触穢の代償――デッフェコレクション2――

せとかぜ染鞠

文字の大きさ
上 下
14 / 23

14 穢れの木片

しおりを挟む
 待合所のトタン屋根がひどく叩きつけられていた。雨とは違うものが落ちている。磨りガラスがわれ,足もとに拳骨大の石が転がってくる。
 尖ったガラスの残る窓の破損部分に見える山肌が赤と黒とに明滅し,噴火警戒を報じるサイレンが鳴りひびいていた。神が無人駅の穢れた存在に憤り,村ごと浄化するつもりなのかもしれない。
 はやく村を出たかった。だが伽藍堂と連絡がとれない。携帯電話からは圏外のメッセージが通知されるばかりだ。
 待合所を出て,火山灰の積もる地面に両膝をつく。
 身命を賭してお祈り申しあげます。どうぞ2人をお守りください――
 螺旋状に激しく動く黒雲の間隙から赤光が照射するなり一気に黒雲を蹴散らし人影を映しだす。赤光の人影は,唐衣と裳を身につけた団子髷のあの神なのだった。
 疾く,疾く疾く――神が呼んだ!
 下り坂を落ちるように滑降する。輿に乗って運ばれるみたいな体感を得た。あっという間に樹林帯に達し鳥居を過ぎたところで突然足がとまる。独りでに振りむかれ,逆戻りして鳥居の左方の柱へ近づくと,根もとの地中に手を突きいれる。手指に触れるものを摑みだす。ハート形をした真っ黒な木片だった。
 ――これは穢れだ,強烈な穢れだ。
 我が身に宿りたまえ! 一切を頂戴いたします!――
 木片が厚みを帯びてずっしり重くなるなり,拍動にも似た音が起こり,膨張と収縮を繰りかえしながら生きものの心臓と化した。血飛沫が散って大量の鮮血が流れおちる。血は心臓から出たものなのか僕の手から出たものなのか将又その両方なのか分からなかった。掌中が少しだけ痛んだが,それを気にしている暇もなく,心臓から無数の毛細血管がのび,蛭みたいに先を争って僕の腕に吸着する。ぶつりぶつりと皮膚と肉を貫き,蛭たちは宿主の血を吸い,節々の膨縮を目まぐるしく続けた。
 血管のびっしり巻きつく左腕を突きあげる。「我が魂を以て贖いたまえ!」
 心臓が僕の腕ごと発火し炎上した。浄化の火だ。沈杜の神の力が示された。
 膜や細胞の溶けた高熱の粘液が腕に伝いおちて蒸気をあげる。炎が激しく燃えあがり一頻り揺らめいてから八方へ分裂して消滅する。心臓もなくなっている。腕はひどく爛れ,白い骨が覗いている。卒倒しそうな痛みに襲われた。苦痛のために顔を顰めた次の瞬間,何事もなかったかのように腕はすっかり治癒している。
 僕の目は自然と拝殿へとむけられた。同じ穢れの臭気を感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつもと違う日常

k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

【完結】夜物語〜蝋燭が消える前に〜

カントリー
ホラー
短い話・実際に私の身に起きた話・人から聞いた話を短くまとめてみました。 さあ、どれが真実でどれが嘘?

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員

眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...