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第2話
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夜も更けってきたところで、舞踏会も始まってきたというところだった。けれども視線の先には舞踏会の真ん中でオリバーと踊るミアの姿を目で追っていた。そして周りのミアの友人たちは誰もそれを咎めようとはしない。それより事情を知らない人々は穏やかな笑顔で見守っている。
両親もそれは同じ。ソフィアは何もできない状況で腕を握りしめていた。誰の誕生日パーティーなのか分からなくなってしまっていた。
そんな舞踏会をやり過ごしていると、ミアがソフィアのところへやってきて、にっこりと笑った。オリバーは来賓達と会話をしている。
「お姉様少しお話があるの」
「どうしたの?」
「テラスに行きましょう」
機嫌のいいミアはソフィアにとって不気味に見えていた。いつもソフィアに対してはあまり愛想よく接するわけではない。
ミアにてを引っ張られながらテラスへ出て冷たい夜風に当たった。悲しみや息苦しさをその夜風が和らげてくれるようだった。ミアは手すりに背中を預けながらソフィアのことを見つめた。
「あのね、お姉様話っていうのは、私の結婚に関することなの」
「貴方、婚約者が出来たの?よかったじゃない。ミアは可愛いし、すぐに婚約者ができると思ってた」
「心にもないことを」
吐き捨てるようにミアはそう言った。
「建前って知ってる?貴方も建前ってたくさん使うでしょう?」
「確かに。お姉様も美人よ。私の次にね」
「ありがとう」
人がいなくなった途端に、二人は嫌味をぶつけあった。これが二人の日常であった。嫌味な理由はソフィアが端的な悪口を言ってしまえばミアが何をするか分からないから。
「それでね、私の婚約者っていうのは、あの舞踏会に居たんだけど」
そこで一つ思い当たったことがあったストロベリーブロンドをしたあの青年のことだった。あのイケメンならミアも納得する男性だと思ったのだ。
「ああ、あの女性に囲まれていた艶やかな髪をした方?」
けれどもミアは怪訝そうな顔をして「誰それ」と言った。
「違うならいい。随分眉目秀麗で、品のある方だったから、あの方かと思っただけ」
「友達が連れてきたんじゃない?それかお父様とお母様の知人の息子。まあそれはどうでもいい。それで私の婚約者っていうのは」
「ええ」
今までにないぐらいにミアは嬉しそうな、嫌味と悪意が混じった笑みを浮かべた。それがソフィアにとっては不気味でたまらなかった。
「オリバー様」
一瞬驚きながらもソフィアは冷静だった。
「あの方は私の婚約者のはずだけど。何か勘違いしていない?」
「勘違いはお姉様でしょう?オリバー様がそっけなくなってるのに気が付かなかったの?鈍感ね。だからモテないのよ」
「でもだからって、婚約破棄できるはずないわよ。もう1週間後には式を挙げるのよ」
「ええ、でもそれってキャンセルすればいいだけじゃない。何をそんなに慌ててるの?オリバー様は次期伯爵でお金持ちだし、キャンセル料ぐらい払ってくださるわ」
両手を握りしめながらソフィアは高ぶる感情を抑えることに必死だった。それに対してミアは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「5年待ったのよ。5年前に婚約して、それを無かったことにするなんて、できるはずない。お父様とお母様も、オリバー様のご両親もお怒りになるわ」
「大丈夫、私会話は得意だから、説得するのは簡単だと思うわ」
「そ、そんな簡単な話じゃないわよ」
「簡単よ」
突然ミアはソフィアの肩に手を置いて、にっこりと笑った。
「だってお姉様には魅力も美しい容姿も何もないもの。不細工は不細工な相手と結婚するのが筋ってもんでしょ。お姉様。ほら、あの人なんてどう?婚期を逃して、もう三十になるんじゃない?一応伯爵らしいし、お金がっぽりもらえると思うよ」
ミアの視線の先にはでっぷりと太った、女好きで有名な地方の伯爵公がいた。近くに若い女性をはべらせている。あの人と結婚なんてしたら、人生が暗黒と転する。
「ミア、貴方オリバーのことを大切にできるの?」
「ええ、できるわ」
羽よりも軽いそんな返事だったけれども、ソフィアはもう疲れ切っていた。
「そう、それならいいわ」
「やったぁ!ありがとう!お姉様、大好き」
ソフィアの頬にキスをして、ミアは舞踏会へ走って戻っていった。そしてミアはそこへ戻った途端に大声で「ちゅーもーく!」と声を上げた。窓ガラスから見える、ミアとオリバーが腕を組む様子。オリバーもまんざらでない様子。今まで見たことが無い満面の笑みだった。
もう大広間の方を見た句が無く、視線をずらして、空を見上げていた。そこへ突然ソフィアの両親がやってきた。ソフィアは笑顔を作りながらも、目を合わせずにいた。
「どうかなさったの?」
すると母親はソフィアのことを抱きしめた。
「ごめんなさいね。せっかくあと1週間後には結婚できることになっていたのに」
「じゃあ、なんでミアを止めてくれなかったの?」
母親は優しくにっこりと笑った。
「だって貴方が結婚できるのに、ミアが結婚できないなんてかわいそうでしょう?」
そしてまたソフィアのことを抱きしめて「貴方はお姉ちゃんだもの、聞き分けが良いもの、分かってくれるわよね」とまるで子供をなだめるような声色で言う。
「お父様がすぐ新しい婚約者を探してあげるから」
今までのソフィアならばこれに言いくるめられて、両親がここまで言うならと、手を引いていたかもしれない。でも今日のソフィアは食い下がることを選択した。
「ミアが今までお父様とお母様に何をくれた?何をしてくれた?」
「突然何、ソフィア」
「私は今まで、ミアの二の次にされてきたのに!婚約者まで奪われないといけないの?オリバーはブレスレットや、ドレスとは違うのよ!一生の相手なのに!ミアがオリバーと上手くやっていけるわけない!」
その瞬間ソフィアの目の前にオリバーがやってきた。ミアは悲しそうな表情を浮かべながら、両親とオリバーに隠れるようにしている。
そして次の瞬間、ソフィアの頬に痛みが走った。
「いい加減にするんだ!ソフィア!」
両親もそれは同じ。ソフィアは何もできない状況で腕を握りしめていた。誰の誕生日パーティーなのか分からなくなってしまっていた。
そんな舞踏会をやり過ごしていると、ミアがソフィアのところへやってきて、にっこりと笑った。オリバーは来賓達と会話をしている。
「お姉様少しお話があるの」
「どうしたの?」
「テラスに行きましょう」
機嫌のいいミアはソフィアにとって不気味に見えていた。いつもソフィアに対してはあまり愛想よく接するわけではない。
ミアにてを引っ張られながらテラスへ出て冷たい夜風に当たった。悲しみや息苦しさをその夜風が和らげてくれるようだった。ミアは手すりに背中を預けながらソフィアのことを見つめた。
「あのね、お姉様話っていうのは、私の結婚に関することなの」
「貴方、婚約者が出来たの?よかったじゃない。ミアは可愛いし、すぐに婚約者ができると思ってた」
「心にもないことを」
吐き捨てるようにミアはそう言った。
「建前って知ってる?貴方も建前ってたくさん使うでしょう?」
「確かに。お姉様も美人よ。私の次にね」
「ありがとう」
人がいなくなった途端に、二人は嫌味をぶつけあった。これが二人の日常であった。嫌味な理由はソフィアが端的な悪口を言ってしまえばミアが何をするか分からないから。
「それでね、私の婚約者っていうのは、あの舞踏会に居たんだけど」
そこで一つ思い当たったことがあったストロベリーブロンドをしたあの青年のことだった。あのイケメンならミアも納得する男性だと思ったのだ。
「ああ、あの女性に囲まれていた艶やかな髪をした方?」
けれどもミアは怪訝そうな顔をして「誰それ」と言った。
「違うならいい。随分眉目秀麗で、品のある方だったから、あの方かと思っただけ」
「友達が連れてきたんじゃない?それかお父様とお母様の知人の息子。まあそれはどうでもいい。それで私の婚約者っていうのは」
「ええ」
今までにないぐらいにミアは嬉しそうな、嫌味と悪意が混じった笑みを浮かべた。それがソフィアにとっては不気味でたまらなかった。
「オリバー様」
一瞬驚きながらもソフィアは冷静だった。
「あの方は私の婚約者のはずだけど。何か勘違いしていない?」
「勘違いはお姉様でしょう?オリバー様がそっけなくなってるのに気が付かなかったの?鈍感ね。だからモテないのよ」
「でもだからって、婚約破棄できるはずないわよ。もう1週間後には式を挙げるのよ」
「ええ、でもそれってキャンセルすればいいだけじゃない。何をそんなに慌ててるの?オリバー様は次期伯爵でお金持ちだし、キャンセル料ぐらい払ってくださるわ」
両手を握りしめながらソフィアは高ぶる感情を抑えることに必死だった。それに対してミアは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「5年待ったのよ。5年前に婚約して、それを無かったことにするなんて、できるはずない。お父様とお母様も、オリバー様のご両親もお怒りになるわ」
「大丈夫、私会話は得意だから、説得するのは簡単だと思うわ」
「そ、そんな簡単な話じゃないわよ」
「簡単よ」
突然ミアはソフィアの肩に手を置いて、にっこりと笑った。
「だってお姉様には魅力も美しい容姿も何もないもの。不細工は不細工な相手と結婚するのが筋ってもんでしょ。お姉様。ほら、あの人なんてどう?婚期を逃して、もう三十になるんじゃない?一応伯爵らしいし、お金がっぽりもらえると思うよ」
ミアの視線の先にはでっぷりと太った、女好きで有名な地方の伯爵公がいた。近くに若い女性をはべらせている。あの人と結婚なんてしたら、人生が暗黒と転する。
「ミア、貴方オリバーのことを大切にできるの?」
「ええ、できるわ」
羽よりも軽いそんな返事だったけれども、ソフィアはもう疲れ切っていた。
「そう、それならいいわ」
「やったぁ!ありがとう!お姉様、大好き」
ソフィアの頬にキスをして、ミアは舞踏会へ走って戻っていった。そしてミアはそこへ戻った途端に大声で「ちゅーもーく!」と声を上げた。窓ガラスから見える、ミアとオリバーが腕を組む様子。オリバーもまんざらでない様子。今まで見たことが無い満面の笑みだった。
もう大広間の方を見た句が無く、視線をずらして、空を見上げていた。そこへ突然ソフィアの両親がやってきた。ソフィアは笑顔を作りながらも、目を合わせずにいた。
「どうかなさったの?」
すると母親はソフィアのことを抱きしめた。
「ごめんなさいね。せっかくあと1週間後には結婚できることになっていたのに」
「じゃあ、なんでミアを止めてくれなかったの?」
母親は優しくにっこりと笑った。
「だって貴方が結婚できるのに、ミアが結婚できないなんてかわいそうでしょう?」
そしてまたソフィアのことを抱きしめて「貴方はお姉ちゃんだもの、聞き分けが良いもの、分かってくれるわよね」とまるで子供をなだめるような声色で言う。
「お父様がすぐ新しい婚約者を探してあげるから」
今までのソフィアならばこれに言いくるめられて、両親がここまで言うならと、手を引いていたかもしれない。でも今日のソフィアは食い下がることを選択した。
「ミアが今までお父様とお母様に何をくれた?何をしてくれた?」
「突然何、ソフィア」
「私は今まで、ミアの二の次にされてきたのに!婚約者まで奪われないといけないの?オリバーはブレスレットや、ドレスとは違うのよ!一生の相手なのに!ミアがオリバーと上手くやっていけるわけない!」
その瞬間ソフィアの目の前にオリバーがやってきた。ミアは悲しそうな表情を浮かべながら、両親とオリバーに隠れるようにしている。
そして次の瞬間、ソフィアの頬に痛みが走った。
「いい加減にするんだ!ソフィア!」
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