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竜王国の魔王

五十三番目の星

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 ドラゴン、それは数多いる魔物の中でも群を抜いてその名が轟く存在である。
 圧倒的な巨躯、内包する生命力と魔力は他者を寄せ付けず。
 数々の物語でその災害とも言える力が語られている。
 そんなドラゴンだが生まれたての幼竜ベビードラゴンは存外に弱く脆い。
 そのせいかドラゴンと言う種は数が少ない。
 生存競争が他の種よりも厳しいのだ。
 長命故にあまり子孫を残さないということもあった。

 この子もそれに漏れていはいない。
 生まれて直ぐに喋るということ以外は至って普通のベビードラゴンだった。
 ロイネスは頭がこんがらがっていた。
 机に右肘を付き強く眉間を押さえつけていた。
 別段目が疲れているとかではなく今までの癖で考え事をしているときはいつも眉間を抑えるようになってしまったのだ。
 
 あの夜のことは今でも信じられなかった。
 両親に似つかない子供が生まれたこともそうだがその生まれた子が流暢に喋る内容もロイネスの頭をこんがらがせる要因になっていた。

「魔王候補…」

 半ば都市伝説のようなものだと考えていたがそれが事実だと知ってしまった。
 そしてそれが身内からの言であるのだ。
 強力な幻術にかかっているというのなら解いて欲しい。

 と、扉がノックされて顔を上げる。
 ロイネスが許可を出す前に扉は少しばかり開いてその隙間から件のドラゴンが顔を覗かせた。

「部屋から出て良いと誰が許可した?」
「子供に冷たいんだね父上は、それにボクに命令なんてしないでよ。魔王候補であるボクにさ」

 本当ならば抱き抱えて満面の笑顔で愛したことだろう。
 それができないでいるのはロイネス自身苦しかった。
 黒竜は部屋に入ると尻尾で器用に扉を閉めた。

「それで、何用か?」
「説明はしたと思うけど?」
「強くなりたいと言う話か?」
「そう、魔王候補はただでさえ他の奴らよりも経験値を必要とするからね」
「強くなって人間ヒューマンを滅ぼすのか?」
「そうだけど?」

 何の躊躇いもなくそう言った。
 その目に迷いは無く純粋にそう思っていると理解できた。

「魔王は人間を滅ぼす。当然じゃない?」
「それでは戦争が起きる。一国の王としてそれは容認できない」
「ふーんそっか」
「話はそれだけか?」

 話が続かかないと判断してロイネスは切り上げようとする。
 すると黒竜ははっと何かを思い出したかのように。

「あ、そうだった。名前、ボクの名前を言ってなかったね」
「名前?」

 そういえば色々とありすぎて名付けるのを忘れていた。
 生まれる前はあれこれと考えたものだが。

「自分で決めたのか?」
「当然、曲がりなりにも魔王だからね。他人の下にはつかないのさ。ロイネス」

 ロイネスはゾクリと背筋が冷たくなる感覚を覚えた。
 今の言葉には明らかに何かを企てる冷たいものが感じられた。
 そう、暗殺者のような何かが。

「ボクの名前はギランズール、ギランズール・レデッジ・バンレシング。当面はそれで名乗るからよろしくね。それとレベル上げはもう少し待っていてあげるよ。その間に頑張ってね」

 そう言うとギランは部屋を出て行った。
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