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4 マジシャンたちの決意
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3分前に人非人の鬼面で部屋を出たノブ代が,美しい観音の笑顔を復旧し戻ってくる。「お客さまですよ♪」
「かわり身のはやさ,すごっ……」伽藍堂が目配せする。「……女はこえぇ生きもんだな」
応接室に,すらりとした外見のよい2人の青年が入ってきた。1人はスーツ姿で髪を中央から左右均等に分け,その片側をグレーに染髪している。もう1人は黒のダウンジャケットとブルージーンズで,のび放題の髪は毛先が方々へはねながら両肩まで達していたが,不潔感はない。
2人は錦織光太祐マジックカンパニーに所属するマジシャンの兆示黄昏と蜉蝣假戯だった。黄昏はカンパニー内で光太祐に次ぐポジションにあり,假戯はまだ駆けだしの新人であるという。
「伽藍堂社長にお力添えいただきたく,お願いにあがりました」黄昏は丁重に頭をさげてから,面もちに強い意志を漲らせた。「私たちは真実を公表することに決めました。光太祐先生の非道な行いを告発します」
伽藍堂は,コーヒーを勧めようとしてのばした手をひっこめた。「穏やかでありませんね」
「実は,光太祐先生のマジックで死人の出たのは,今回がはじめてではないんです。4日前に1人,8日前にも1人亡くなっています」
伽藍堂が黄昏と假戯とに素ばやく視線を馳せた。「全く存じませんでした」
「当然です。光太祐先生が警察上層部に働きかけて情報を漏らさないようにしたんです。8日前には練習時に奈落へと転落したアシスタントがセットの漏電によって感電し,4日前にはリハーサル中に誤発射された20本の矢にアシスタントが射抜かれました。いずれも先生がマジックしてる途中に起きたことです。それなのに先生ときたら私たちのせいにしたんです! 私と假戯が失敗して人が死んだものとして処理したんですよ!――カンパニー代表者の自分が責任を問われれば関係者全員の生活に支障が出るだろうからと言い含められ,私たちも了承してしまいました」
「なるほど……」伽藍堂が微笑を湛えた。「いあわせた人間は関係者だけですから,みなで口裏をあわせたんですね」
最初から俯き加減に話を聞いていた假戯だけでなく,黄昏も目を伏せて背中を丸めた。
「しかし今回の場合には観客も大勢いた。もう誤魔化しきれない」
伽藍堂の言葉は黄昏を再び前のめりにさせた。
「そうなんです! それなのに光太祐先生ときたら,私と假戯のどちらかが先生になりすましマジックしてたということにしろと命令するんです!」
「そりゃ無理な話だ。体格が違いすぎる」
「そうですよ! ところが光太祐先生は今度も財力にものを言わせたんです! 警察は先生の主張を受けいれました! ですが私も假戯もこれ以上先生の尻拭いするのは真っ平御免です!」
「それで真実の公表を決意されたということですね……で,私に何をお求めですか」
「ユーチューバー星雲母さんを紹介してください。社長とは懇意な間柄だと伺ってます。莫大なフォロワーを有する彼女の配信番組で真実を告発すれば,世間は光太祐先生の悪行を断罪するでしょう!」
「残念です」伽藍堂が目礼する。
「……な,何故ですか」
「彼女とは絶縁状態にあります。それに光太祐さんはうちの会員なんです。会員を守ることはあっても,糾弾の手助けをするような真似は致しません」
「また人が死ぬとしてもですか?」はじめて視線をあげた假戯が訊いた。
「かわり身のはやさ,すごっ……」伽藍堂が目配せする。「……女はこえぇ生きもんだな」
応接室に,すらりとした外見のよい2人の青年が入ってきた。1人はスーツ姿で髪を中央から左右均等に分け,その片側をグレーに染髪している。もう1人は黒のダウンジャケットとブルージーンズで,のび放題の髪は毛先が方々へはねながら両肩まで達していたが,不潔感はない。
2人は錦織光太祐マジックカンパニーに所属するマジシャンの兆示黄昏と蜉蝣假戯だった。黄昏はカンパニー内で光太祐に次ぐポジションにあり,假戯はまだ駆けだしの新人であるという。
「伽藍堂社長にお力添えいただきたく,お願いにあがりました」黄昏は丁重に頭をさげてから,面もちに強い意志を漲らせた。「私たちは真実を公表することに決めました。光太祐先生の非道な行いを告発します」
伽藍堂は,コーヒーを勧めようとしてのばした手をひっこめた。「穏やかでありませんね」
「実は,光太祐先生のマジックで死人の出たのは,今回がはじめてではないんです。4日前に1人,8日前にも1人亡くなっています」
伽藍堂が黄昏と假戯とに素ばやく視線を馳せた。「全く存じませんでした」
「当然です。光太祐先生が警察上層部に働きかけて情報を漏らさないようにしたんです。8日前には練習時に奈落へと転落したアシスタントがセットの漏電によって感電し,4日前にはリハーサル中に誤発射された20本の矢にアシスタントが射抜かれました。いずれも先生がマジックしてる途中に起きたことです。それなのに先生ときたら私たちのせいにしたんです! 私と假戯が失敗して人が死んだものとして処理したんですよ!――カンパニー代表者の自分が責任を問われれば関係者全員の生活に支障が出るだろうからと言い含められ,私たちも了承してしまいました」
「なるほど……」伽藍堂が微笑を湛えた。「いあわせた人間は関係者だけですから,みなで口裏をあわせたんですね」
最初から俯き加減に話を聞いていた假戯だけでなく,黄昏も目を伏せて背中を丸めた。
「しかし今回の場合には観客も大勢いた。もう誤魔化しきれない」
伽藍堂の言葉は黄昏を再び前のめりにさせた。
「そうなんです! それなのに光太祐先生ときたら,私と假戯のどちらかが先生になりすましマジックしてたということにしろと命令するんです!」
「そりゃ無理な話だ。体格が違いすぎる」
「そうですよ! ところが光太祐先生は今度も財力にものを言わせたんです! 警察は先生の主張を受けいれました! ですが私も假戯もこれ以上先生の尻拭いするのは真っ平御免です!」
「それで真実の公表を決意されたということですね……で,私に何をお求めですか」
「ユーチューバー星雲母さんを紹介してください。社長とは懇意な間柄だと伺ってます。莫大なフォロワーを有する彼女の配信番組で真実を告発すれば,世間は光太祐先生の悪行を断罪するでしょう!」
「残念です」伽藍堂が目礼する。
「……な,何故ですか」
「彼女とは絶縁状態にあります。それに光太祐さんはうちの会員なんです。会員を守ることはあっても,糾弾の手助けをするような真似は致しません」
「また人が死ぬとしてもですか?」はじめて視線をあげた假戯が訊いた。
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