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17 懇願

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「社員が見ていますから――物騒なものはおさめてください」劉の背後で蜜瑠が言った。「当局の職員が到着するまで,クルーザーの地下室で君たちを拘束する」
 イーチンを着た男たちがボートに飛びうつり,腕をねじあげられる。悲鳴が出た。
 祀鶴歌が周囲の男たちを払いのけ,あたしの腕をつかむ男に体あたりしてから船底に倒れた。その眼前に弾丸が撃ちこまれる。海水が入ってきた。
 劉もこちらに移動する。ボートが深く沈みこみ,浸水の量がどっと増えた。
 祀鶴歌が身を起こそうとするが,間髪をいれず,劉は発砲していく――祀鶴歌の全身の輪郭を象るようにできた無数の空洞から海水がふきこんでくる。
「沈むぞ!――みんな,早くこっちに乗りうつれ!」蜜瑠が腕をのばした。
 おとなしくなった祀鶴歌の髪をつかみあげ,そのまま船を乗りかえようとするが,劉は表情を歪めて祀鶴歌の頰をぶった。弓形を描きながら祀鶴歌の体がゆっくりと海に落ちていき,それにおおいかぶさる状態で劉も後に続いた。
 そうはさせない――祀鶴歌の片腕を両手でつかんだ。
「私のものだぞ!」劉が歯を剝いて祀鶴歌を海中にひきずりこもうとする。物凄い力だ――
「未琴ちゃん,僕のことはいいから!」祀鶴歌は抵抗を諦めていた。
「バカ! 戻ってきてよ!」
「彼も僕の犠牲者だから。僕が悪い――」小さく呟いて頭の上まで水につかる。
「んなわけないでしょ! なんで,あんただけ悪者なのよ!」力をこめた瞬間,ボートの縁から全身が浮きあがり,海に転落した。一緒に沈んでしまう。
 胴体が後方へ強くひかれる。蜜瑠に抱きかかえられていた。切羽詰まった状況だというのに男に触れられたと分かるなり拒否反応が生ずる。
「船を寄せろ!」蜜瑠は別のボートを接近させると,それに素早く飛びのり,指示をくだした。「全員,力をかすんだ!」
 肩まで浮かびあがった祀鶴歌の体を,何本もの腕が繫ぎとめ,一気に救いあげた。劉も祀鶴歌に絡みついた格好で船上にあげられる。祀鶴歌はぐったりしていたが,意識はあった。
「祀鶴歌!」あたしの呼びかけに,彼が手を握りかえす。
「触るな!」劉が依然祀鶴歌に密着したまま,彼の上に馬乗りになり,隣で沈没しかけるボートの底からライフル銃を手にとった。「私だけのものだ!」振りみだした髪から凄まじい形相が垣間見えた。
「やめて!」祀鶴歌が劉を突きとばし,あたしの前で両腕を広げた。
 劉が立ちあがり,祀鶴歌の眼前で狙いを定めた。「君と私の関係を邪魔する者は許さない」
「どうぞお願いです……」祀鶴歌は上方を仰ぎ見て両手を組みあわせ,懇願の姿勢を示した。「許してください,お願いです。あなたの言うとおりにしますから」
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