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第六話

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『明後日までに』

 突然国王に呼び出されてリリアは国王のことを睨みつけていた。その空気は空を切るような、張り詰めたギリギリまで張った糸みたいだ。切れてしまえば何が起こるか分からない。
 国王の執務室には大きな玉座に座る国王と、ソファに座るカールと、扉の前に立つリリア。

「今、なんて言いましたか」
「カールのことを第三騎士団隊長に任命しようと思う」
「ということだ」

 真っ白な髭を生やした国王は、机に両肘を付けたままで、手に顎を乗せている。そんな国王を睨みつけられるのはリリアぐらいだろう。

「私がこの国のために働いているのは、第三騎士団隊長という権力があってからです。それが決定事項ならば、私はこの軍から降ります」
「はは!いいんじゃないか」

 カールは笑ってそう言ったのだけれども、国王は真剣な表情で「そんなことできると思っているのか」とリリアは睨みつけた。

「そうだ。お前は俺の下で働くんだよ」

 先ほどとは全く変わってカールは言葉を変えた。リリアは革の手袋をした手で、手を握りしめた。今までさんざんこの国に仕えてきて、この国に十二分に力を貸してきた。

「私はこの国の奴隷ではありません。これ以上私をこき使うつもりなら、私は隣国、ウィルトン王国へ行きます」
「私に歯向かうつもりか?」
「あなたが、私をこれ以上振り回すというのなら」

 国王にあなた、なんて舐めた口を利けるのはリリアぐらいだろう。

「本気か?」
「本気です。これ以上ここに居たら私は、死にます」

 これはリリアにとっての賭けだった。この国で一番の重要な戦力であるリリアはこの国にいなくてはならない。だから国王はリリアをうまく扱うためにはどうしたってリリアの意見を聞く必要がある。そうじゃなければこの国の防衛は破綻してしまう。
 この国は今現在防衛をリリアへ強く依存しているからだ。

「私がいなくなれば、この国は死にます。あなたも。貴族なんてどうでもよくなりますよ」
「本気か?自分の役目を理解していないようだな。お前の役目はこの国を守り続けることだけだ。一生」
「なぜあなたが、私の生きることを決めるんですか」

 それを聞いて国王は笑った。

「私が国王だからだ。お前は手駒だ」
「はあ、そうですか」
「そして女のお前ではなくカールが隊長の座を請け負うべきだと考えた。それだけだ」

 女と男、リリアだって女に生まれたくて生まれたわけじゃない。騎士団にいたくているわけじゃない。この膨大な戦士の力がほしかったわけでもない。でも力がある以上その力は誰かが欲し、リリアもその力を使って、人を助けようとする。それはごく自然なことだ。
 もしも、男に生まれていれば。普通の女の子だったら。この国に男尊女卑が無ければ。ただひたすらに運が悪かっただけだ。

「お前がもしも男だったら、良かったんだがな」

 万年筆を手で回しながら国王は、机の上の紙を眺めている。その言葉はリリアには深く刺さり、心の奥底で解放しろと叫んでいる。

「ふざけるなよ!!」

 今までにない様子でリリアは拳を振り上げた、その拳は壁を叩きつけた。拳を中心に亀裂が入り、ひび割れていく。粉々になった壁の破片が執務室に舞い散る。

「私のことを散々道具に様に扱って、これ以上私に何をしろって言うんだ!」
「リリア、貴様これ以上陛下に舐めた口を利くなら、叩ききるぞ!」

 カールは腰に携えていた剣を震える手で握りしめ、リリアに向けた。その矛先は揺れて、リリアのことを全く捕らえられていない。

「出来るものならやってみなさい」

 同じようにしてリリアも剣を引き抜いた。その意思に迷いはない。カールよりも何十倍も戦士の瞳をしている。矛先は全く揺れずに、カールのことを見定めている。

「死ぬ覚悟はできてるの?」

 その強い殺気にカールは怯んだのだけれども、突然リリアは目を丸くして、手が震えて悶え始めた。剣が床に落ちて、両膝を床につく。呼吸が早く、顔色が悪くなり、首につけられていたチョーカーをリリアは手で押さえ、床で転がりながら悶えた。。チョーカーはリリアの首を強く締め付けている。

「っひ…クソ……」
「陛下、これは」

 目を丸くしてカールはリリアを見た。それから国王の方へ見た。国王は手を握りしめている。その手を離した瞬間、リリアは力を緩ませて肩を上下させて、大きく息をした。

「言っただろ。お前は手駒だって」
「…」

 手を握りしめてリリアは床を叩いた。そんなリリアを見てカールは嘲笑い、矛先をリリアの首元につけた。

「これはもらっておく」

 リリアの胸元につけられていた勲章をカールは一つ取った。


 
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