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18 守人咲久良
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炎は消失した。
「マジか!?――斎薔薇,おまえ全然平気じゃん」伽藍堂が僕の全身をさすって確かめる。「ははっ,傷一つないぜ! すっげぇ! で,何,あの血管オバケ? 気色悪くてひいたわ――」
僕は掌をあけた。巨大心臓も血管の一筋もなかったが,人間の指ほどの蟻が蠢いている。浄化の火に焼かれたせいなのか,随分干からびている。それでも腕を伝い,よじのぼってくるうちに拳骨大のサイズになった。肩まで辿りついた蟻が口をひらき,尖った牙を見せつける。
「僕のなかに入りたいの。構わないよ。おいで――」
相手の言葉を解したように蟻が翅を広げるなり僕の顔面目がけて飛びかかる。唇を抉じあけて一気に口中に入ろうとするが,体が大きすぎて難儀している。
「クソ野郎!――」伽藍堂が蟻をひきずりだして地面に叩きつけた。
蟻の翅がもげ,風に吹かれて消えていく。仰むけになり,露わになった腹部はさけて粒状の体液が噴出している。弱々しく踠きながら,3脚を失い,ようやく正常な体勢をとりもどした蟻が頭と胴を痙攣させつつ,なお僕に近づこうとした。その煤けた身体に鋭く長いギムレットの刃が突きささる。時折虹色の輝きを発するクリスタルの刃だ。
「黒魔術集団ごときに梃摺るとは,情けない」
白の貫頭衣に腰紐を結わえただけの姿の男が透過する長髪を靡かせてギムレットを一振りすれば,刃がするりと短くなってハーモニカに転じる。ハーモニカを男が懐中にしまううちに,蟻の身体は瞬時に風化するように消滅してしまった。
「そうか,九十九折斎薔薇だったか――」升蛾が一団を率いて竹林上に躍りあがり披針形葉の群生に飛びのるなり,目礼してから竹茎の撓みを利用しつつ虚空を滑走して姿を晦ました。
「おまえ,弱くなったな」乱れまう髪を片耳にかけながら咲久良が見おろす。九十九教教祖を守護する守人である男だ。
「マジか!?――斎薔薇,おまえ全然平気じゃん」伽藍堂が僕の全身をさすって確かめる。「ははっ,傷一つないぜ! すっげぇ! で,何,あの血管オバケ? 気色悪くてひいたわ――」
僕は掌をあけた。巨大心臓も血管の一筋もなかったが,人間の指ほどの蟻が蠢いている。浄化の火に焼かれたせいなのか,随分干からびている。それでも腕を伝い,よじのぼってくるうちに拳骨大のサイズになった。肩まで辿りついた蟻が口をひらき,尖った牙を見せつける。
「僕のなかに入りたいの。構わないよ。おいで――」
相手の言葉を解したように蟻が翅を広げるなり僕の顔面目がけて飛びかかる。唇を抉じあけて一気に口中に入ろうとするが,体が大きすぎて難儀している。
「クソ野郎!――」伽藍堂が蟻をひきずりだして地面に叩きつけた。
蟻の翅がもげ,風に吹かれて消えていく。仰むけになり,露わになった腹部はさけて粒状の体液が噴出している。弱々しく踠きながら,3脚を失い,ようやく正常な体勢をとりもどした蟻が頭と胴を痙攣させつつ,なお僕に近づこうとした。その煤けた身体に鋭く長いギムレットの刃が突きささる。時折虹色の輝きを発するクリスタルの刃だ。
「黒魔術集団ごときに梃摺るとは,情けない」
白の貫頭衣に腰紐を結わえただけの姿の男が透過する長髪を靡かせてギムレットを一振りすれば,刃がするりと短くなってハーモニカに転じる。ハーモニカを男が懐中にしまううちに,蟻の身体は瞬時に風化するように消滅してしまった。
「そうか,九十九折斎薔薇だったか――」升蛾が一団を率いて竹林上に躍りあがり披針形葉の群生に飛びのるなり,目礼してから竹茎の撓みを利用しつつ虚空を滑走して姿を晦ました。
「おまえ,弱くなったな」乱れまう髪を片耳にかけながら咲久良が見おろす。九十九教教祖を守護する守人である男だ。
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