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「右の眉毛はもう生えてこないかもしれません。右目はほとんど見えないでしょう。ですけれども、幸い火傷の部分は少ないですよ」


私は手鏡で自分の顔を見た。右目は青い瞳だったのに、白くなっていて、眉はもう火傷の痕で毛が全く生えていなかった。
私はぽろぽろと涙が流れてきた。ミアが私の目の見える左側にやって来た。


「よかったですね。お姉様、大怪我じゃなくて」


ミアは小さく笑った。私はそれを聞いて、今まで襲われたことが無いような腹から湧き上がる、強い憎しみのような怒りの感情に襲われた。感情に任せて手鏡をミアに投げつけた。


「貴方のせいで!今まで何取られたって、我慢してきたけど、これだけは限界、私の目を見えなくして!地獄に落ちて!」


私はミアに飛びかかろうとしたけれど、左目だけではしっかりと距離が測れずにベッドから、落ちて頭を打った。お医者様が私に手を貸して、どうにかベッドへ戻ったけれども、怒りが収まることは無くて、布団を強く握りしめていた。


「危ないですから、安静にしていてください」
「黙って居られるわけないでしょ!ミアが熱湯をかけてきたから、こんなことになっているのよ!」
「熱湯をかけた?」


もう年老いた医者であるリルが私を支えながら、ミアの事を不審に見た。


「そうよ!ルイスと結婚したかったからこんなバカなことしたの!頭の悪い子だとは思っていたけど、ここまでだなんて思ってなかった」
「聞いた話と違いますね。ミア様はエミリア様が転んで紅茶を被ったと言っていましたけれど」
「私がそんなドジなわけないでしょ!ミアに熱い木炭をそのまま顔につけてきたのよ」


そう私が言うと、リルは骨ぼったい手で私の右目あたりを触り、よく見てきた。


「おかしいと思っていたのですよ。普通、紅茶がかかったぐらいでこんなひどい火傷はしませんから。きっと熱い木炭で、火傷されたのでしょう」


そこに手鏡を投げつけられたミアが、しくしくと泣きべそをかいて父と母の援軍をつれてやってきた。


「どうしたんですか?騒がしい」

「いやはや、娘さんは犯罪者ですよ。エミリア様の火傷はミア様によるものです。ミア様がポットに入った熱湯を顔にかけたそうです」


リル先生は私の味方になってくれるみたいだ。きっとこれで少しはミアの事を叱ってくれるだろう。だって私が失明までしたんだから。


「は、なんて酷い言いがかりだ。ミアがそんなことするわけ無いだろ」
「そうよ!ミアはそんな子じゃないわ。エミリアがミアの事を殴ったから、ミアが自己防衛しただけでしょう?ミアはそう言っていたじゃない」


私がミアのことを殴って、ミアは自己防衛しただけ?この二人は何を言っているの?自己防衛にも加減ってものがあるでしょう。
両親にはミアが良いように話が伝わっているようだ。なんて憎たらしい。私は半分の視界を無くして、酷い火傷の痕が出来たというのに。


「貴方達は親でしょう?娘さんの事を怒ったりしないんですか?」
「もしそれが本当だとしても、しょうがないわ。きっとエミリアが何かしたのよ。姉のくせにミアに優しくしないんだもの。それにまだ片方見えているんだから大丈夫よ」
「何が大丈夫なんですか!右目はほとんど見えなくなっているんですよ!それが、姉なら仕方がないって、貴方達家族はどうかしている!」


このリル先生は常識人だ。今まで、こんなことを言ってくれる人なんて居なかった。ウチの家はどうかしている。


「ウチがどうかしているですって?この医者どうかしているわ。ねえ、あなた」
「うちは子爵家だぞ。なんて礼儀の無い医者だ。さっさと出ていけ!」


リル先生は大きなカバンと共に出て行かされてしまった。私は布団を握りしめた。リル先生でも通じなかったのだから、きっともう私の話は通じない。


「エミリア、話があるの」
「……な、なんですか」


何を話すつもりだ?屋敷を追い出すと言うのか?なんだかミアはずっと機嫌は良さげだけれども、それと関係あるのか?母は真剣な面持ちで私の事を見てきた。



「ルイス様との結婚はミアがすることになりましたから」
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