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6 標的の飛行船
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聴蝶は呆然としたまま何の抵抗も示さないで手下に連れていかれた。
立ちあがろうとする観空をフロアに押さえつける。「私に任せろ――」そう耳打ちするなり,観空が叫んだ。「もういい! おまえまで犠牲になんな!」
首領が振り返る。
馬鹿!――ばれるじゃないか!――許せよ!――端整な顔面を殴打する。白目を剝いて観空が静かになった。
「もう,この病院には戻れないんだ」路傍が首領に声をかけた。「俺のいた痕跡を消してから行っていいだろ?」
「心配するな。警察には協力者が多い。何もかも揉み消してくれるさ」
「でも後味が悪い――立つ鳥跡を濁さずって言うだろ」
「一丁前に御託を並べやがる。ロボットは指示に従ってりゃいいんだよ」
「分かったよ……」
路傍が注意を逸らしてくれている間にガーゼを観空の傷口に押しあて,観空の携帯から知りあいの刑事権名頭へメールを打った――城山病院の10階に来い。内密に。
屋上に出るや否や,上空間近に蠢く流線型の物体が目に飛びこんだ。巨大な飛行船だ。
ガス袋に装備されたゴンドラから数本のワイヤーが垂れてくる。首領は防護服のベルトにワイヤーの連結部を装着させた。手下と私も首領に倣う。首領が路傍を,手下が聴蝶をかかえた途端にワイヤーが上空へ引かれ,身体が浮上していく。
ゴンドラ内に侵入すると乗務員室に潜伏する。既に8人の乗務員が息絶えていた。
賊の人数は,地上から混じった2人をあわせて6人だった。2人は容易く片づけて食料収納庫に閉じこめることができた。3人目は格闘技経験者らしく手こずったものの,こちらが女だと知れて油断したところを奇襲して打倒した。しかし残りの3人を攻撃する好機が訪れない。乗務員室から一向に外へ出ないのだ。これでは1人になってくれる機会がない。まさか,乗務員室で3人纏めて仕留めることなど不可能だろうし……いや,味方の協力を得られれば可能性はゼロではないはずだ。
聴蝶と路傍を見た。
2人は離れた位置に座り,視線を一向にあわさない。
聴蝶をひたすら見つめ,その名を一心に念じた。聴蝶は両腕でかかえる両膝に顔を突っ伏していたが,少しだけ頭を動かし,目だけで私を見た。
「お願いだから今は元気を出して。脱出するために力を貸して――」賊に気づかれないよう手を動かした。「そのためには路傍さんとコミュニケーションをとってよ」
「あたし,もう何もかもどうでもよくなっちゃった」人目を憚らず大っぴらに手話を繰り出したきり,外方をむいてしまう。
ちょっと,聴蝶……どうすればいいのさ……
「ごめんね」徐に路傍が口をひらいた。「ロボットだってこと黙っていてごめん。普通じゃないと知られたくなかった。人間の男だと思っていて欲しかった」
「無駄話はよしな」首領が口を挟んだ。
「最近,培養している病原体が一層強靭化したように感じるんだ。集中植埋機能を使えば,防護服を透過して寄生させることも難しくはないかもしれない。試しに両眼あたりを照射してみようか」路傍はじわりと立ちあがり,首領を睨みつけた。すごい殺気だ――
首領が後退る。
「感染現場に同伴させたんだ。巻きこまれた人が事情を知っておくのは正当な権利だろ」そう言って路傍は聴蝶に近づき,そばに腰をおろした。
首領はもうじき決行だと告げて唾を吐き捨てた。
立ちあがろうとする観空をフロアに押さえつける。「私に任せろ――」そう耳打ちするなり,観空が叫んだ。「もういい! おまえまで犠牲になんな!」
首領が振り返る。
馬鹿!――ばれるじゃないか!――許せよ!――端整な顔面を殴打する。白目を剝いて観空が静かになった。
「もう,この病院には戻れないんだ」路傍が首領に声をかけた。「俺のいた痕跡を消してから行っていいだろ?」
「心配するな。警察には協力者が多い。何もかも揉み消してくれるさ」
「でも後味が悪い――立つ鳥跡を濁さずって言うだろ」
「一丁前に御託を並べやがる。ロボットは指示に従ってりゃいいんだよ」
「分かったよ……」
路傍が注意を逸らしてくれている間にガーゼを観空の傷口に押しあて,観空の携帯から知りあいの刑事権名頭へメールを打った――城山病院の10階に来い。内密に。
屋上に出るや否や,上空間近に蠢く流線型の物体が目に飛びこんだ。巨大な飛行船だ。
ガス袋に装備されたゴンドラから数本のワイヤーが垂れてくる。首領は防護服のベルトにワイヤーの連結部を装着させた。手下と私も首領に倣う。首領が路傍を,手下が聴蝶をかかえた途端にワイヤーが上空へ引かれ,身体が浮上していく。
ゴンドラ内に侵入すると乗務員室に潜伏する。既に8人の乗務員が息絶えていた。
賊の人数は,地上から混じった2人をあわせて6人だった。2人は容易く片づけて食料収納庫に閉じこめることができた。3人目は格闘技経験者らしく手こずったものの,こちらが女だと知れて油断したところを奇襲して打倒した。しかし残りの3人を攻撃する好機が訪れない。乗務員室から一向に外へ出ないのだ。これでは1人になってくれる機会がない。まさか,乗務員室で3人纏めて仕留めることなど不可能だろうし……いや,味方の協力を得られれば可能性はゼロではないはずだ。
聴蝶と路傍を見た。
2人は離れた位置に座り,視線を一向にあわさない。
聴蝶をひたすら見つめ,その名を一心に念じた。聴蝶は両腕でかかえる両膝に顔を突っ伏していたが,少しだけ頭を動かし,目だけで私を見た。
「お願いだから今は元気を出して。脱出するために力を貸して――」賊に気づかれないよう手を動かした。「そのためには路傍さんとコミュニケーションをとってよ」
「あたし,もう何もかもどうでもよくなっちゃった」人目を憚らず大っぴらに手話を繰り出したきり,外方をむいてしまう。
ちょっと,聴蝶……どうすればいいのさ……
「ごめんね」徐に路傍が口をひらいた。「ロボットだってこと黙っていてごめん。普通じゃないと知られたくなかった。人間の男だと思っていて欲しかった」
「無駄話はよしな」首領が口を挟んだ。
「最近,培養している病原体が一層強靭化したように感じるんだ。集中植埋機能を使えば,防護服を透過して寄生させることも難しくはないかもしれない。試しに両眼あたりを照射してみようか」路傍はじわりと立ちあがり,首領を睨みつけた。すごい殺気だ――
首領が後退る。
「感染現場に同伴させたんだ。巻きこまれた人が事情を知っておくのは正当な権利だろ」そう言って路傍は聴蝶に近づき,そばに腰をおろした。
首領はもうじき決行だと告げて唾を吐き捨てた。
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