真実を聞く耳と闇を見る目と―― 富総館結良シリーズ①――

せとかぜ染鞠

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1 ガウジ拘束

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 殺人鬼ガウジを助手席に乗せて数キロ先の河川敷にむかっていた。舗装中の道をライトで照らしながら恐るおそる行く。吹雪が窓ガラスを叩きつけた。
「本当にヘリは来るのかね――こんな天気で飛べるかね――」
 ああ,うるさい。ぺちゃくちゃ喋り続けて0.01秒すら黙らない。おまけに人の顔を食いいるように見つめている。被害者たちの心臓を GOUGEガウジ したように,今度は視線で目玉でも抉りだすつもりなのか――
 急ブレーキを踏んで透かさずガウジの両頰を3発殴打した。ネクタイで縛りつけた両腕を動かそうとしたりするからだ。
 囁くみたいな声を漏らし,視線だけあげて笑う。更に2発お見舞いしてやる。
 上空から爆音が降る。天の中心部から撒き散る雪を切り裂き,黒光りする巨体が現れた。
 約束のヘリだ。
 震動につつまれながら,両手を股間に戻すようガウジに命じた。
 ヘリに誘導されて河川敷に辿りつくと,既に数台のヘリが着陸していて周囲は昼のような明るさだった。右往左往していた刑事や警官が一斉に駆けてくる。そのなかに権名頭ごんなずの姿を認めた。「けがはありませんか!」停車するのを待ち切れずドアをあけた。
 ほかの刑事たちが助手席側に詰め寄り,ガウジを引きずりおろす。手錠がわりのネクタイがはずされないまま本物の手錠がはめられ,追いたてられていく。ヘリに放りこまれる間際に振り返り,微笑んでみせる――また会おう。こちらは外方をむき,意思疎通を遮断した。
「あれほど無茶は駄目だと――」権名頭がいつものお小言をはじめる。
 自分でもこんな事態になるとは思ってもみなかった。失踪者の調査中に偶然世間を騒がせる殺人鬼に出会ってしまい,拘束する状況に発展しようとは誰が予測できただろうか。だが結果オーライ――ガウジには懸賞金がかかっていた。事件解決に協力したのだから今回も間違いない。それに犯人逮捕の功労者としてマスコミにとりあげられ,探偵としての知名度もあがる。
 何もかも幼馴染みの聴蝶きちょう観空みそらのおかげだ。失踪者の調査依頼と有力情報を提供してくれたのは彼らだった。
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