兎先輩、あの猫の機嫌を直してください!

鑽孔さんこう

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黒い過保護

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「先輩、めっちゃ見られてましたよ。やっぱり外食やめましょうよー…」
「年中発情期だと思ってる輩は年中あんな目で見てくるけどね」

キーマカレーとナンをたらふく楽しみ、気分良く会社に戻る道中、浄が情けない声で懇願してくる。

兎族の発情はフェロモンを発して相手を発情させ、その相手から精を得ることで発情を一時的に治める。
それ故合意無しに交合することも可能で、節操のない種族という認識が定着しているのだ。
兎族同士での繁殖を続けてきた純血種ならかなり早い周期で発情することが可能だが、俺は何代も続く異種族との交配により、一定周期で発情期が来る。

それでも軽蔑と欲情の目線を浴び続け、何も思わなくなってどのくらいだろうか。

「そうなんですね…。会社でそーゆう目を向けてくる人って居ますか?」

浄が心配そうに、だがどことなく別の意図を含みながら話しているように感じて、当たり障りない回答を考える。

「打農部長とかかな。あの人って根っからの兎嫌いだから」

浄が手出しできない役職に居て、なおかつ社内でも有名な兎嫌いとなると、権力に生きる化石爺が適任だろう。あの部長は兎族と同じ空間に居るのも嫌がるから、エレベーターで一緒に乗ろうものなら根も葉もない兎族の悪口で追い立ててくる。お陰ですっかりエレベーターに寄りつかなくなってしまった。

「あー居ましたね、禿げ散らかしたデバネズミ。ド派手に差別発言するのになんで首切られないんだろうって不思議だったんですけど、我が社のヒット商品の生みの親だからなんでしょう?」
「正確な理由は分からないけど、まぁそうだと思うよ。そろそろ定年だから耐えようってつもりかもしれない」
「面倒ですねー」

暗い内容に似合わない爽やかな笑い声を上げて、俺の手をとる。

「罵声に凛と立ち向かう葉梨はなし先輩の姿、綺麗で好きですよ」

光り輝く笑顔とウィンクのコンボを受けてときめかない人なんて居るのだろうか。気絶しそうなのを必死に堪えて強気を貫く自分を好きだと言ってくれることが、こんなに嬉しいものだとは。

「かっこいい、って言って」

浄の額にデコピンしてそっぽを向く。
そうしないと、火照った頬に気付かれてしまうから。
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