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老衰から始まる死後道中
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ここはどこにでもある普通の老人ホームだ。
白を基調とした凹型の建物は清潔感で溢れ、周りには木々が並び爽やかさを醸し出している。
そんな老人ホームに在籍している老人の数は約30人。その内の一人である国木田勝介、御歳92はロビーにある広場にて日向ぼっこを楽しんでいた。
ロビーは大きなガラス張りの壁がありそこから入る日差しがロビーを照らしていた。そのおかげか昼の間はロビーの蛍光灯は一切点いていない。
勝介はソファにもたれながらのんびりしていると一人の老人が対面にあるソファにゆっくりと腰をかけた。
彼女は三船マチエ、100歳にもなるおばあちゃんだ。
「かっちゃんこんにちわ、今日もいい天気ですねぇ」
「これはマチさんこんにちわ。ええ、今日もいい天気です」
フガフガと所々歯の抜けた口で挨拶をする。
お互いしわくちゃでヨボヨボだが意外とボケることがないままだった。
同じ入居者の何人かは既に記憶にかなりの齟齬が出ていた。
「そうだ、今日は折り紙を持ってきたんです。良かったら折りません?」
そういってマチエは和柄の折り紙を机の上に置いた。
「指を動かして頭を鍛えましょう」
「ははは、今更頭なんて鍛えられませんよマチさん。ボケ防止が関の山ですよ」
「それもそうねぇ」
そうしてお互い苦笑する。
それから数日後、とうとうマチさんは老衰でこの世を去った。
この歳になるといくら友人をつくっても直ぐにいなくなってしまう。
今更友人なんてとも思うが日々の退屈な生活ではそれだけが楽しみなのだ。
職員の方々はオリエンテーションやイベントを良く開催してくださる。それはとても楽しい。
だがこうも思ってしまうのだ。この体がもっと動けたらなと。
不自由は辛い。既に慣れてしまってはいるが時々思ってしまう。
ボケていないだけマシだとも思っていた。
老人ホームだ、そんな人たちがいっぱいだ。
耳が遠いなんていつものことだ。
みんながみんな良い人とも限らない。
中には性根の腐った輩がいるものだ。それは若くても老いてても変わらない。
先日故人となった田渕希恵なんて老害の鑑だった。
職員や自分たちに当たり散らしてはわがままを言ったりと手に負えない感がすごかった。
身内もそんな希恵が嫌で彼女を老人ホームに追いやったに違いない。
きっと今頃清々していることだろう。
それから5年後、国木田勝介、老人ホームの自室にて老衰。享年97歳。
――
―――
――――
―――――
――――――。
ふと気が付くと勝介は何処か知らない場所に立っていた。
自分の前には同じ様に立っている人が何人もいて、後ろにも人が大勢立っていた。
どうやら自分は何かの列に並んでいるようだった。
空は曇天、薄暗い荒野、木は数本見えるものの全て枯れている。
列の先には大きな川があった。
なるほど、どうやらここは噂に聞く三途の川のようだ。
この列は船に乗る順番待ちということになる。
しばらくすると列が動いて川の方へと近づいていく。
ん?川の所に老婆が立っていて並んでいる人の衣服を回収していた。
しかし次に並んでいた人からは何かを手渡されてそのまま船に乗せていた。
そして遂に自分の番が来た。
「よく来たね。通行料100円だよ持ってるかい?」
「お金?」
突然お金と言われてもと思いながらも服のポケットをまさぐってみる勝介。
「無いならその服全部でも良いよ」
老婆は淡々とそう言った。
昔本か何かで聞いたことがある。三途の川には通行料を取る老婆がいると。
目の前の老婆がそうなのだろう。
それにしても通行料100円なのか安いな。
川の向こう側は全く見えない。かなりの距離があるのだろう。
川と聞いていたがこれは海だ。そう思った。
「で、金はあるのかいないのかい?」
急かされて慌てると胸ポケットから五百円が出てきた。
「これでいいかい?」
「ほう、珍しいこともあるもんだね、ほれ釣りだよ」
そう言われて400円渡されると船へと押された。
船は屋形舟程の大きさで50人程度を乗せて行くようだった。
乗っている人も様々で子供から老人、国籍も様々だった。
と、驚くことに船はものの数分で向こう岸に着いたのだ。
スピードも緩やかだったはずなのにいつの間にか反対岸についていたのだ。
後ろを振り返っても先程までいた老婆の所は全く見えなかった。
勝介の記憶が正しければこれから閻魔大王の裁判があるはずだ。
今更だが信仰上のものだとばかり思っていたので緊張してきた。
なんでも浄玻璃の鏡には己の人生が映し出されるらしい。
やましいことは無いはずだがやはり自分の人生を見られるというのは人間恥ずかしいものである。
岸には額に角を生やした男達が立っていた。
「これより選別に入る。呼ばれたものはついてこい」
次々と名前を呼ばれていく中、勝介は中盤で呼ばれた。
勝介を呼んだのは白髪で2本角の浅黒い鬼だった。
黙ってついて行くと目の前に大きな門が現れた。
「この中に入れ」
「これから裁判ですか?」
質問をするが鬼は黙ったままこちらを見るだけだった。
会話をする気が無いのを見て勝介は言われた通りに中に入った。
中に入ると視界が一度真っ白になった。
いや、なったのではない。部屋が真っ白なのだ。
正方形の白い部屋だ。噂に聞く閻魔大王などおらず戸惑っていた。部屋を出ようにも既に門は消えていて閉じ込められた状態だった。
と、部屋の真ん中に不釣合いな物が現れた。
それを勝介は知っている。いや、誰でも見ればそれがなんであるか気づくだろう。
そう、それはATMだ。
生前も銀行、郵便局、コンビニ等、様々な場所に置かれていたお金を出し入れする機械だ。
「な、なぜ?」
思わず疑問が口に出る。
恐る恐る近づくが見れば見るほどATMだった。
ただ生前見たどのATMとも違うと思えた。いや、別に勝介がATMに詳しいとかそういう話でわなくATMの画面に映し出されたロゴマークは全く知らないものだったからだ。円の中に天、そしてその天の上に逆さになった天が重なるマークだ。
そんな企業見たことも聞いたことも無かった。
「どうするべきか…」
立ち尽くしていると画面にタッチしてください。と文字が浮かび上がってきた。
勝介は不安だったが既に死んでいる身、何を今更と思って文字に従った。
画面に触れると画面が輝きだした。
「な、なにが!?」
白を基調とした凹型の建物は清潔感で溢れ、周りには木々が並び爽やかさを醸し出している。
そんな老人ホームに在籍している老人の数は約30人。その内の一人である国木田勝介、御歳92はロビーにある広場にて日向ぼっこを楽しんでいた。
ロビーは大きなガラス張りの壁がありそこから入る日差しがロビーを照らしていた。そのおかげか昼の間はロビーの蛍光灯は一切点いていない。
勝介はソファにもたれながらのんびりしていると一人の老人が対面にあるソファにゆっくりと腰をかけた。
彼女は三船マチエ、100歳にもなるおばあちゃんだ。
「かっちゃんこんにちわ、今日もいい天気ですねぇ」
「これはマチさんこんにちわ。ええ、今日もいい天気です」
フガフガと所々歯の抜けた口で挨拶をする。
お互いしわくちゃでヨボヨボだが意外とボケることがないままだった。
同じ入居者の何人かは既に記憶にかなりの齟齬が出ていた。
「そうだ、今日は折り紙を持ってきたんです。良かったら折りません?」
そういってマチエは和柄の折り紙を机の上に置いた。
「指を動かして頭を鍛えましょう」
「ははは、今更頭なんて鍛えられませんよマチさん。ボケ防止が関の山ですよ」
「それもそうねぇ」
そうしてお互い苦笑する。
それから数日後、とうとうマチさんは老衰でこの世を去った。
この歳になるといくら友人をつくっても直ぐにいなくなってしまう。
今更友人なんてとも思うが日々の退屈な生活ではそれだけが楽しみなのだ。
職員の方々はオリエンテーションやイベントを良く開催してくださる。それはとても楽しい。
だがこうも思ってしまうのだ。この体がもっと動けたらなと。
不自由は辛い。既に慣れてしまってはいるが時々思ってしまう。
ボケていないだけマシだとも思っていた。
老人ホームだ、そんな人たちがいっぱいだ。
耳が遠いなんていつものことだ。
みんながみんな良い人とも限らない。
中には性根の腐った輩がいるものだ。それは若くても老いてても変わらない。
先日故人となった田渕希恵なんて老害の鑑だった。
職員や自分たちに当たり散らしてはわがままを言ったりと手に負えない感がすごかった。
身内もそんな希恵が嫌で彼女を老人ホームに追いやったに違いない。
きっと今頃清々していることだろう。
それから5年後、国木田勝介、老人ホームの自室にて老衰。享年97歳。
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ふと気が付くと勝介は何処か知らない場所に立っていた。
自分の前には同じ様に立っている人が何人もいて、後ろにも人が大勢立っていた。
どうやら自分は何かの列に並んでいるようだった。
空は曇天、薄暗い荒野、木は数本見えるものの全て枯れている。
列の先には大きな川があった。
なるほど、どうやらここは噂に聞く三途の川のようだ。
この列は船に乗る順番待ちということになる。
しばらくすると列が動いて川の方へと近づいていく。
ん?川の所に老婆が立っていて並んでいる人の衣服を回収していた。
しかし次に並んでいた人からは何かを手渡されてそのまま船に乗せていた。
そして遂に自分の番が来た。
「よく来たね。通行料100円だよ持ってるかい?」
「お金?」
突然お金と言われてもと思いながらも服のポケットをまさぐってみる勝介。
「無いならその服全部でも良いよ」
老婆は淡々とそう言った。
昔本か何かで聞いたことがある。三途の川には通行料を取る老婆がいると。
目の前の老婆がそうなのだろう。
それにしても通行料100円なのか安いな。
川の向こう側は全く見えない。かなりの距離があるのだろう。
川と聞いていたがこれは海だ。そう思った。
「で、金はあるのかいないのかい?」
急かされて慌てると胸ポケットから五百円が出てきた。
「これでいいかい?」
「ほう、珍しいこともあるもんだね、ほれ釣りだよ」
そう言われて400円渡されると船へと押された。
船は屋形舟程の大きさで50人程度を乗せて行くようだった。
乗っている人も様々で子供から老人、国籍も様々だった。
と、驚くことに船はものの数分で向こう岸に着いたのだ。
スピードも緩やかだったはずなのにいつの間にか反対岸についていたのだ。
後ろを振り返っても先程までいた老婆の所は全く見えなかった。
勝介の記憶が正しければこれから閻魔大王の裁判があるはずだ。
今更だが信仰上のものだとばかり思っていたので緊張してきた。
なんでも浄玻璃の鏡には己の人生が映し出されるらしい。
やましいことは無いはずだがやはり自分の人生を見られるというのは人間恥ずかしいものである。
岸には額に角を生やした男達が立っていた。
「これより選別に入る。呼ばれたものはついてこい」
次々と名前を呼ばれていく中、勝介は中盤で呼ばれた。
勝介を呼んだのは白髪で2本角の浅黒い鬼だった。
黙ってついて行くと目の前に大きな門が現れた。
「この中に入れ」
「これから裁判ですか?」
質問をするが鬼は黙ったままこちらを見るだけだった。
会話をする気が無いのを見て勝介は言われた通りに中に入った。
中に入ると視界が一度真っ白になった。
いや、なったのではない。部屋が真っ白なのだ。
正方形の白い部屋だ。噂に聞く閻魔大王などおらず戸惑っていた。部屋を出ようにも既に門は消えていて閉じ込められた状態だった。
と、部屋の真ん中に不釣合いな物が現れた。
それを勝介は知っている。いや、誰でも見ればそれがなんであるか気づくだろう。
そう、それはATMだ。
生前も銀行、郵便局、コンビニ等、様々な場所に置かれていたお金を出し入れする機械だ。
「な、なぜ?」
思わず疑問が口に出る。
恐る恐る近づくが見れば見るほどATMだった。
ただ生前見たどのATMとも違うと思えた。いや、別に勝介がATMに詳しいとかそういう話でわなくATMの画面に映し出されたロゴマークは全く知らないものだったからだ。円の中に天、そしてその天の上に逆さになった天が重なるマークだ。
そんな企業見たことも聞いたことも無かった。
「どうするべきか…」
立ち尽くしていると画面にタッチしてください。と文字が浮かび上がってきた。
勝介は不安だったが既に死んでいる身、何を今更と思って文字に従った。
画面に触れると画面が輝きだした。
「な、なにが!?」
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