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 腕と肩が露出された青色のボールガウンドレスを身にまとった。いつもは長袖に襟も長いロング・モンタ―トを着ているから、とても涼しく感じられる。肌がこんなに露出した服を着るのはとても久しぶり。風邪が揺れるのが肌で感じられる。
 ブラシでとかした髪をハーフアップにして、ピンク色の口紅をつけ、眼帯の上に前髪をかけた。ピアスも、ネックレスもない。でもこのままでいい。誰にも見られないでも、ただ舞踏会へ出て、ミアと両親にはっきりと別れを告げることが出来れば、それでいい。
 部屋から出て騒がしい一階へと向かった。人々の騒ぎ声、それにヴァイオリンやピアノの音楽。出来る事ならいつもの服を着て、ただエリーゼ様とファミール様の世話をしていたかった。
 そんなことを思いながら、一階への階段を降り、大広間へ行くと、大勢の人々が踊り、楽しんでいた。キラキラして私にはまぶしすぎる。
 むやみやたらに早歩きで大広間を歩いていると、誰かにぶつかった。

「あ、すいません」

 顔を上げてみるとその人は穏やかな表情をした中年の男性であった。

「リル先生!」
「おお!エミリアかい」

 緊張していた心の氷が溶けていくように、私の肩の力は少しだけ抜けた。ずっとリル先生には感謝を伝えなければと思っていたし、とても運が良い。
 思わず私はリル先生の手を握った。

「私ずっと先生にお会いしたかったんです。先生のおかげで私、こんな良いところで生活ができるようになって。本当にありがとうございました」
「それならよかった。ここならきっといいようにしてくれると思っていたんだよ。幸せそうなエミリアが見れて私はは良かったと思っているよ。傷の具合はどうかな?目は?」
「変わりありません。良くもなく悪くもなくと言った様子です」
「変わりないということは良いことだ」

 この人がいなかったら私は今頃見ず知らずの男爵と結婚させられていたかもしれない。ここで働かせてもらえているのは本当にリル先生のおかげ。

「父さん、誰と話してるの?」

 人ごみの中から一人の青年がリル先生のことを、お父さんと呼んで、顔を出した。リル先生と同じ黒髪をした、のっぽな男性だった。筋の通った鼻に切れ長な目、華やかなジャック様とはまた正反対な眉目秀麗な男性だと思った。

「ルーク、患者のエミリアさんだ。少し話をしただろ」
「初めまして・エミリア・フィアナと申します。先生にはとてもお世話になりました」
「初めまして。ルーク・サンドラです」

 ルーク様は軽く会釈をした。穏やかそうな、リル先生と同じ雰囲気を纏っている。

「ルークは私の三男坊で、大学に通っているところなんだ。エミリアとは年が近いと思うよ」
「そうなんですね。私は十六です。再来月で十七になります」
「私は20歳です。お若いのに大変でしたね」

 さわやかに笑いかけられて、慣れた人だと思ってしまった。そんなところでワルツが流れ始めて、それぞれ男女が踊り出した。
 私は皆目踊るつもりはない。相手がいないし、ダンスは変わらず苦手なまま。

「ご一緒にどうですか?」

 目の前に手を差し伸べられて、私は二度見してしまった。え?私?おっとりと穏やかに笑っている。断ったら、こんなの申し訳ない。

「はい、ありがとうございます」

 私は相変わらず社交ダンスが苦手で、人が多いから、より一層距離感おかしい。何度も私は周りの人にぶつかった上に、まるで地団駄を踏んでいるみたいな、無作法なワルツだったと思う。
 だから、私は床に落ちていた、誰のかも分からないピアスを踏んづけて、一瞬体が宙に浮いたみたいな、これ、盛大に転ぶんじゃない?

「あ!とと!」

 これはちょっと。怪我するかもしれない。
 でも私が転ぶことはなかった。代わりに視界が遮られて、長い腕を肩に手を回されて、しっかりと支えられている。これは不本意。

「あぶなかった」

 ため息が漏れるような安堵の声がして、私は転びそうな恐怖なのかなんなのか。ドキドキと心臓が鳴っているのが良く聞こえてきた。

「申し訳ありません!本当にありがとうございました」 

 リル先生とルーク様の前で私は何度も何度も頭を下げた。

「君に怪我がなくてよかったよ。無駄にでかいルークの体が役に立ったな」
「エミリアさんに怪我無くてよかったですから、頭を上げてください」
「ワルツが苦手なのに、でしゃばった私が悪かったんです。本当に申し訳ありません」

 憂鬱な気持ちで私は、テーブルに置かれていた水を手に取って、ため息を吐きながら水を一気に飲み干した。
 ルーク様は優しい人だったから良かったけど、

「え?あなた、エミリア?」

 雑音の中に紛れて聞こえた母の声。母はシャンパンの入ったグラスを片手に、眉をひそめて私の事を不審そうな見つめていた。
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