触穢の代償――デッフェコレクション2――

せとかぜ染鞠

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7 絆し

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 黄昏は命をとりとめたが,意識も戻らず重篤な状態が続いていた。
 伽藍堂の拳を受けて気絶する前に捧げようとした祈りを,再び試みようとすれば,手首を摑まれる。
「会員のケアもいいけど,社長のケアも宜しく頼むぜ――斎薔薇が自己犠牲するたんび,俺の精神状態ぐちゃぐちゃだわ」普段は悪ぶっている豪快な彼が,羞恥と不安に満ちた目を瞬かせて口先を尖らせる。
 咲久良さくらを思いだす。ちょうど伽藍堂と同い年だ。突っぱった皮肉屋だが,時折真っ向から投げつける純真な言葉が心に響いた。信者の誰もが避ける僕に咲久良はついてまわり,切磋琢磨しながら成長した僕たちは,一方が衆人の穢れを受ける九十九こっとく教教祖となり,もう一方が教祖を守護する守人もりびととなった。唯一心置きなくつきあってきた咲久良に背をむけられ,もしかしたら僕の心は凍てついてしまったのかもしれない。
 その心を,無遠慮で乱暴なあたたかい手で触れてくる伽藍堂の親愛や善意は,至上幸福の瞬間を遠ざける障害なのだろう。だが,決して無下にしてはならない絆しでもあるのだ。こんな気持ちになるとは……
「……」
「何,何,いつものダンマリ攻撃かよ……」
「伽藍堂さんは厄介な人です」
「……へぇ?……どういう意味?」
「でも感謝します」
「何よ,どーいうこと?」
「僕の未熟さを悟らせてくれてありがとうございます。まだまだ修行が足りないと自覚できました」
「……何か,ちょっと違う方向に話がずれてる感じもするけど,分かってくれたんだよな?」
「僕の身を案じてくれて嬉しいです。でもお見舞いにきたのですから,黄昏さんがよくなるようにお祈りしてから帰ります」
 横たわる黄昏のほうをむけば,伽藍堂がベッドと僕との間にわりこむ。「だっから――人の厄とか吸いとるみてぇなことやめてくれよ」
 伽藍堂との意見交換がしばらく続いた。
「伽藍堂さんは,拉致された雲母さんを救出するために命がけで働きました。何故ですか?」
「会員を守んのが,俺の役目だからよ――ああ,待て,待て! だから自分も会員を守りてぇ,役目を果たしてぇとか何とか言うつもりなんだな。俺には勝つ自信があったの。ぜってぇ死なねぇ自信がな。おまえにはあんのかよ? しかも相手は生身の人間じゃねぇし。怨霊とか妖怪とかいう得体の知れねぇ連中なんだよ」
「……」
「だろ?――そんな奴ら相手にすんな!」
「……」
「何だよ,何か反応しろよ――あっ,あれか? また例の決め台詞を言う気かよ。雇用関係を解消していいから放っとけってやつ? それ,俺の立場が使う脅し文句だから!」
「恐いのが好きなのでしょう? 試しに僕を放置しておけばどうですか? もっと恐くなれますから」
「放置しておけばって――そんなことすりゃあ,どんどんヤバくなってくじゃんよ! おまえに,何かあったら,どうすんだよ!」
「僕がよほど好きなのですね」
「――――」
 伽藍堂のフリーズしているうちに祈りを捧げた。
 看護師が病室に来て,ノブ代の治療の済んだことを告げる。既に頰のはれもひき,恐ろしい経験をしたというのに,売店で購入した菓子パンを配りつつお喋りに花を咲かせているという。さすがノブ代だ。
 デッフェの当面の休業が提案されたが,ノブ代の強硬な反対により即座に却下された。ノブ代にデッフェを任せて,伽藍堂と僕は錦織光太祐マジックカンパニーへとむかった。
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