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授業もハード

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『さすが異世界って感じだったな。でも前評判と違って普通に魔法使えたけど…。僕が体に入る時とかになんかあったのかもな』

放課のチャイムを聞きながら、今日の濃密な内容を思い返す。

妃蜂君が席に帰った後、背中を叩いたりなだめたりして、なんとか喋らせようと奮闘していた時。
木の机の表面にふわりと碧い海が映し出された。
音声が頭の中に流れる。

「ちにゃーす、お席ついてんごー」

クセありすぎな話し方と共にフレームインしてきたのは、上が赤、下が白の長髪を持つ美人だった。
物凄い日の丸感が襲ってくる。

「ほけ今日はー、ヴァカンスで爆人気パクしてる、ビルラアゥトからレッスンしたひんご」

クラスの皆が完全に席に座ったのを見計らったように、中継画面の左下方にスライドが表示される。

「1時間目はー、風を吹かせるマジィック。スライドに書いてある手順で魔法陣をクルクルーって書いてちょ。呪文はちょい待ちー」

スライドを読んでみるものの、いまいち分からない。

周りを見ると、皆は手から金の線を出して魔法陣らしきものを描いている。
正円の中にもう一つ円を描いて、五等分の線を放射状に描いて…と進度は個人で違うものの、着々と描き進めていた。

『やばい、置いていかれる』

自分の指からも金の糸を出そうとするのに、やり方もわからずただ空をなぞるだけになってしまう。

「うぃ、だいーたい描き終わったからー、呪文をレクチャー。咲かせたいフラワーを頭にヌンッてイメージして、『ブルーム』。ほいよー」

先生の描いた魔法陣からポピーの花が頭を出す。
みるみる内に丈が伸びて、小さい花畑が出来上がった。

画面に気を取られていると、クラスの皆が呪文を唱え始めた。
茎と葉だけの花畑や、花弁の山、花粉の山が次々に出現して教室の前の方は大混乱だ。

「くしゅん!」

教室に黄色の粉が舞うのを見ながらくしゃみをする。

少しぐらい魔法チートが使えないか試してみたい。

『藤郷に借りたマンガだと、異世界転生者は魔法陣無しで魔法が出せるんだった気がする』

頭に堤防ののり面を埋め尽くす彼岸花が思い浮かぶ。
前世の登下校路であり、ランニングコースだった。

『前世との別離も込めて』
「ブルーム」

教室が金色の幾何学模様で照らされる。
一転して視界が全て紅に染まった。

「あ、やりすぎた…」

壁、床、天井、インテリアに至るまで隙間なく彼岸花が咲き揺れている。
唯一窓には花が生えなかったから、真っ赤になった教室がよく見える。
やっちまった。
チートをかました主人公って皆、こんな気持ちだったんだな。

「あゃにゃにゃん。範囲指定は大事だよぅ」

いつの間にか日の丸先生が僕の横に立っていた。

「こゆときはー、『キャンセラート』かもしか。言ってみにょ」

肩を震わせて笑いながら呪文を教えてくれる。
さっきもらった注意に従って、頭の中で呪文の範囲を彼岸花に限定する。

「キャンセラート」

紅が壁や天井に吸い込まれて消えていく。
『ブルーム』の逆再生みたいだ。

目を刺すような赤色が無くなる頃には、先生の姿も画面の中に戻っていた。

「花粉もなっしんぐだね。んじゃ、レッスンちゅーりょー。ばぁい」

日の丸先生が右手を何度か振ったところで画面が消える。
爽やかな去り方がかっこいい。
木の板に戻った机から目を離し、後ろに体重をかける。

「ふぅー…」

椅子の背もたれが一息つくのにちょうどいい。
先生には迷惑かけちゃったな。
わざわざ転移魔法を使って来てくれたんだろうし。
いや、転移以外の方法で移動できる魔法とかもあるのかな。

「チートも良いことばかりじゃないんだな」

しょんぼり肩を落とした僕は、クラスの皆が恐怖の目を向けてきていることに気付かなかった。

☆☆☆☆☆

その後座学を3時間受け、謎の言葉で頭をグルグルさせながら帰り支度を済ませる。
教室を出る生徒たちの背中にひっついて校門まで歩く。
でも、その先の帰り方が分からない。
身体の記憶で勝手に帰れるかも!と思ったけど、甘かった。
校門の外の景色に何の見覚えもない。

あんまり立ち止まってても変だよな。

『よし、勘で』

もはや考えることは放棄した。
左、右、前を見て。

『左!』

決め手はお洒落なケーキ屋さんがあるから。

『まー探検みたいなもんだな』

赤レンガが敷かれた道を足取り軽く歩いていく。
花屋、ケーキ屋、カレー屋。
看板の形が店特有の形をしていて、見ていて楽しい。
ヘアーサロンに入っていく生徒や青果店でリンゴを買い食いしている生徒もいる。
日本とは違う自由気ままな下校姿に自分も浮かれてしまう。

『そーいや文字が読めるな。でもちょっと日本の字と違うから、やっぱり異世界の文字か』

文字を覚え直さなきゃな。
言葉は通じるから随分楽な転生だ。
上機嫌で歩いていくとT字路に突き当たる。
曲がった先に店はなく、民家の生け垣が続いている。

右の道をついと覗き込んで、あり得ない人を見つけてとっさに隠れた。

他人の空似、だろうけど。

「藤郷、執…な気が…する」

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