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赤い身体

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(浄視点)
「先輩、休みか…。ヤル気でねぇわ」

通勤のため電車に乗り込み、スマホで葉梨先輩の連絡を確認する。先輩だけ特別な音楽に設定してあるから聞き逃すわけはなく、新着の数字はついていない。
それだけで顔が不機嫌になるのが分かった。
会社では顔面ぐらいは取り繕うが、電車の中でまで隠さなくてもいいだろう。

連絡アプリを閉じて、ニュースアプリを開く。
最新のニュースには期待通りの見出しが表示されている。

『“携帯ブザー“打農 禿氏車と衝突』

先輩が入社してからの2年間、この男は葉梨先輩を怒鳴りつけ、貶し、周りから白い目で見られるよう新入社員に兎族の悪口を刷り込んだ。
葉梨先輩と親しくしていた僕に対しては、先輩同様差別をするように、と仕事の手順を教えさせず、コミュニケーションを取らないように手を回された。
お局様やら自分の部署の部長やらを顔と人懐っこい性格で骨抜きにした後だったから、特に何の影響もなかったけど。

「財閥の息子に嫌がらせしようとする時点で頭悪いんだよなぁ…ははっ」

昨日の夜半に届いた『消えるメッセージ』を思い出す。

同性愛者だと告げた途端に父から勘当を言い渡され、財閥である実家とは表面上縁が切れた。けど、家ぐるみで付き合いのあった裏社会とのツテは簡単には切れない。それを利用した今回の依頼は、大方頼んだ通りの出来栄えになっている。『メッセージ』で知らされた部長の様子には嗤わせてもらったしな。
もう半分の報酬を払うよう家令に言っておくか。

ニュースを先輩に知らせてみても、なかなか返信が来ない。

「僕の名前を探してくれてる?」

甘い想像に口元を緩める。まぁ人を平等に見る人だから、嫌がらせしてきた相手でも心配してあげているのかもしれないが。

いくらか会話をして、先輩が発情期中も自分のことを考えてくれるよう頼りない自分を晒す。
それに返された言葉に奇声を上げてうずくまりたくなった。
爆速で返事を送り、今すぐ先輩の家に突撃しそうな衝動を逃がす。
無自覚の小悪魔じみた煽り文句は、2週間待てを強制される身には刺激が強すぎる。

「次はー…」

自分の降りる駅が聞こえて、これから始まる愛しい人が居ない生活にげんなりする。

『早く会いたいです。早く触れたい…』

スマホを閉じ、小さく息を吐いた。
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