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少女の話1回目 自分は
青女の話
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目の前に広がる海、空魅海は、水平線が見えるほど続き、穏やかな波を漂わせる。
その海岸沿いを歩く一匹の黒猫がいた。
「今日も一面青ばっかりの空と海だなぁ…これが紫になったとき、僕の野望は叶う…」
側から見ればただの鳴く猫だが、私にはその言葉を聞くことができた。
その黒猫はやや青みを帯びた夜空のような毛色で、その目は空に浮かぶ二つの満月だった。
黒猫はその尾をしなやかにたなびかせながら静かに歩みを進める。
その黒猫の目には涙ひとつなかった、
大きな水しぶきが上がる。高い波に揺られながら、私は形作られる。
「夕方にのぼる水しぶき。こんなに綺麗だとは思わなかったよ。…もうそろそろできるかな」
私は唐突に息苦しさを感じた、急に喉を締められたような、そんな感じ。いや、正確には、息の仕方を忘れたような。これまでなら、水の中でも息はできたのに。
私が必死でもがこうと思うと、白い手が私の視界に現れた。これは、私の手なのだろうか。…手なんてあっただろうか。
ふと足のようなものも生えていることに気づいた。私は泳いだ。習うこともないのに、軽々と泳ぐことができた。
気付けば、なにかサラサラしたものを手に感じた。これが、砂というものだろうか。私は海から出てしまったのだろうか。
「やあ。元気かい?…あぁそうか。君はまだ言葉を知らないよね」
そう言う黒猫は、やや高めの声で、どこか不安を感じる抑揚がある。
「いいかい?君は青女って言うんだ。青い女って書いてね。なんたって君は海から生まれたんだから。さぁ、歩いてごらん。歩いて、探してごらん。君が見つけるべきものを」
私の目は何も捉えていなかった。けれど、行くべき場所に向かって私の足は突き進む。砂浜を挟んでそこに佇む頂上が見えないほど高い山は、天空山というらしい。近くに突っ立っている看板には、風で薄くなった字で、天空山道、と書いてある。
まだその時は、私が『始まり』だとは思いもしなかった。
青女-しょうじょ-の語り
その海岸沿いを歩く一匹の黒猫がいた。
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側から見ればただの鳴く猫だが、私にはその言葉を聞くことができた。
その黒猫はやや青みを帯びた夜空のような毛色で、その目は空に浮かぶ二つの満月だった。
黒猫はその尾をしなやかにたなびかせながら静かに歩みを進める。
その黒猫の目には涙ひとつなかった、
大きな水しぶきが上がる。高い波に揺られながら、私は形作られる。
「夕方にのぼる水しぶき。こんなに綺麗だとは思わなかったよ。…もうそろそろできるかな」
私は唐突に息苦しさを感じた、急に喉を締められたような、そんな感じ。いや、正確には、息の仕方を忘れたような。これまでなら、水の中でも息はできたのに。
私が必死でもがこうと思うと、白い手が私の視界に現れた。これは、私の手なのだろうか。…手なんてあっただろうか。
ふと足のようなものも生えていることに気づいた。私は泳いだ。習うこともないのに、軽々と泳ぐことができた。
気付けば、なにかサラサラしたものを手に感じた。これが、砂というものだろうか。私は海から出てしまったのだろうか。
「やあ。元気かい?…あぁそうか。君はまだ言葉を知らないよね」
そう言う黒猫は、やや高めの声で、どこか不安を感じる抑揚がある。
「いいかい?君は青女って言うんだ。青い女って書いてね。なんたって君は海から生まれたんだから。さぁ、歩いてごらん。歩いて、探してごらん。君が見つけるべきものを」
私の目は何も捉えていなかった。けれど、行くべき場所に向かって私の足は突き進む。砂浜を挟んでそこに佇む頂上が見えないほど高い山は、天空山というらしい。近くに突っ立っている看板には、風で薄くなった字で、天空山道、と書いてある。
まだその時は、私が『始まり』だとは思いもしなかった。
青女-しょうじょ-の語り
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