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21 真実
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貴子は束ねた髪を手櫛で荒々しく解いた。鼻孔を刺激する濃厚な臭気の混じる風に髪が乱れた。
「假戯さんに教えてあげたんよ――丑四つ時に本殿裏の竹藪へ来ちゃいけんって。丑四つ時の本殿裏には沈杜村の穢れがいっぺんに集まってくるけん,来たもんは穢れに触れて災厄に見舞われる」
風が細い声をあげて竹林を吹きぬけ,茎葉をざわめかせた。
「假戯さんが光太祐らに面白おかしく話したんじゃろ。あの人らは旅先での肝試しぐらいの遊び半分で,忌避すべき時間帯にここへ来て明け方まで馬鹿騒ぎをしとった。爆竹の音と奇声が遠く離れた別社まで聞こえてきたんじゃけん。おまけに穢れに塗れた体で神社内を見物した。神さんが怒らんはずないじゃろう!――ほじゃけん罰があたったんよ!」
「そう仕むけたのはあなたでしょう」伽藍堂が指摘する。「あなたは神の祟りを受けさせる方法を巧みに假戯さんにふきこんだ。そうすれば,假戯さんはその方法を使って,先輩マジシャンたちが祟られるように働きかけると考えたからです。マジック界でトップになるために先輩マジシャンたちを邪魔に感じる假戯さんの気持ちを知ってたあなたは,假戯さんの汚く惨めな弱みにつけこみ,彼を思いどおりに動かした。つまり彼を操ってたのはあなただ。あなたが光太祐さんやカンパニーのメンバーを傷つけ,殺した。神に仕える身でありながら,人を呪うのに神の力を利用するなんて――良心の呵責を感じないんですか」
貴子が呼吸のみで笑った。「私は何にもしとらんがね。假戯さんに触穢について教えただけじゃろ? 以前から頻繁に沈杜神社へお参りにきよる信仰心のあつい方を気遣って,穢れに触れんように,親切心から教えたんよ」
伽藍堂は鼻から微かに息を抜き,何かを呟いた。多分「女は恐ぇな」と言ったと思う。
「しかし何故ですか――」伽藍堂が眉を顰める。「假戯さんと黒魔術集団との関係を知ってたはずです。放っておいても魔力が作用し,災いが光太祐さんたちに及んだでしょう」
「支配下に入れとか,訳の分からんことを言う集団じゃったわい。大手を振って神社に出入りして。あんな輩,誰が相手にしちゃるか……」
「あなたは――」伽藍堂はまじまじと貴子を見た。「先ほど,うちの斎薔薇を淫祠邪教の信徒と呼んだ。それに假戯さんを黒魔術から守れるはずだったとも言った。あなたは沈杜の神を絶対視してる。ほかの神や宗派を見縊ってるんだ。だから黒魔術集団の及ぼす災いを軽視してた――何もできるはずはないと。それで効験灼かな沈杜の神の祟りに頼った。確実に光太祐の息の根をとめるために!」
虚空を凝視したまま貴子は何も答えない。無表情だった。でも微笑んでいるようにも見える。それが真実を物語っているのかもしれなかった。
「假戯さんに教えてあげたんよ――丑四つ時に本殿裏の竹藪へ来ちゃいけんって。丑四つ時の本殿裏には沈杜村の穢れがいっぺんに集まってくるけん,来たもんは穢れに触れて災厄に見舞われる」
風が細い声をあげて竹林を吹きぬけ,茎葉をざわめかせた。
「假戯さんが光太祐らに面白おかしく話したんじゃろ。あの人らは旅先での肝試しぐらいの遊び半分で,忌避すべき時間帯にここへ来て明け方まで馬鹿騒ぎをしとった。爆竹の音と奇声が遠く離れた別社まで聞こえてきたんじゃけん。おまけに穢れに塗れた体で神社内を見物した。神さんが怒らんはずないじゃろう!――ほじゃけん罰があたったんよ!」
「そう仕むけたのはあなたでしょう」伽藍堂が指摘する。「あなたは神の祟りを受けさせる方法を巧みに假戯さんにふきこんだ。そうすれば,假戯さんはその方法を使って,先輩マジシャンたちが祟られるように働きかけると考えたからです。マジック界でトップになるために先輩マジシャンたちを邪魔に感じる假戯さんの気持ちを知ってたあなたは,假戯さんの汚く惨めな弱みにつけこみ,彼を思いどおりに動かした。つまり彼を操ってたのはあなただ。あなたが光太祐さんやカンパニーのメンバーを傷つけ,殺した。神に仕える身でありながら,人を呪うのに神の力を利用するなんて――良心の呵責を感じないんですか」
貴子が呼吸のみで笑った。「私は何にもしとらんがね。假戯さんに触穢について教えただけじゃろ? 以前から頻繁に沈杜神社へお参りにきよる信仰心のあつい方を気遣って,穢れに触れんように,親切心から教えたんよ」
伽藍堂は鼻から微かに息を抜き,何かを呟いた。多分「女は恐ぇな」と言ったと思う。
「しかし何故ですか――」伽藍堂が眉を顰める。「假戯さんと黒魔術集団との関係を知ってたはずです。放っておいても魔力が作用し,災いが光太祐さんたちに及んだでしょう」
「支配下に入れとか,訳の分からんことを言う集団じゃったわい。大手を振って神社に出入りして。あんな輩,誰が相手にしちゃるか……」
「あなたは――」伽藍堂はまじまじと貴子を見た。「先ほど,うちの斎薔薇を淫祠邪教の信徒と呼んだ。それに假戯さんを黒魔術から守れるはずだったとも言った。あなたは沈杜の神を絶対視してる。ほかの神や宗派を見縊ってるんだ。だから黒魔術集団の及ぼす災いを軽視してた――何もできるはずはないと。それで効験灼かな沈杜の神の祟りに頼った。確実に光太祐の息の根をとめるために!」
虚空を凝視したまま貴子は何も答えない。無表情だった。でも微笑んでいるようにも見える。それが真実を物語っているのかもしれなかった。
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