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第3話
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ソフィアの頬を平手打ちしたのはオリバーだった。これがミアや母親ならどれだけよかったものか、男の力加減無しの平手打ち。顎まで振動が伝わり、皮膚は焼けるように痛かった。そのためソフィアはよろめき、手すりに背中を預けた。
「どれだけミアをないがしろにすれば気が済む」
「ないがしろって」
「ミアは今までお前のいじめに我慢してきたんだぞ!」
そしてソフィアから視線を外したオリバーは両親の方に向いた。
「ご両親は知らなかったかもしれませんが、ソフィアは今までミアのことをいじめていたんです!痛めつけられていたんですよ!」
両親は目を合わせて、ソフィアを見てそれから困惑した。
「確かにソフィアがミアに嫉妬していたところはあったかもしれないけど」
「そうだ。ソフィアに限ってそんなこと。まあ確かに昔ミアのドレスを鋏で切ったことがあったけれども、あれ以来ミアは何も言ってこなかったし、ソフィアも」
「お義父様と、お義母様はソフィアに裏の顔があることを知らないだけです!」
オリバーが懸命に説得しようとしている中で、両親はソフィアがそんなことをしている雰囲気なんて一つも感じたことがなくただ呆れている様子だった。けれども一人少女が「嘘じゃないです!ミアのお姉さんは、ずっとミアのことをいじめていたんですよ!」と声を荒げた。それに続いて他の令嬢達も、ミアを助けるための善良な心で参戦していった。
やっとソフィアは友達を呼んでおけばよかったと後悔した。これではミアの思うつぼ、両親も揺らぎ始め、一人として味方がいない。
そしてやっとミアが出てきて、両親に涙を流しながら告げた。それは本物の涙に皆には見えていたのかもしれない。けれどもソフィアには、舞台で女優が流す悲劇の涙に見えた。
「お父様、お母様、今まで心配をかけたくなくて、言っていなかったんだけど、本当なの。これもお姉様に」
この現場を客観的に見たとしたら、ミアが可哀そうなか弱い美人な少女。それに対してソフィアはそんな妹に嫉妬をしていじめをする悪い姉。
まるで小説に出てくる悪役令嬢。それがミアがソフィアにつけたかったレッテル。もう逃げ場なんてなかった。この舞踏会という場でミアは女王で、場を仕切ることが出来る。ソフィアにはその権限がない。
「ソフィア、ほんとうなの?ミアにあんなことしたの?」
鋭い剣幕で母親は青ざめるソフィアの表情を見た。
「ソフィア!!」
母親は叱るということが出来ない。ソフィアは感情を抑えることが出来ず何度もヒステリックになる母親を見てきた。そんな母親に正論など通じるわけがない。
「ミアが嘘をついていることは疑わないのに、私がいじめてることはすぐに受け入れるの?」
「屁理屈は良いの!どうなの?やったのやってないの?」
「やったって、言ったら私をどうするの?家から追い出す?」
いつもは反論しないソフィアが口答えしたことで母親は顔を真っ赤にして手を握りしめた。
「もういいわ。部屋に戻りなさい!」
それを聞いたソフィアはもう何も考えないまま、テラスの手すりを飛び越えた。庭に飛び降りて、履いていた高いヒールを脱ぎ捨てた。髪飾りが落ちるのもかまわず庭の土の上を走る。
「ソフィア!待ちなさい!」
誰も手すりを飛び越えるようなことはせず、玄関へ遠回りしてソフィアをおいかけようとしている。
屋敷の玄関前のレンガで作られた道までやってくると、階段を何段も飛び降りて足が傷だらけになるのもかまわずに走った。そして最後の階段を飛び降りてしまおうとしたとき、背後から革靴が石畳を蹴る音が聞こえてきた。思わず振り向いたソフィアは階段から足を踏み外し、恐怖的な浮遊感に襲われる。
落ちると悟ったソフィアは目をぎゅっとつぶった。けれど誰かに強く腕を引かれて、階段から落ちることはなかった。見るとあの特徴的な髪をした青年だった。階段に座り込みながら、捕まったとソフィアは悟った。
「離して、今逃げないと、もう逃げられない。もう耐えられない」
青年の手をどうにかはがそうとするけれども、力が強くそんなことできない。涙を流しながらソフィアは「お願いだから」と懇願した。大勢の足音が近づいてくる。青年はその音を聞くと、ソフィアの腕を引いて、馬車へ向かった。
「僕は君が悪いようには見えない、おいで、助けてあげるよ」
そう青年は言うと、ソフィアの手を掴んだまま、馬車へと走った。ソフィアは混乱したまま馬車の中に詰め込まれる、青年もすぐに乗り込んだ。馬車はすぐに動き出し、ソフィアは見つからないよう頭を下げて、涙を流していた。そんな震える背中を青年は撫で、暗い馬車に明かりをつけた。
意味も分からず馬車に飛び込んだソフィアは、青年を見上げた。
「どれだけミアをないがしろにすれば気が済む」
「ないがしろって」
「ミアは今までお前のいじめに我慢してきたんだぞ!」
そしてソフィアから視線を外したオリバーは両親の方に向いた。
「ご両親は知らなかったかもしれませんが、ソフィアは今までミアのことをいじめていたんです!痛めつけられていたんですよ!」
両親は目を合わせて、ソフィアを見てそれから困惑した。
「確かにソフィアがミアに嫉妬していたところはあったかもしれないけど」
「そうだ。ソフィアに限ってそんなこと。まあ確かに昔ミアのドレスを鋏で切ったことがあったけれども、あれ以来ミアは何も言ってこなかったし、ソフィアも」
「お義父様と、お義母様はソフィアに裏の顔があることを知らないだけです!」
オリバーが懸命に説得しようとしている中で、両親はソフィアがそんなことをしている雰囲気なんて一つも感じたことがなくただ呆れている様子だった。けれども一人少女が「嘘じゃないです!ミアのお姉さんは、ずっとミアのことをいじめていたんですよ!」と声を荒げた。それに続いて他の令嬢達も、ミアを助けるための善良な心で参戦していった。
やっとソフィアは友達を呼んでおけばよかったと後悔した。これではミアの思うつぼ、両親も揺らぎ始め、一人として味方がいない。
そしてやっとミアが出てきて、両親に涙を流しながら告げた。それは本物の涙に皆には見えていたのかもしれない。けれどもソフィアには、舞台で女優が流す悲劇の涙に見えた。
「お父様、お母様、今まで心配をかけたくなくて、言っていなかったんだけど、本当なの。これもお姉様に」
この現場を客観的に見たとしたら、ミアが可哀そうなか弱い美人な少女。それに対してソフィアはそんな妹に嫉妬をしていじめをする悪い姉。
まるで小説に出てくる悪役令嬢。それがミアがソフィアにつけたかったレッテル。もう逃げ場なんてなかった。この舞踏会という場でミアは女王で、場を仕切ることが出来る。ソフィアにはその権限がない。
「ソフィア、ほんとうなの?ミアにあんなことしたの?」
鋭い剣幕で母親は青ざめるソフィアの表情を見た。
「ソフィア!!」
母親は叱るということが出来ない。ソフィアは感情を抑えることが出来ず何度もヒステリックになる母親を見てきた。そんな母親に正論など通じるわけがない。
「ミアが嘘をついていることは疑わないのに、私がいじめてることはすぐに受け入れるの?」
「屁理屈は良いの!どうなの?やったのやってないの?」
「やったって、言ったら私をどうするの?家から追い出す?」
いつもは反論しないソフィアが口答えしたことで母親は顔を真っ赤にして手を握りしめた。
「もういいわ。部屋に戻りなさい!」
それを聞いたソフィアはもう何も考えないまま、テラスの手すりを飛び越えた。庭に飛び降りて、履いていた高いヒールを脱ぎ捨てた。髪飾りが落ちるのもかまわず庭の土の上を走る。
「ソフィア!待ちなさい!」
誰も手すりを飛び越えるようなことはせず、玄関へ遠回りしてソフィアをおいかけようとしている。
屋敷の玄関前のレンガで作られた道までやってくると、階段を何段も飛び降りて足が傷だらけになるのもかまわずに走った。そして最後の階段を飛び降りてしまおうとしたとき、背後から革靴が石畳を蹴る音が聞こえてきた。思わず振り向いたソフィアは階段から足を踏み外し、恐怖的な浮遊感に襲われる。
落ちると悟ったソフィアは目をぎゅっとつぶった。けれど誰かに強く腕を引かれて、階段から落ちることはなかった。見るとあの特徴的な髪をした青年だった。階段に座り込みながら、捕まったとソフィアは悟った。
「離して、今逃げないと、もう逃げられない。もう耐えられない」
青年の手をどうにかはがそうとするけれども、力が強くそんなことできない。涙を流しながらソフィアは「お願いだから」と懇願した。大勢の足音が近づいてくる。青年はその音を聞くと、ソフィアの腕を引いて、馬車へ向かった。
「僕は君が悪いようには見えない、おいで、助けてあげるよ」
そう青年は言うと、ソフィアの手を掴んだまま、馬車へと走った。ソフィアは混乱したまま馬車の中に詰め込まれる、青年もすぐに乗り込んだ。馬車はすぐに動き出し、ソフィアは見つからないよう頭を下げて、涙を流していた。そんな震える背中を青年は撫で、暗い馬車に明かりをつけた。
意味も分からず馬車に飛び込んだソフィアは、青年を見上げた。
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