だが騎士団の騎士百人ぐらいで囲めば、捕らえられるだろう」
「絶対に無理です!」

 軍師が冷や汗をかいた状態で大声でそう言った。

「あの人は魔物より恐ろしい。百人程度でとらえられるはずがありません。せめて五百人。それでも逃げられるかもしれません」

 ここにいるカール以外の人間が焦っているというのにカールは全く焦っていなかった。それよりもこれはカールにとってとにかく都合がいい。

「あんな奴一人いなくなったところで何も変わらないだろ。確かに強いかもしれないがあいつだってたった一人の人間なんだぞ?追う必要はない。国王陛下へは僕から伝えておく」
「ですが」
「ですが?これで終わりって言ってるんだ。あいつのことは放っておけ」

 確かにリリアは貴族から嫌味嫌われていたのだけれども、リリア自身強く気高く、騎士たちの目標だった。そのため騎士の中にはリリア派の者もいる。幸い軍師や騎士団の上に立っている者はほとんどが貴族に肩入れしている。
 そして他の貴族達もリリアがいなくなることでかなり良い事があった。今までリリアの目が鋭く、奴隷や賄賂などの取引は出来なかったのだ。ここ数年だけで奴隷制度はほとんど廃止され、違法な魔法具の流通もしなくなっている。ただ数年前の国の戻るだけで、リリアいなくなったところで何も問題はないのだ。それよりも貴族や商人にとってはいいこと尽くし。
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