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第一話
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「ご存じですか?結婚は、許嫁結婚が一番離婚率が低いそうです」
紅茶を淹れながら私はエリオット様にそう言った。それはある意味、遠回しに私と結婚すれば離婚はしないで済みますよ、というメッセージ。
「その情報は、どこからきた。お前がでっち上げたんじゃないのか?」
「でっち上げたなんてそんな」
私はそれでも貴方様の事が諦めきれないのです。あのメアリーという女性の方が美しく、可憐で、あざといのだとしても。
初恋の貴方をあきらめきれないのですよ。
「本当です。心理学の先生がおっしゃっておりました。400組以上もの夫婦を調べたそうですよ。農村行ったり、外国へ行った時も、出会った人みんなに。だから、信用できると思うんです」
紅茶が入ったティーカップをエリオット様へ渡した。受け取ってくださらなかったために、前に静かに置いた。エリオット様は全く私の方なんで向かないで、体ごと横向いてしまっている。
「それも嘘かもしない。もしかしたらその心理学の先生とやらが、お前にほらを吹いたのかもしれない。なぜそんなことも分からない?」
「それがもし嘘だったとして、なぜ、信用なさらないんですか?嘘だと思ったのですか?」
紅茶に全く手を付けようとせずして、エリオット様は鼻で笑った。
「そんな物、愛し合った者同士の方が、ずっと愛し合っていられるに決まっている。現に俺はメアリーとの方がずっと長く一緒に居られると思っている。お前の様に口が達者なわけでも、女のくせに頭が回るわけでは無い」
「頭が弱い女性の方が、女性らしいという事ですか?」
「ああ、女に学なんかいらない。それは男の仕事だ」
ずっとエリオット様は壁にかけられた時計をずっと眺めていらっしゃる。私と一緒に居る時はいつもこう。早く時間が過ぎるように彼は願っている。
その姿を見るのも今日でおしまい。
「ただ、体のつくりが違うだけです」
「ああ、男の方が力がある。男の方が賢い。女よりもな」
時計の針が、カチカチと鳴り響き、どんどん時間は無くなっていく。
「お前のような女、結婚できない。どうせ結婚してもすぐ離婚するのがおちだ。お互いのためにもさっさと婚約破棄しておくべきだろう」
「子供の私達に、それを破棄させる権限など」
手を握りしめ、説得を試みた。
「子供?おいおい、俺もお前ももう17だぞ。いつまで子供ぶってる。それに俺は次期侯爵だぞ。権限も、権威もすべて持っている。お前と違ってな」
「戻ることは出来ないのですね」
「戻れるわけないだろう。時は戻らない。さっさとお前も次の男を探すんだな」
目に涙が浮かんだ。
なんで私はこんな最低な男を今も好きなままなのかしら。なんで、私はこの人を嫌いになれないのかしら。なんで私は。
頭に残っているのは、たまに一緒に散歩してくれたことと、何度か貰った誕生日プレゼント。それはすべて建前だけれど、嬉しかった。
立ち上がり、部屋から出て行こうとするエリオット様が許せなかった。
「嫌です!」
おもわず私は立ち上がって、エリオット様の腕を掴んだ。
「なんで、ですか。婚約したなら、結婚するのが筋でしょう!私は貴方の事を愛しているのに、なぜそれをわかってくださらないのですか!あのメアリーという女は、狡猾で口だけの女狐です!貴方様を不幸にしかさせない!」
あの女はいけない。あの女は…
すると私の方を見たエリオット様は、激昂しているのが分かった。そして掴んでいた手を振りほどかれ、肩を強く押された。
床に倒れた私はテーブルの角に頭を打ち、一瞬意識が遠のいた。でも髪の毛を掴まれ、毛根が悲鳴を上げたために意識がすぐに戻ってきた。
「次メアリーの事を悪く言ったのならば、顔の形が変わるまで殴るぞ」
頭を床にたたきつけられて、目の前が白黒にちかちかと点灯した。最後、エリオット様が部屋から出て行くのが、足だけ見えた。
手を伸ばしても届かない。
「待って、待って…あの女は」
頭に鈍い痛みが走っている中で、部屋を覗き込んだメイドが、悲鳴を上げたのが聞こえた。
紅茶を淹れながら私はエリオット様にそう言った。それはある意味、遠回しに私と結婚すれば離婚はしないで済みますよ、というメッセージ。
「その情報は、どこからきた。お前がでっち上げたんじゃないのか?」
「でっち上げたなんてそんな」
私はそれでも貴方様の事が諦めきれないのです。あのメアリーという女性の方が美しく、可憐で、あざといのだとしても。
初恋の貴方をあきらめきれないのですよ。
「本当です。心理学の先生がおっしゃっておりました。400組以上もの夫婦を調べたそうですよ。農村行ったり、外国へ行った時も、出会った人みんなに。だから、信用できると思うんです」
紅茶が入ったティーカップをエリオット様へ渡した。受け取ってくださらなかったために、前に静かに置いた。エリオット様は全く私の方なんで向かないで、体ごと横向いてしまっている。
「それも嘘かもしない。もしかしたらその心理学の先生とやらが、お前にほらを吹いたのかもしれない。なぜそんなことも分からない?」
「それがもし嘘だったとして、なぜ、信用なさらないんですか?嘘だと思ったのですか?」
紅茶に全く手を付けようとせずして、エリオット様は鼻で笑った。
「そんな物、愛し合った者同士の方が、ずっと愛し合っていられるに決まっている。現に俺はメアリーとの方がずっと長く一緒に居られると思っている。お前の様に口が達者なわけでも、女のくせに頭が回るわけでは無い」
「頭が弱い女性の方が、女性らしいという事ですか?」
「ああ、女に学なんかいらない。それは男の仕事だ」
ずっとエリオット様は壁にかけられた時計をずっと眺めていらっしゃる。私と一緒に居る時はいつもこう。早く時間が過ぎるように彼は願っている。
その姿を見るのも今日でおしまい。
「ただ、体のつくりが違うだけです」
「ああ、男の方が力がある。男の方が賢い。女よりもな」
時計の針が、カチカチと鳴り響き、どんどん時間は無くなっていく。
「お前のような女、結婚できない。どうせ結婚してもすぐ離婚するのがおちだ。お互いのためにもさっさと婚約破棄しておくべきだろう」
「子供の私達に、それを破棄させる権限など」
手を握りしめ、説得を試みた。
「子供?おいおい、俺もお前ももう17だぞ。いつまで子供ぶってる。それに俺は次期侯爵だぞ。権限も、権威もすべて持っている。お前と違ってな」
「戻ることは出来ないのですね」
「戻れるわけないだろう。時は戻らない。さっさとお前も次の男を探すんだな」
目に涙が浮かんだ。
なんで私はこんな最低な男を今も好きなままなのかしら。なんで、私はこの人を嫌いになれないのかしら。なんで私は。
頭に残っているのは、たまに一緒に散歩してくれたことと、何度か貰った誕生日プレゼント。それはすべて建前だけれど、嬉しかった。
立ち上がり、部屋から出て行こうとするエリオット様が許せなかった。
「嫌です!」
おもわず私は立ち上がって、エリオット様の腕を掴んだ。
「なんで、ですか。婚約したなら、結婚するのが筋でしょう!私は貴方の事を愛しているのに、なぜそれをわかってくださらないのですか!あのメアリーという女は、狡猾で口だけの女狐です!貴方様を不幸にしかさせない!」
あの女はいけない。あの女は…
すると私の方を見たエリオット様は、激昂しているのが分かった。そして掴んでいた手を振りほどかれ、肩を強く押された。
床に倒れた私はテーブルの角に頭を打ち、一瞬意識が遠のいた。でも髪の毛を掴まれ、毛根が悲鳴を上げたために意識がすぐに戻ってきた。
「次メアリーの事を悪く言ったのならば、顔の形が変わるまで殴るぞ」
頭を床にたたきつけられて、目の前が白黒にちかちかと点灯した。最後、エリオット様が部屋から出て行くのが、足だけ見えた。
手を伸ばしても届かない。
「待って、待って…あの女は」
頭に鈍い痛みが走っている中で、部屋を覗き込んだメイドが、悲鳴を上げたのが聞こえた。
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