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3 観音さまに嫌われる
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「非の打ちどころのない容貌してるでしょうぅ?――僕に足りないのは身長だけなんですぅ――」
「さっきからべとべとした物言いをしているのは何故ですか」
「似てんだろ――光太祐の粘った口調によ。何から何まで気持ちわりい奴だね。あんなネチッコイ野郎につけまわされたんじゃ鬱になっちまうぜ。惚れられた相手も気の毒によ」
「では支援するのをやめますか」
「それじゃ商売になんねぇ。金回りのいい客は大事にしねぇと――虫酸の走るゲロダユウでも,手練手管を駆使して是が非でも美化してやるさ。相手には何としてもゲロダユウとくっついてもらうぜ」
「お相手の方,かわいそうね」ノブ代がコーヒーを僕と伽藍堂に出してくれる。「1度電話でお話ししたきりになっちゃった。うちの番号を見て電話に出ないようにしてるんだわ。避けられてるのね。きっとあの人のことが,やなんだわ――私も無理。絶対無理だわ,ああいうタイプ。女の大半は無理なんじゃないかしら」
いつもはデッフェに訪れた会員を一番に応対するノブ代が,光太祐のいるうちは顔を見せなかった理由が知れた。
「ええ? やっぱそうなの? 男でもゲロいんだ。女なら,なお更だろうよ」伽藍堂が眉を顰めた。「どういう部分がゲロいのかねぇ? 背がちっちゃいのは厚底ブーツでも履かせるとしてさ」
「あら,それは関係ないわよ。小さな身長でも素敵な人は幾らでもいるもの――身長じゃなく,あの人の場合は……」残念な面持ちになる。「駄目――駄目なのよ」
「駄目?」伽藍堂と僕は口を揃えて尋ねた。
ノブ代が深く頷く。「生理的に受けつけないの。女は生理的に受けつけないなら駄目なのよ。それなのに図々しく,ぐいぐい寄ってくるとこがますますムカつくわ! モテない男に限ってそうなのよね! 鏡をじっくり見て,弁えなさいってのよ!」会員たちに観音さまと慕われるノブ代の発する言葉とは到底信じられない。
「そうカッカしないでさ,何か対策を講じてくれよ。今までだって,禿げで豚な,クソジジイらのキューピッドをしてきたじゃねぇか」
「今までのお客さまたちは生理的に受けつけなくなかったもの! みなさんには恥があったし遠慮もあった! でもあの人にはまるでない! 自分自身が分かってないのよ!」
「ノブ代さんに見放されちゃお仕舞いだ。ゲロダユウの恋が成就するようレクチャーしてやってくれよ」
「いやよ。言ったでしょ。生理的に受けつけないの」
「なら何処をなおせばマシになるか教えてくれよ。俺がレクチャーすっからよ」
「何処をなおしても――あの人はあの人よ。それに社長がレクチャーすると嫌味だわよ」
「何で?」
「だって社長は長身のイケメンだもの。正反対の同性に欠点を指摘されて素直に聞きいれるタイプじゃないのよ,あの人は。そういう部分も嫌われるとこなんだけど」
「そうなの? だったら――」僕へと視線を移す。「こいつならいけるよな。斎薔薇なら俺ほど背も高くねぇし,俺ほどイケメンでもねぇから嫌味になんねぇ」
「あら,斎薔薇ちゃんだって嫌味になるわ。フェミニンでミステリアスな男に魅かれる女は多いのよ。自分よりモテる男の言うことを,あの人が聞くもんですか!」
機関銃を撃つように攻撃的な言葉を捲くしたてるノブ代に,僕たちは圧倒されていた。
「観音さまにまで疎まれるとは恐るべし……」伽藍堂が腕組みをした。
嫌われ者光太祐の行く,恋の道のりは甚だ険しくなりそうだ。
「さっきからべとべとした物言いをしているのは何故ですか」
「似てんだろ――光太祐の粘った口調によ。何から何まで気持ちわりい奴だね。あんなネチッコイ野郎につけまわされたんじゃ鬱になっちまうぜ。惚れられた相手も気の毒によ」
「では支援するのをやめますか」
「それじゃ商売になんねぇ。金回りのいい客は大事にしねぇと――虫酸の走るゲロダユウでも,手練手管を駆使して是が非でも美化してやるさ。相手には何としてもゲロダユウとくっついてもらうぜ」
「お相手の方,かわいそうね」ノブ代がコーヒーを僕と伽藍堂に出してくれる。「1度電話でお話ししたきりになっちゃった。うちの番号を見て電話に出ないようにしてるんだわ。避けられてるのね。きっとあの人のことが,やなんだわ――私も無理。絶対無理だわ,ああいうタイプ。女の大半は無理なんじゃないかしら」
いつもはデッフェに訪れた会員を一番に応対するノブ代が,光太祐のいるうちは顔を見せなかった理由が知れた。
「ええ? やっぱそうなの? 男でもゲロいんだ。女なら,なお更だろうよ」伽藍堂が眉を顰めた。「どういう部分がゲロいのかねぇ? 背がちっちゃいのは厚底ブーツでも履かせるとしてさ」
「あら,それは関係ないわよ。小さな身長でも素敵な人は幾らでもいるもの――身長じゃなく,あの人の場合は……」残念な面持ちになる。「駄目――駄目なのよ」
「駄目?」伽藍堂と僕は口を揃えて尋ねた。
ノブ代が深く頷く。「生理的に受けつけないの。女は生理的に受けつけないなら駄目なのよ。それなのに図々しく,ぐいぐい寄ってくるとこがますますムカつくわ! モテない男に限ってそうなのよね! 鏡をじっくり見て,弁えなさいってのよ!」会員たちに観音さまと慕われるノブ代の発する言葉とは到底信じられない。
「そうカッカしないでさ,何か対策を講じてくれよ。今までだって,禿げで豚な,クソジジイらのキューピッドをしてきたじゃねぇか」
「今までのお客さまたちは生理的に受けつけなくなかったもの! みなさんには恥があったし遠慮もあった! でもあの人にはまるでない! 自分自身が分かってないのよ!」
「ノブ代さんに見放されちゃお仕舞いだ。ゲロダユウの恋が成就するようレクチャーしてやってくれよ」
「いやよ。言ったでしょ。生理的に受けつけないの」
「なら何処をなおせばマシになるか教えてくれよ。俺がレクチャーすっからよ」
「何処をなおしても――あの人はあの人よ。それに社長がレクチャーすると嫌味だわよ」
「何で?」
「だって社長は長身のイケメンだもの。正反対の同性に欠点を指摘されて素直に聞きいれるタイプじゃないのよ,あの人は。そういう部分も嫌われるとこなんだけど」
「そうなの? だったら――」僕へと視線を移す。「こいつならいけるよな。斎薔薇なら俺ほど背も高くねぇし,俺ほどイケメンでもねぇから嫌味になんねぇ」
「あら,斎薔薇ちゃんだって嫌味になるわ。フェミニンでミステリアスな男に魅かれる女は多いのよ。自分よりモテる男の言うことを,あの人が聞くもんですか!」
機関銃を撃つように攻撃的な言葉を捲くしたてるノブ代に,僕たちは圧倒されていた。
「観音さまにまで疎まれるとは恐るべし……」伽藍堂が腕組みをした。
嫌われ者光太祐の行く,恋の道のりは甚だ険しくなりそうだ。
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