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竜王国の魔王
番外編 とある一人の兵士の話し
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大陸の中央には五つの国がある。
アルデルト王国、フルメット共和国、エイリオン賢人国、イーロン王国、テルメス王国だ。
こうも国が中央にあると多少の小競り合いはよくある話で年に一回から二回はどこかの国同士がちょっとした戦争を起こしていた。
その度に兵士や騎士は駆り出される。
まあそこらへんは当たり前の話である。
今回はそういうことが言いたいのではない。
とある一人の兵士の話がしたいのである。
テルメス王国で主に門番や巡回兵をしている一般の兵士の話だ。
少し他と違うところといえば特殊スキル持ちだということだろうか。
あとは出身地不明、身元不明ということだろう。
身元が不明なのは別段珍しいことじゃない。故意に隠す者だっている時代だ。
その特殊スキルというのがおよそ、麻痺、毒、病気に対する完全耐性である状態異常無効というスキルである。
これはかなりのスキルで兵士ならばかなり重宝するスキルだ。
魔物と戦っても毒も麻痺も受け付けないのだから心配する必要がないのだ。
そんな怪しさ満点の男は人柄がよく真っ直ぐな男性だった。
歳も28程でもう結婚しても良い歳だが本人にその気は無いようだった。
その男、エリオット・クニスケ・バレルドはその日も街の門番をしていた。
「やあエリオ。今日は君が門番なのかい?」
「これはユークリッド騎士長様、任務からのご帰還でありますか?」
そう言いながらエリオは右手を頭に当てて敬礼する。
「ああ、そんなところだ。旅疲れを早く癒したいよ」
ユークリッドはそう言って肩を回す。
エリオはサッと道を開ける。
「ユークリッド騎士長様だ、開門を要求する!」
「了解!」
エリオの合図に門の真横にある検問室を兼ねた待機所から声が飛ぶ。
それと同時に門が少しづつ上へと上がっていった。
「では失礼するよ」
「はい、お疲れ様です」
ユークリッドは早足に王城へと向かっていった。
しばらくして同僚から遅番の面々が来たと報告を受けて交代した。
既に太陽は沈んで辺は暗くなっていた。
私服に着替え、真っ直ぐ家へと帰宅する。
テルメス王国の首都ロアの東側は居住区になっている。
そこに中程にエリオが住む家があった。
グリフィス・バレルドとナザリー・バレルド老夫婦が住む家だ。
そこでエリオは養子として住んでいた。
彼らはエリオの命の恩人でもあるのだ。
今から三年程前の話になる。
退役軍人であるグリフィスは友人の近くの川に釣りに行くところだった。
見慣れた道を友人と談笑しながら歩いていると遠くの方で奇妙な出で立ちの男が倒れていることに気がついた。
真っ黒な品の良い制服と思われる衣服に同じく真っ黒な帽子、おまけに髪も黒ときたものだから最初はそこに焦げた焼死体でもあるのかと思った程だ。
腰にサーベルをかけていたのでどこかの貴族様かとも思ったが帽子についた家紋と思われる紋様には見たこともない花があり見た目も相まって異国、それも遠い国の貴族だろうと思った。
その日は釣りを止めてグリフィスはその男を家に連れて帰ることにした。
門番には倒れていた、責任はわしが取ると説明して通してもらった。
最初こそナザリーも驚いたが事情を説明すると頷いてくれた。
ベッドに寝かして濡れタオルで顔の汚れを取る。
ここらでは見ない顔立ちだったのでついついじっと眺めてしまっていた。
すると気がついたのか目を覚ました。
最初は朦朧としていたが自分に気が付くと勢い良く起き上がった。
「こ、ここは!?…体が軽い?」
「お前さん気がついたようじゃな、街の近くで倒れとったのをわしがここに運んだのじゃ」
男は何が何だかといった様子で生まれたての雛鳥のように辺りを見渡していた。
しばらくして頭痛がするのか頭を強く抑え始めた。
「疲れがあるのじゃろう。今日はこのまま休みなさい。また明日話を聞くとしよう」
グリフィスは男の返事を聞く前に部屋を出た。
居間ではナザリーが夕食の準備を終えて待っていた。
今日は魚を持ってくると言っていたので買い出しをしていないので簡単なシチューとパンだった。
見ると食卓には三人分の用意があった。
「婆さん、今日は彼の分は大丈夫じゃよ」
「あらそうなの?」
「ひどく疲れているようじゃったから早めに休ませたわい」
そして次の日、ある程度回復した男を椅子に座らせて朝食をとった。
メニューは昨日の残り物とパンと焼いたベーコンだ。
男は恐る恐る木のスプーンでシチューを口にすると勢い良く食べ始めた。
「あらあら、よっぽどお腹が空いていたのね」
「ははは、酒場の馬鹿どもでももうちっと行儀よく食べるぞ!」
咀嚼して全てを一気に飲み込むと息を整える。
すると男は急に立ち上がり踵を揃え背筋を伸ばして頭を下げた。
「私のような見ず知らずの者にここまでして頂いて誠にありがとうございます!」
「良い良い。人助けをしたまでだ、それにこんなものは老人の戯れだ、そこまで君が頭を下げる必要はないさ」
「深く、感謝します!」
更に頭を下げる男。
よく見れば泣いているではないか、しかしそこには触れずグリフィスは男の肩を叩く。
「まあ、座りなさい。軽く自己紹介でもしよう。わし的には君がどこのだれか分かるのか気になっていたところだ。記憶喪失だったら大変だからな、はっはは!」
男は記憶喪失ではなかった。
しかし聞いたことのない国や変わった名前と不思議な男だったことには違いはなかった。
行く場所も無いとのことなのでしばらくの間は面倒を見ることにした。
するとどうだろうか存外この男、名前をなんとかクニスケというらしいがなんと真面目な男か。
驚く程人一倍働き者で努力家だった。
そんな人間性に当てられて一年後には養子として向かい入れてしまったほどだ。
元々子供はいなかったがなんとも嬉しい気持ちだ。
名前もこの国で支障をきたさないようにとあの日一緒にクニスケを助けた友人と考えてエリオット・クニスケ・バレルドにした。
完全に名前を変えては申し訳ないと思い真ん中に本来の名前を付けておいた。
彼自身もそれで構わないと言ってくれたので安心した。
エリオの働きぶりと特殊スキルのおかげか王城での毒見役なんかも時々任される程だ。
グリフィスはそんな息子を持って良くこういうようになった自慢の息子ができたと。
そんな男の話しでした。
アルデルト王国、フルメット共和国、エイリオン賢人国、イーロン王国、テルメス王国だ。
こうも国が中央にあると多少の小競り合いはよくある話で年に一回から二回はどこかの国同士がちょっとした戦争を起こしていた。
その度に兵士や騎士は駆り出される。
まあそこらへんは当たり前の話である。
今回はそういうことが言いたいのではない。
とある一人の兵士の話がしたいのである。
テルメス王国で主に門番や巡回兵をしている一般の兵士の話だ。
少し他と違うところといえば特殊スキル持ちだということだろうか。
あとは出身地不明、身元不明ということだろう。
身元が不明なのは別段珍しいことじゃない。故意に隠す者だっている時代だ。
その特殊スキルというのがおよそ、麻痺、毒、病気に対する完全耐性である状態異常無効というスキルである。
これはかなりのスキルで兵士ならばかなり重宝するスキルだ。
魔物と戦っても毒も麻痺も受け付けないのだから心配する必要がないのだ。
そんな怪しさ満点の男は人柄がよく真っ直ぐな男性だった。
歳も28程でもう結婚しても良い歳だが本人にその気は無いようだった。
その男、エリオット・クニスケ・バレルドはその日も街の門番をしていた。
「やあエリオ。今日は君が門番なのかい?」
「これはユークリッド騎士長様、任務からのご帰還でありますか?」
そう言いながらエリオは右手を頭に当てて敬礼する。
「ああ、そんなところだ。旅疲れを早く癒したいよ」
ユークリッドはそう言って肩を回す。
エリオはサッと道を開ける。
「ユークリッド騎士長様だ、開門を要求する!」
「了解!」
エリオの合図に門の真横にある検問室を兼ねた待機所から声が飛ぶ。
それと同時に門が少しづつ上へと上がっていった。
「では失礼するよ」
「はい、お疲れ様です」
ユークリッドは早足に王城へと向かっていった。
しばらくして同僚から遅番の面々が来たと報告を受けて交代した。
既に太陽は沈んで辺は暗くなっていた。
私服に着替え、真っ直ぐ家へと帰宅する。
テルメス王国の首都ロアの東側は居住区になっている。
そこに中程にエリオが住む家があった。
グリフィス・バレルドとナザリー・バレルド老夫婦が住む家だ。
そこでエリオは養子として住んでいた。
彼らはエリオの命の恩人でもあるのだ。
今から三年程前の話になる。
退役軍人であるグリフィスは友人の近くの川に釣りに行くところだった。
見慣れた道を友人と談笑しながら歩いていると遠くの方で奇妙な出で立ちの男が倒れていることに気がついた。
真っ黒な品の良い制服と思われる衣服に同じく真っ黒な帽子、おまけに髪も黒ときたものだから最初はそこに焦げた焼死体でもあるのかと思った程だ。
腰にサーベルをかけていたのでどこかの貴族様かとも思ったが帽子についた家紋と思われる紋様には見たこともない花があり見た目も相まって異国、それも遠い国の貴族だろうと思った。
その日は釣りを止めてグリフィスはその男を家に連れて帰ることにした。
門番には倒れていた、責任はわしが取ると説明して通してもらった。
最初こそナザリーも驚いたが事情を説明すると頷いてくれた。
ベッドに寝かして濡れタオルで顔の汚れを取る。
ここらでは見ない顔立ちだったのでついついじっと眺めてしまっていた。
すると気がついたのか目を覚ました。
最初は朦朧としていたが自分に気が付くと勢い良く起き上がった。
「こ、ここは!?…体が軽い?」
「お前さん気がついたようじゃな、街の近くで倒れとったのをわしがここに運んだのじゃ」
男は何が何だかといった様子で生まれたての雛鳥のように辺りを見渡していた。
しばらくして頭痛がするのか頭を強く抑え始めた。
「疲れがあるのじゃろう。今日はこのまま休みなさい。また明日話を聞くとしよう」
グリフィスは男の返事を聞く前に部屋を出た。
居間ではナザリーが夕食の準備を終えて待っていた。
今日は魚を持ってくると言っていたので買い出しをしていないので簡単なシチューとパンだった。
見ると食卓には三人分の用意があった。
「婆さん、今日は彼の分は大丈夫じゃよ」
「あらそうなの?」
「ひどく疲れているようじゃったから早めに休ませたわい」
そして次の日、ある程度回復した男を椅子に座らせて朝食をとった。
メニューは昨日の残り物とパンと焼いたベーコンだ。
男は恐る恐る木のスプーンでシチューを口にすると勢い良く食べ始めた。
「あらあら、よっぽどお腹が空いていたのね」
「ははは、酒場の馬鹿どもでももうちっと行儀よく食べるぞ!」
咀嚼して全てを一気に飲み込むと息を整える。
すると男は急に立ち上がり踵を揃え背筋を伸ばして頭を下げた。
「私のような見ず知らずの者にここまでして頂いて誠にありがとうございます!」
「良い良い。人助けをしたまでだ、それにこんなものは老人の戯れだ、そこまで君が頭を下げる必要はないさ」
「深く、感謝します!」
更に頭を下げる男。
よく見れば泣いているではないか、しかしそこには触れずグリフィスは男の肩を叩く。
「まあ、座りなさい。軽く自己紹介でもしよう。わし的には君がどこのだれか分かるのか気になっていたところだ。記憶喪失だったら大変だからな、はっはは!」
男は記憶喪失ではなかった。
しかし聞いたことのない国や変わった名前と不思議な男だったことには違いはなかった。
行く場所も無いとのことなのでしばらくの間は面倒を見ることにした。
するとどうだろうか存外この男、名前をなんとかクニスケというらしいがなんと真面目な男か。
驚く程人一倍働き者で努力家だった。
そんな人間性に当てられて一年後には養子として向かい入れてしまったほどだ。
元々子供はいなかったがなんとも嬉しい気持ちだ。
名前もこの国で支障をきたさないようにとあの日一緒にクニスケを助けた友人と考えてエリオット・クニスケ・バレルドにした。
完全に名前を変えては申し訳ないと思い真ん中に本来の名前を付けておいた。
彼自身もそれで構わないと言ってくれたので安心した。
エリオの働きぶりと特殊スキルのおかげか王城での毒見役なんかも時々任される程だ。
グリフィスはそんな息子を持って良くこういうようになった自慢の息子ができたと。
そんな男の話しでした。
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