8 / 22
第八話
しおりを挟む
中庭でカールは木刀を持って素振りをしていた。来ている軍服にはこの国最強と言われる第三騎士団隊長の称号がきらめている。今までずっとほしかった勲章がきらめいているのだ。大体今までリリアがこの騎士団の隊長をしていたことが、この国では異例中の異例だった。
普通隊長になるには、貴族の男児であり騎士団学校を卒業している必要がある。しかしながらリリアは女であり、騎士団学校にも入学していなかった。この王都へ侵入した魔物の大群をたった一人で倒したことで力が認められ、軍へ所属となったためだ。
「カール様、随分と熱心ですね」
オリヴィアが建物の中から日の差す中庭へと姿を現した。リリアと同じ金髪に青い瞳だというのにこんなにも違う。女の子らしい白いワンピースを着て、純潔とされる百合の髪飾りをつけている。
「ああ、やっと騎士団学校を卒業して、騎士団の隊長の座をいただいたからな。これから上を目指さなければ。君のためにもな」
「頑張ってください。私応援していますわ。今までお姉様があんなことをしていたのがおかしかったんです」
頬を桃色に染めてオリヴィアはにっこりと可愛らしい笑みをカールへ向けた。
「本当にカール様にはずっと申し訳なくて」
「こっちもそうだ。この国とウィルトン王国との友好のために、器量と学があるオリヴィアをあの王子と結婚させようとさせていたのだからな」
「いいえ、カール様と結婚できるのですからそんなこともうどうでもいいです」
嬉しそうにオリヴィアはにっこりと笑った。
「それにリリアがいくら魔王軍の四天王を一人倒したからって。数百人も騎士、魔法使いで死傷者を出したんだ。ただとどめを刺しただけだ。それなのにあんなに強がりやがって」
「本当にその通りです」
天使のような笑みを浮かべるオリヴィアはカールにとってのイエスマンに近い。オリヴィアだけはカールに何でも賛同してくれる。
そうやって二人で穏やかな話を続けていると、突然どこからか爆発音が聞こえた気がした。その音がした後、地鳴りも起こった。
「何!?」
驚いたオリヴィアは地面に座り込み、カールはオリヴィアに覆いかぶさるようにしゃがんだ。
「おい、何が起こったんだ!」
近くにいた騎士にカールは怒鳴りつけるように言った。
「わ、分かりません。確認してまいります」
その確認が分かったのは、あと十分後のことだった。第三騎士団隊長となり始めての仕事。それがカールに執務室で伝えられた。
「王宮の武器庫が爆破されました。そして今現在リリア・アインラウド副隊長が王都から逃走を図っているようです」
言いにくそうにリリアの名前を告げると、魔法使いは地図を出した。その地図には赤色に光る点が王都の外側で遠くへ行こうと移動している。
「なんだ、これは」
「副隊長の首には首輪がつけられておりまして、その魔力をたどりました。王都を出ると自然と首を絞めるように設計されています」
執務室で話しているところへ、突然男が一人勢いよく扉を開けて、駆け込んできた。
「アインラウド隊長の小姓が降りません」
男は焦っていたためかリリアのことを隊長と呼んだ。それを聞きカールは目を細める。
「隊長は僕だ!とりあえず、あいつを追うしかないだろ。王都の外側の騎士団駐屯地に声をかけ囲い込むしかない。だが首が絞められるんだろ?そのうち戻ってくるんじゃないか」
「それが、ウィルトン王国から視察にやってきていたノア・ミューズ様もいらっしゃらないので、ともに逃げたのかと。そして、あの首輪は確かに強い魔法がかけられていますが、手練れの魔法使いに解析されてしまえばすぐに破壊されてしまいます」
焦った様子で魔法使いは地図を眺めている。
「だが騎士団の騎士百人ぐらいで囲めば、捕らえられるだろう」
「絶対に無理です!」
軍師が冷や汗をかいた状態で大声でそう言った。
「あの人は魔物より恐ろしい。百人程度でとらえられるはずがありません。せめて五百人。それでも逃げられるかもしれません」
ここにいるカール以外の人間が焦っているというのにカールは全く焦っていなかった。それよりもこれはカールにとってとにかく都合がいい。
「あんな奴一人いなくなったところで何も変わらないだろ。確かに強いかもしれないがあいつだってたった一人の人間なんだぞ?追う必要はない。国王陛下へは僕から伝えておく」
「ですが」
「ですが?これで終わりって言ってるんだ。あいつのことは放っておけ」
確かにリリアは貴族から嫌味嫌われていたのだけれども、リリア自身強く気高く、騎士たちの目標だった。そのため騎士の中にはリリア派の者もいる。幸い軍師や騎士団の上に立っている者はほとんどが貴族に肩入れしている。
そして他の貴族達もリリアがいなくなることでかなり良い事があった。今までリリアの目が鋭く、奴隷や賄賂などの取引は出来なかったのだ。ここ数年だけで奴隷制度はほとんど廃止され、違法な魔法具の流通もしなくなっている。ただ数年前の国の戻るだけで、リリアいなくなったところで何も問題はないのだ。それよりも貴族や商人にとってはいいこと尽くし。
普通隊長になるには、貴族の男児であり騎士団学校を卒業している必要がある。しかしながらリリアは女であり、騎士団学校にも入学していなかった。この王都へ侵入した魔物の大群をたった一人で倒したことで力が認められ、軍へ所属となったためだ。
「カール様、随分と熱心ですね」
オリヴィアが建物の中から日の差す中庭へと姿を現した。リリアと同じ金髪に青い瞳だというのにこんなにも違う。女の子らしい白いワンピースを着て、純潔とされる百合の髪飾りをつけている。
「ああ、やっと騎士団学校を卒業して、騎士団の隊長の座をいただいたからな。これから上を目指さなければ。君のためにもな」
「頑張ってください。私応援していますわ。今までお姉様があんなことをしていたのがおかしかったんです」
頬を桃色に染めてオリヴィアはにっこりと可愛らしい笑みをカールへ向けた。
「本当にカール様にはずっと申し訳なくて」
「こっちもそうだ。この国とウィルトン王国との友好のために、器量と学があるオリヴィアをあの王子と結婚させようとさせていたのだからな」
「いいえ、カール様と結婚できるのですからそんなこともうどうでもいいです」
嬉しそうにオリヴィアはにっこりと笑った。
「それにリリアがいくら魔王軍の四天王を一人倒したからって。数百人も騎士、魔法使いで死傷者を出したんだ。ただとどめを刺しただけだ。それなのにあんなに強がりやがって」
「本当にその通りです」
天使のような笑みを浮かべるオリヴィアはカールにとってのイエスマンに近い。オリヴィアだけはカールに何でも賛同してくれる。
そうやって二人で穏やかな話を続けていると、突然どこからか爆発音が聞こえた気がした。その音がした後、地鳴りも起こった。
「何!?」
驚いたオリヴィアは地面に座り込み、カールはオリヴィアに覆いかぶさるようにしゃがんだ。
「おい、何が起こったんだ!」
近くにいた騎士にカールは怒鳴りつけるように言った。
「わ、分かりません。確認してまいります」
その確認が分かったのは、あと十分後のことだった。第三騎士団隊長となり始めての仕事。それがカールに執務室で伝えられた。
「王宮の武器庫が爆破されました。そして今現在リリア・アインラウド副隊長が王都から逃走を図っているようです」
言いにくそうにリリアの名前を告げると、魔法使いは地図を出した。その地図には赤色に光る点が王都の外側で遠くへ行こうと移動している。
「なんだ、これは」
「副隊長の首には首輪がつけられておりまして、その魔力をたどりました。王都を出ると自然と首を絞めるように設計されています」
執務室で話しているところへ、突然男が一人勢いよく扉を開けて、駆け込んできた。
「アインラウド隊長の小姓が降りません」
男は焦っていたためかリリアのことを隊長と呼んだ。それを聞きカールは目を細める。
「隊長は僕だ!とりあえず、あいつを追うしかないだろ。王都の外側の騎士団駐屯地に声をかけ囲い込むしかない。だが首が絞められるんだろ?そのうち戻ってくるんじゃないか」
「それが、ウィルトン王国から視察にやってきていたノア・ミューズ様もいらっしゃらないので、ともに逃げたのかと。そして、あの首輪は確かに強い魔法がかけられていますが、手練れの魔法使いに解析されてしまえばすぐに破壊されてしまいます」
焦った様子で魔法使いは地図を眺めている。
「だが騎士団の騎士百人ぐらいで囲めば、捕らえられるだろう」
「絶対に無理です!」
軍師が冷や汗をかいた状態で大声でそう言った。
「あの人は魔物より恐ろしい。百人程度でとらえられるはずがありません。せめて五百人。それでも逃げられるかもしれません」
ここにいるカール以外の人間が焦っているというのにカールは全く焦っていなかった。それよりもこれはカールにとってとにかく都合がいい。
「あんな奴一人いなくなったところで何も変わらないだろ。確かに強いかもしれないがあいつだってたった一人の人間なんだぞ?追う必要はない。国王陛下へは僕から伝えておく」
「ですが」
「ですが?これで終わりって言ってるんだ。あいつのことは放っておけ」
確かにリリアは貴族から嫌味嫌われていたのだけれども、リリア自身強く気高く、騎士たちの目標だった。そのため騎士の中にはリリア派の者もいる。幸い軍師や騎士団の上に立っている者はほとんどが貴族に肩入れしている。
そして他の貴族達もリリアがいなくなることでかなり良い事があった。今までリリアの目が鋭く、奴隷や賄賂などの取引は出来なかったのだ。ここ数年だけで奴隷制度はほとんど廃止され、違法な魔法具の流通もしなくなっている。ただ数年前の国の戻るだけで、リリアいなくなったところで何も問題はないのだ。それよりも貴族や商人にとってはいいこと尽くし。
487
お気に入りに追加
1,292
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。
水垣するめ
恋愛
ナタリー・フェネルは伯爵家のノーラン・パーカーと婚約していた。
ナタリーは十歳のある頃、ノーランから「男の僕より目立つな」と地味メイクを強制される。
それからナタリーはずっと地味に生きてきた。
全てはノーランの為だった。
しかし、ある日それは突然裏切られた。
ノーランが急に子爵家のサンドラ・ワトソンと婚約すると言い始めた。
理由は、「君のような地味で無口な面白味のない女性は僕に相応しくない」からだ。
ノーランはナタリーのことを馬鹿にし、ナタリーはそれを黙って聞いている。
しかし、ナタリーは心の中では違うことを考えていた。
(婚約破棄ってことは、もう地味メイクはしなくていいってこと!?)
そして本来のポテンシャルが発揮できるようになったナタリーは、学園の人気者になっていく……。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる