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第13話
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ある日ミアからの手紙がプツリと途切れた。それを見たソフィアもウィルももう諦めたものだと思い安堵の気持ちが訪れたのもつかの間だった。
屋敷の玄関に備え付けられているベルが洋館内に響き渡り、玄関近くに居たメイドは不用心にも誰が立っているのか確認せず玄関の鍵を開け、扉を開けた。
「こんにちは。お姉様、いるかしら?」
ミアとオリバーが立っていた。メイドは会釈をし「少々お待ちください」と言い扉を一旦閉めようとしたけれども、オリバーが外からドアノブを強くひき、ミアは扉の隙間からするりと、洋館の中へ入った。メイドは無理に入ってくる二人に恐怖した。
「困ります。旦那様に確認してまいりますので、いったん外でお待ちください」
「この屋敷では客人を寒空の下で待たせるのか。なんていう屋敷だ。屋敷の中に入ったぐらいでバチは当たらないだろう」
「オリバーの言う通り。それに二人が結婚したっていう話を聞いて、結婚祝いを持ってきたの」
確かにミアの右手にはケーキの箱のようなものがある。けれどもメイド達はハンプソン家の人間を容易に入れないようにと言われている。
二人は行儀や礼儀という単語を全く知らないのか、誰に制止されようが洋館の中を進んでいく。そして飾られている絵画や高級な置物にべたべたと触る。
「高い物ばかり飾られているわね」
「ただの骨董品だろう」
「それもそうだけれどもね」
洋館の中を進んでいきミアは階段を眺めた。そして不気味な笑みを浮かべると、階段へ向かった。それを見てメイドは必死で止めようとしたけれどもミアは「お姉様にお会いしたいの」と言って制止を振り切ろうとする。その上オリバーが「ただ姉に会いたがっているんだ。何をそんなに嫌がる必要がある」と言ってミアを二階へ上がらせようとしている。
「何をしているんですか」
押し問答を繰り広げている二人を二階から眺めてウィルは眉間にしわを寄せた。
「ここは私の屋敷ですけれども。身勝手なことをされるのであれば警察でも騎士団でもなんでも呼んで、付きだしますよ」
警察、騎士団、その言葉を聞いたオリバーは後ずさりしたけれどもミアは、まったく気にしておらずにっこりと笑って「申し訳ございません」と言った。
「でも、どうしてもお姉様をお会いしたくて。こちらケーキです。よかったら食べてください」
「下で話をしましょう。客間へ案内してくれたまえ」
メイド達はギクシャクしながらも、二人を客間へ案内した。客間へ案内された二人は出された紅茶を飲みながらウィルが降りてくることを待った。
ウィルはラフな普段着で降りてきて、二人と面を合わせた。
「お久しぶりです。ウィル・ケイルトン様」
「お久しぶりです。そちらの方は?」
「私の婚約者のオリバーです」
「オリバー・フェルメールと申します。貴方がソフィアと結婚した方でしたか」
椅子から立ち上がり、しっかりと礼をし、それを返すようにウィルも丁寧に頭を下げ、胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「ウィル・ケイルトン。バギンズファクトリーの社長を務めております」
名刺の端を指で押さえて、オリバーの前に差し出した。その名刺を受け取ったオリバーは目を丸くした。
「貴族ではないのですか?」
「商人ですね」
「バギンズと言えば、かなりの富豪だという噂だと思うのですが」
「まだまだ成長期です」
二人とも席につき「さて」とウィルは大きなため息をついた。あまり敬語を使わないウィルが敬語を使っているためか厳かな雰囲気となっている。
「ミアさん、貴方私の妻にどれだけの危害を加えれば気が済むのですか」
「危害?そんなこと何もしておりませんよ」
「これは言葉の違いですね。質問を変えます。私の妻にどれだけ執着すれば気が済むのですか。もう彼女は貴方と関わりたくないと言っている。それなのに執拗に手紙を送りつけて、友人たちまで使って大量の手紙を送り付け。迷惑という言葉を知らないのですか」
睨みつけるように静かに目を細めるウィルに対して、オリバーは「違う」と声を上げた。
「違います。ケイルトンさん、貴方はソフィアに騙されている。ソフィアはミアのことをいじめていたんですよ。それなのに人に怒られたから貴方のところへ逃げて。ソフィアは罰を受けるべきなんです」
「罰を受けるべきなら、警察でも、騎士団にでも相談すればいい。裁判で有罪になれば適切な罰を受けることが出来
ますからね」
真面目にまっすぐと二人を見てウィルは言うのに対して、オリバーは怯む。
「いや、そんな重大なことじゃないのに…」
「そう、重大じゃない。それと妻がミアさんをいじめたという証拠はどこにあるのでしょうか」
「ミアが殴られた痣を見たことがある」
適切な反論をされたウィルは特に動じることもなく、ミアを見た。
「その痣はいつ、どこで、なぜつけられたのですか?それと本当にソフィアがつけた傷ですか?」
「あれは屋敷の中でした。ほんの一か月前。ちょっとした口論になってしまって」
「口論の理由は何ですか?」
「それは、思い出したくありません。とにかく罵倒されたことを覚えています…」
俯きながらのらりくらりと返答を返すミアにたいしてウィルはまた質問をしようとしたけれどもそれをオリバーがさえぎった。
「ミアがこう言っているんです。やめてください。ミアの傷を抉るのは」
ウィルのことを睨みつけて、ミアの手を握りしめる。
「貴方がミアさんを守りたいように、私も妻を守りたいのです。だからミアさんがどうなろうが、私は特に何も思わない」
「それは人間としてどうなんですか」
「貴方もソフィアに対して、力加減のないビンタをしたではないですか。何も思わないから貴方もソフィアにビンタをしたのでしょう?」
一旦何を言おうか迷ったオリバーだったけれども「あれは罰だ」と言った。
「ではこれも罰です。今すぐ私もミアさんを殴りたいですよ」
すべてが裏目に出てしまう。オリバーを見てミアは涙を流し始めた。
「お願いです。お姉様に合わせてください。私はお姉様と仲直りをしたいだけなの」
「それはできませんね」
「どうしてだ。ミアはここに出てきているんだぞ」
それを聞いたウィルは両手を握りしめて「黙れ」と小さく低音な声を発した。
「今ソフィアはあの大量の手紙の件で精神的に追い詰められ体を壊しています。出てこれるわけないでしょう」
屋敷の玄関に備え付けられているベルが洋館内に響き渡り、玄関近くに居たメイドは不用心にも誰が立っているのか確認せず玄関の鍵を開け、扉を開けた。
「こんにちは。お姉様、いるかしら?」
ミアとオリバーが立っていた。メイドは会釈をし「少々お待ちください」と言い扉を一旦閉めようとしたけれども、オリバーが外からドアノブを強くひき、ミアは扉の隙間からするりと、洋館の中へ入った。メイドは無理に入ってくる二人に恐怖した。
「困ります。旦那様に確認してまいりますので、いったん外でお待ちください」
「この屋敷では客人を寒空の下で待たせるのか。なんていう屋敷だ。屋敷の中に入ったぐらいでバチは当たらないだろう」
「オリバーの言う通り。それに二人が結婚したっていう話を聞いて、結婚祝いを持ってきたの」
確かにミアの右手にはケーキの箱のようなものがある。けれどもメイド達はハンプソン家の人間を容易に入れないようにと言われている。
二人は行儀や礼儀という単語を全く知らないのか、誰に制止されようが洋館の中を進んでいく。そして飾られている絵画や高級な置物にべたべたと触る。
「高い物ばかり飾られているわね」
「ただの骨董品だろう」
「それもそうだけれどもね」
洋館の中を進んでいきミアは階段を眺めた。そして不気味な笑みを浮かべると、階段へ向かった。それを見てメイドは必死で止めようとしたけれどもミアは「お姉様にお会いしたいの」と言って制止を振り切ろうとする。その上オリバーが「ただ姉に会いたがっているんだ。何をそんなに嫌がる必要がある」と言ってミアを二階へ上がらせようとしている。
「何をしているんですか」
押し問答を繰り広げている二人を二階から眺めてウィルは眉間にしわを寄せた。
「ここは私の屋敷ですけれども。身勝手なことをされるのであれば警察でも騎士団でもなんでも呼んで、付きだしますよ」
警察、騎士団、その言葉を聞いたオリバーは後ずさりしたけれどもミアは、まったく気にしておらずにっこりと笑って「申し訳ございません」と言った。
「でも、どうしてもお姉様をお会いしたくて。こちらケーキです。よかったら食べてください」
「下で話をしましょう。客間へ案内してくれたまえ」
メイド達はギクシャクしながらも、二人を客間へ案内した。客間へ案内された二人は出された紅茶を飲みながらウィルが降りてくることを待った。
ウィルはラフな普段着で降りてきて、二人と面を合わせた。
「お久しぶりです。ウィル・ケイルトン様」
「お久しぶりです。そちらの方は?」
「私の婚約者のオリバーです」
「オリバー・フェルメールと申します。貴方がソフィアと結婚した方でしたか」
椅子から立ち上がり、しっかりと礼をし、それを返すようにウィルも丁寧に頭を下げ、胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「ウィル・ケイルトン。バギンズファクトリーの社長を務めております」
名刺の端を指で押さえて、オリバーの前に差し出した。その名刺を受け取ったオリバーは目を丸くした。
「貴族ではないのですか?」
「商人ですね」
「バギンズと言えば、かなりの富豪だという噂だと思うのですが」
「まだまだ成長期です」
二人とも席につき「さて」とウィルは大きなため息をついた。あまり敬語を使わないウィルが敬語を使っているためか厳かな雰囲気となっている。
「ミアさん、貴方私の妻にどれだけの危害を加えれば気が済むのですか」
「危害?そんなこと何もしておりませんよ」
「これは言葉の違いですね。質問を変えます。私の妻にどれだけ執着すれば気が済むのですか。もう彼女は貴方と関わりたくないと言っている。それなのに執拗に手紙を送りつけて、友人たちまで使って大量の手紙を送り付け。迷惑という言葉を知らないのですか」
睨みつけるように静かに目を細めるウィルに対して、オリバーは「違う」と声を上げた。
「違います。ケイルトンさん、貴方はソフィアに騙されている。ソフィアはミアのことをいじめていたんですよ。それなのに人に怒られたから貴方のところへ逃げて。ソフィアは罰を受けるべきなんです」
「罰を受けるべきなら、警察でも、騎士団にでも相談すればいい。裁判で有罪になれば適切な罰を受けることが出来
ますからね」
真面目にまっすぐと二人を見てウィルは言うのに対して、オリバーは怯む。
「いや、そんな重大なことじゃないのに…」
「そう、重大じゃない。それと妻がミアさんをいじめたという証拠はどこにあるのでしょうか」
「ミアが殴られた痣を見たことがある」
適切な反論をされたウィルは特に動じることもなく、ミアを見た。
「その痣はいつ、どこで、なぜつけられたのですか?それと本当にソフィアがつけた傷ですか?」
「あれは屋敷の中でした。ほんの一か月前。ちょっとした口論になってしまって」
「口論の理由は何ですか?」
「それは、思い出したくありません。とにかく罵倒されたことを覚えています…」
俯きながらのらりくらりと返答を返すミアにたいしてウィルはまた質問をしようとしたけれどもそれをオリバーがさえぎった。
「ミアがこう言っているんです。やめてください。ミアの傷を抉るのは」
ウィルのことを睨みつけて、ミアの手を握りしめる。
「貴方がミアさんを守りたいように、私も妻を守りたいのです。だからミアさんがどうなろうが、私は特に何も思わない」
「それは人間としてどうなんですか」
「貴方もソフィアに対して、力加減のないビンタをしたではないですか。何も思わないから貴方もソフィアにビンタをしたのでしょう?」
一旦何を言おうか迷ったオリバーだったけれども「あれは罰だ」と言った。
「ではこれも罰です。今すぐ私もミアさんを殴りたいですよ」
すべてが裏目に出てしまう。オリバーを見てミアは涙を流し始めた。
「お願いです。お姉様に合わせてください。私はお姉様と仲直りをしたいだけなの」
「それはできませんね」
「どうしてだ。ミアはここに出てきているんだぞ」
それを聞いたウィルは両手を握りしめて「黙れ」と小さく低音な声を発した。
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