17 / 29
17
しおりを挟む
エリーゼ様とファミール様へ寝る前に本を読んで差し上げて、寝かせるのはほとんど日課になっていた。その日も二人が左右に居て、二人が眠るまで私が本を読み聞かせた。読む本は決まって、平和で幸せな童話ばかりを読み聞かせた。
膝の上で眠ってしまったファミール様をベッドへ寝かせて、私はまず台所へ向かった。使用人たちがせわしなく働く廊下を通り過ぎ、お湯を沸かして紅茶を入れる。紅茶とティーカップを銀トレーへ乗せて、その場へ向かった。目的の扉の前に着くと、私は何度か深呼吸をしてから、ノックをした。
「夜分遅くに失礼いたします。エミリアでございます」
「入ってくれ」
言われた通り私は器用に銀トレーを持ったまま、静かに扉を開けて入室した。部屋のなかはランプ一つがともっている状態で、大きな明かりはつけられていない。
「いらっしゃい」
「失礼いたします」
いくら知識があると言っても、男の人の部屋に入るのは緊張する。しかも寝室であるし。とにかく自然を装って、部屋に置かれていたアンティーク調の丸テーブルに銀トレーを置いて、紅茶を注ぎ入れた。
「一つしか持ってこなかったのか?」
「はいジャック様の分しか」
「せっかくなら、二人分持ってくればよかったのに」
「いえ、私は大丈夫ですので」
私に雇い主と一緒にお茶する勇気はない。すでに色々やらかしてしまってはいますけれども。椅子に座るように言われて、向かい合う椅子へと腰を掛けた。
「それで話っていうのは?」
「ジャック様へお聞きしても仕方がないことだということは分かっています。分かっているのですが、どうして妹へ、その結婚相手を探す舞踏会への招待状をお渡ししたのでしょうか。妹は婚約者がおりますのに」
「別に私の結婚相手を探す舞踏会と言うわけではないよ。父がその方が女性達が集まって、華があるからと勝手をしているだけ」
苦笑いをしてから、ジャック様は私が注ぎ入れた紅茶を飲んだ。
「そう、でしたか。ではすでに婚約者はいらっしゃるのですか?」
「いや、いない。作ろうと思えば簡単に作れるけれども、恋愛であったり、経済であったり、女性の親の爵位であったり、結婚というのは決めることがとにかく多いから、面倒で先延ばしにしてるのが現状なんだ。父からの引継ぎも多いし、結婚は後でもいいかと思ってる」
随分と疲れている様子で目元を指で押しながら、軽く笑っている。きっと結婚を先延ばしにする行為があまりよくないと思っていながらも、せざるおえない状況だから。
「ジャック様はとてもお優しいので、結婚を一年五年先延ばしにしたところで、何も支障はないと思います。それにしてもお疲れなのですね」
「エミリアも疲れるだろ。慣れない場所で生意気な子供の世話をさせられて。それに怪我だってまだまだ治りかけだろう」
その言葉を聞き、私は自然を顔が緩んだ。
「私はなぜだか疲れを感じないのです。今までしたこともない幸せな日々を過ごしているからかもしれません。なので役職を与えられて、居場所があることは、私にとって今までにない幸福なのです」
「君を助けることができたのであれば、幸運だ」
この人は本当にやさしい人なのね。それに見た目より何倍も大人。
「この恩は少しでも返していきたいのです。私にできることがございましたら、お申し付けください」
私を地獄から救ってくれたジャック様には深い恩があり、その恩を少しでも返していけたら、私はもうなんだっていい。
「それじゃあ、マッサージしてくれないか。肩が凝って凝って、仕方がなくて」
「そんなことでよければいくらでも」
膝の上で眠ってしまったファミール様をベッドへ寝かせて、私はまず台所へ向かった。使用人たちがせわしなく働く廊下を通り過ぎ、お湯を沸かして紅茶を入れる。紅茶とティーカップを銀トレーへ乗せて、その場へ向かった。目的の扉の前に着くと、私は何度か深呼吸をしてから、ノックをした。
「夜分遅くに失礼いたします。エミリアでございます」
「入ってくれ」
言われた通り私は器用に銀トレーを持ったまま、静かに扉を開けて入室した。部屋のなかはランプ一つがともっている状態で、大きな明かりはつけられていない。
「いらっしゃい」
「失礼いたします」
いくら知識があると言っても、男の人の部屋に入るのは緊張する。しかも寝室であるし。とにかく自然を装って、部屋に置かれていたアンティーク調の丸テーブルに銀トレーを置いて、紅茶を注ぎ入れた。
「一つしか持ってこなかったのか?」
「はいジャック様の分しか」
「せっかくなら、二人分持ってくればよかったのに」
「いえ、私は大丈夫ですので」
私に雇い主と一緒にお茶する勇気はない。すでに色々やらかしてしまってはいますけれども。椅子に座るように言われて、向かい合う椅子へと腰を掛けた。
「それで話っていうのは?」
「ジャック様へお聞きしても仕方がないことだということは分かっています。分かっているのですが、どうして妹へ、その結婚相手を探す舞踏会への招待状をお渡ししたのでしょうか。妹は婚約者がおりますのに」
「別に私の結婚相手を探す舞踏会と言うわけではないよ。父がその方が女性達が集まって、華があるからと勝手をしているだけ」
苦笑いをしてから、ジャック様は私が注ぎ入れた紅茶を飲んだ。
「そう、でしたか。ではすでに婚約者はいらっしゃるのですか?」
「いや、いない。作ろうと思えば簡単に作れるけれども、恋愛であったり、経済であったり、女性の親の爵位であったり、結婚というのは決めることがとにかく多いから、面倒で先延ばしにしてるのが現状なんだ。父からの引継ぎも多いし、結婚は後でもいいかと思ってる」
随分と疲れている様子で目元を指で押しながら、軽く笑っている。きっと結婚を先延ばしにする行為があまりよくないと思っていながらも、せざるおえない状況だから。
「ジャック様はとてもお優しいので、結婚を一年五年先延ばしにしたところで、何も支障はないと思います。それにしてもお疲れなのですね」
「エミリアも疲れるだろ。慣れない場所で生意気な子供の世話をさせられて。それに怪我だってまだまだ治りかけだろう」
その言葉を聞き、私は自然を顔が緩んだ。
「私はなぜだか疲れを感じないのです。今までしたこともない幸せな日々を過ごしているからかもしれません。なので役職を与えられて、居場所があることは、私にとって今までにない幸福なのです」
「君を助けることができたのであれば、幸運だ」
この人は本当にやさしい人なのね。それに見た目より何倍も大人。
「この恩は少しでも返していきたいのです。私にできることがございましたら、お申し付けください」
私を地獄から救ってくれたジャック様には深い恩があり、その恩を少しでも返していけたら、私はもうなんだっていい。
「それじゃあ、マッサージしてくれないか。肩が凝って凝って、仕方がなくて」
「そんなことでよければいくらでも」
43
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
クズな夫家族と離れるためなら冷徹騎士でも構いません
コトミ
恋愛
伯爵か騎士団長かを悩んだ末に、伯爵家へ嫁いだソフィは、毎日が地獄だった。義父からセクハラを受け、義母からは罵詈雑言。夫からはほとんど相手にされない日々。それでも終わりはやってくる。義父が死に、義母が死に、夫が死に、最後にソフィが死ぬときがやってきた。その時、赤毛に似合わないサファイアのピアスをつけていた。久しぶりの感覚に目を開けてみると、ソフィは結婚相手を選ぶ少女時代へと戻っていた。家には借金があり、元夫か、冷徹と言われる騎士団長と結婚しなければ借金返済は難しい。
今度こそ間違えない。そう心に誓った。
この国に私はいらないようなので、隣国の王子のところへ嫁ぎます
コトミ
恋愛
舞踏会で、リリアは婚約者のカールから婚約破棄を言い渡された。細身で武術に優れた彼女は伯爵家の令嬢ながら、第三騎士団の隊長。この国の最重要戦力でもあったのだが、リリアは誰からも愛されていなかった。両親はリリアではなく、女の子らしい妹であるオリヴィアの事を愛していた。もちろん婚約者であったカールも自分よりも権力を握るリリアより、オリヴィアの方が好きだった。
貴族からの嫉妬、妬み、国民からの支持。そんな暗闇の中でリリアの目の前に一人の王子が手を差し伸べる。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。
信用してほしければそれ相応の態度を取ってください
haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。
「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」
「ではその事情をお聞かせください」
「それは……ちょっと言えないんだ」
信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。
二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
完璧令嬢が仮面を外す時
編端みどり
恋愛
※本編完結、番外編を更新中です。
冷たいけど完璧。それが王太子の婚約者であるマーガレットの評価。
ある日、婚約者の王太子に好きな人ができたから婚約を解消して欲しいと頼まれたマーガレットは、神妙に頷きながら内心ガッツポーズをしていた。
王太子は優しすぎて、マーガレットの好みではなかったからだ。
婚約を解消するには長い道のりが必要だが、自分を愛してくれない男と結婚するより良い。そう思っていたマーガレットに、身内枠だと思っていた男がストレートに告白してきた。
実はマーガレットは、恋愛小説が大好きだった。憧れていたが自分には無関係だと思っていた甘いシチュエーションにキャパオーバーするマーガレットと、意地悪そうな笑みを浮かべながら微笑む男。
彼はマーガレットの知らない所で、様々な策を練っていた。
マーガレットは彼の仕掛けた策を解明できるのか?
全24話 ※話数の番号ずれてました。教えて頂きありがとうございます!
※アルファポリス様と、カクヨム様に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる