触穢の代償――デッフェコレクション2――

せとかぜ染鞠

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14 穢れの木片

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 待合所のトタン屋根がひどく叩きつけられていた。雨とは違うものが落ちている。磨りガラスがわれ,足もとに拳骨大の石が転がってくる。
 尖ったガラスの残る窓の破損部分に見える山肌が赤と黒とに明滅し,噴火警戒を報じるサイレンが鳴りひびいていた。神が無人駅の穢れた存在に憤り,村ごと浄化するつもりなのかもしれない。
 はやく村を出たかった。だが伽藍堂と連絡がとれない。携帯電話からは圏外のメッセージが通知されるばかりだ。
 待合所を出て,火山灰の積もる地面に両膝をつく。
 身命を賭してお祈り申しあげます。どうぞ2人をお守りください――
 螺旋状に激しく動く黒雲の間隙から赤光が照射するなり一気に黒雲を蹴散らし人影を映しだす。赤光の人影は,唐衣と裳を身につけた団子髷のあの神なのだった。
 疾く,疾く疾く――神が呼んだ!
 下り坂を落ちるように滑降する。輿に乗って運ばれるみたいな体感を得た。あっという間に樹林帯に達し鳥居を過ぎたところで突然足がとまる。独りでに振りむかれ,逆戻りして鳥居の左方の柱へ近づくと,根もとの地中に手を突きいれる。手指に触れるものを摑みだす。ハート形をした真っ黒な木片だった。
 ――これは穢れだ,強烈な穢れだ。
 我が身に宿りたまえ! 一切を頂戴いたします!――
 木片が厚みを帯びてずっしり重くなるなり,拍動にも似た音が起こり,膨張と収縮を繰りかえしながら生きものの心臓と化した。血飛沫が散って大量の鮮血が流れおちる。血は心臓から出たものなのか僕の手から出たものなのか将又その両方なのか分からなかった。掌中が少しだけ痛んだが,それを気にしている暇もなく,心臓から無数の毛細血管がのび,蛭みたいに先を争って僕の腕に吸着する。ぶつりぶつりと皮膚と肉を貫き,蛭たちは宿主の血を吸い,節々の膨縮を目まぐるしく続けた。
 血管のびっしり巻きつく左腕を突きあげる。「我が魂を以て贖いたまえ!」
 心臓が僕の腕ごと発火し炎上した。浄化の火だ。沈杜の神の力が示された。
 膜や細胞の溶けた高熱の粘液が腕に伝いおちて蒸気をあげる。炎が激しく燃えあがり一頻り揺らめいてから八方へ分裂して消滅する。心臓もなくなっている。腕はひどく爛れ,白い骨が覗いている。卒倒しそうな痛みに襲われた。苦痛のために顔を顰めた次の瞬間,何事もなかったかのように腕はすっかり治癒している。
 僕の目は自然と拝殿へとむけられた。同じ穢れの臭気を感じていた。
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