触穢の代償――デッフェコレクション2――

せとかぜ染鞠

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20 呪いの願主

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「假戯さん……假戯さん,何で……何でこんな姿になってしもうたんよ……」紅袴をつけた和装姿の娘がよろめきながら近づいて崩れおちた。沈杜神社の巫である沈杜貴子だ。
「申し訳ありません。穢れを頂戴することが叶いませんでした」僕は額を地面に押しつけた。「己の力不足を恥じるばかりです……」
「淫祠邪教の信徒方は惑わすだけ惑わして,最後は命までってしまうんじゃね。おまけにこんな惨めなありさまにしてしもうて……」
「貴子さん,それはあんまりだ。うちの斎薔薇は命がけで假戯さんを助けようとしました。大切な人が大変なことなって感情を抑えられないのも分かりますが,怒りの矛先をむける相手が違う」伽藍堂が僕を立たせた。
「助けられんのなら,最初から放っておいてくれたらよかったんよ。放っておいてくれたら,假戯さんは死なんで済んだかもしれんのに――」強い視線で睨む。「凡人にない神通力をもっとるけん得意になっとったんじゃろ? ほじゃけど,あんたの力は誰も救えん。救えんどころか,あの世へ手をひく――さっきの黒魔術集団とかわりない」
「黒魔術集団――假戯さんを唆した集団の正体を知ってたんですか?」伽藍堂が貴子のそばへ寄った。
 貴子の表情に動揺が走った。「ほれは……假戯さんと集団の遣りとりを聞いとったけん――呪いの板に――あの黒い板じゃがね!――あの板に願いごとを自分の血で書けとか言うとったろ! あんなん聞いたら黒魔術集団やって分かるじゃろ!」
「全部見てたということですね――假戯さんが,沈杜神社に災いの及ぶという懸念と自身の命の危急との板挟みになって懊悩しつつも,ついには集団の脅しに負けて,悪魔との契約の証を地面に埋める経緯も――迫りくる最期に恐れおののき,苦痛に責めさいなまれて悶え死ぬ経緯も――」伽藍堂が後方へ毛羽だつ大量の髪を搔いて両眼を細めた。「あなたは全ての経緯を傍観してた――假戯さんの命が尽きようとしてる瞬間も」
「死ぬはずないと思うとったんよ! 假戯さんだけにはばちがあたらんように神さんに祈禱しとったけん! 光太祐らに天罰が下っても,假戯さんの無事やったんは,私が祈禱して守っとったけんよ! 黒魔術からも守ってあげられるはずじゃった! ほやのに余計な世話を焼いて横槍をいれるけん,ことを荒だてた! 全部あんたが悪いんよ!――」
 貴子が僕を突きとばそうとするのを,伽藍堂が制止した。
「彼に危害を加える者はよからぬ事態に陥りますよ。やめたほうがいい」
「何が起こると言うんよ! 沈杜神社の巫に何ができるんよ!」
 天空から爆裂音が降った。見あげれば,沈杜の山が溶解するように赤黒く燃え,煙を吐いている――
「沈杜の神が今のあなたを守ってくれますか?」伽藍堂が尋ねる。「人を呪うのに,神の力を使う穢れた存在のあなたを?」
 貴子が僕たちと山に背をむけた。
 伽藍堂が畳みかけて問いかける。「光太祐さんやマジックカンパニーのメンバーに呪いをかけたのは,貴子さん,あなたですね?」
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