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45.裁定者は、怒る

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「さて、貴方は廃嫡されて王族ではなくなったわ。それは理解してる?」

「はい……しています」

「あら、案外潔いじゃない」

「裁定者の前で取り繕っても無駄ですから」

「わたくしが裁定者だと信じて良いの?」

「裁定者の事を知っているのは王位継承権のある王族のみ。影すら裁定者の存在を知らない。そう、父上から聞いています。それに、貴女の腕にある飾りは、裁定者の紋章です。片方だけなら、疑った。両方あれば疑う理由はない」

「ふうん。迷走していても、ちゃんと国王だったのねぇ。口が軽い王弟殿下とは大違いね」

「口が、軽い? 叔父上が?」

「ええ、初対面の少年に裁定者の秘密を簡単に明かすくらい口が軽いわ」

「じゃ、じゃあ!」

 僅かな希望を、裁定者は粉々に砕く。

「裁定者は民が困らないように王族を監視し、酷い時には警告する。最終警告をしても変わらない王族は速やかに排除する。それだけの存在よ。あの王弟殿下は、警告を出すほど酷い失態を犯していない。民が困らない為にあの王弟殿下は必要なの。貴族達が多少困っても知らないわ。だって貴族は、優遇されている分役割があるのですもの。自分達で考えていただかないと。それとね、お父様を恨むのは筋違いよ。貴方を廃嫡したのは、貴方を殺させない為。わざわざ安全な執務室に連れて行って貰ったのに、なんで逃げ出しちゃうのよ」

 最終警告が来た国王は、ルールを破りニコラスを巻き込んでアルフレッドを改心させようとした。だが、アルフレッドは父の心に気付かず、逃げた。再び現れたアルフレッドは愚かなまま。せめて息子の命を守りたいと思った父は、裁定者が手を出す前にアルフレッドを廃嫡した。

「……殺さない……為?」

「そ、貴方にも警告したのよ。でも、無視したじゃない。あの叔父上が、形骸化してるって一言言っただけで。だから、お父上に警告を出した。それなのにあの人は何をどう勘違いしたのか、ミランダまで利用して貴方を良く見せようと画策した。腹が立ったけど、警告はひとりにつき一回だけ、最終警告は五年後と決まっている。裁定者である以上、そのルールは破れない。ミランダがどんどん疲弊しているのに、わたくしは何も出来ず王族達を監視し続けるしかなかった」

 アルフレッドの頭は真っ白になった。目の前の女性がヒラヒラと掲げる紋章が透けた便箋がゆっくりと動く。見覚えがある便箋が記憶を呼び起こした。

「婚約者を蔑ろにするもの、王の器にあらず」

「あらすごい! 覚えていたのね。……なぁ、警告を受け取ったお前は何をした?」

 口調の変わった裁定者の質問に、アルフレッドは答えられない。

「……申し訳、ありません」

「謝罪なんか聞いてねぇ。ミランダに何をしたかって聞いてんだ!」

「申し訳……ありません……」

「謝罪する相手が違う! お前は! ミランダを殴った! その上、口止めまでしたんだ! ミランダはなにも悪くないのに、ただ、王家の為に尽くしただけだったのに!」

 突如発せられる、明確な殺気。アルフレッドはようやく、彼女の正体に気が付いた。

「貴女は……侍女の……」

 口籠るアルフレッド。彼女が侍女としてミランダに付き従っていた記憶はあるが、名前は思い出せなかった。当然だ、聞こうともしなかったのだから。名前を呼ばないアルフレッドを、冷たく見つめる裁定者。

 視線に耐えられず、アルフレッドは謝罪を繰り返す。
 
「……申し訳……あり……」
 
「ミランダは侍女だけじゃなくて自分に関わる全ての使用人の名前を覚えているのに。アンタ、謝るしかできないの? そもそも、王太子のくせになんでミランダに仕事を押し付けていたのよ」

「叔父上が……」

「あははっ、やっぱり人って変わらないわね。この期に及んで、叔父上のせい? このままここで死んだら?」

 あまりにあっさりと突き放し、裁定者はアルフレッドに背を向けた。ここで見捨てられればどうなるか、分からないアルフレッドではない。

 死の恐怖から解放されたい。アルフレッドは必死で目の前の女性に頭を下げた。

「助けて! 助けてください! 助けてくれたら、なんでもします!」

「王太子なのになんで誰も来ないんだー! 影はどこだ、ミランダ助けてくれって泣きべそかいてたじゃない。そんな貴方に、どんな力があるっていうの?」

「そ、それはっ……」

「見て、コレ。貴方の名前が刻まれたコイン」

「私の名前が……」

「コレはね、影の家が一代につき一度だけ使う事が許されているコインなの。こんなに一斉に使われたのは初めてらしいわ。全部、貴方の影のお家からよ。見覚えがある紋章ばかりでしょう?」

「あ、あの。このコインは、私を支持している証なのですか?」

「おめでたいわね。逆よ」

「……ぎゃく?」

「コレはね、主人を見限った証。もう二度と、貴方に仕えないという決別の証よ」
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更新止まって申し訳ございません。少し家庭が落ち着いたので、また少しずつ更新しますが、頻度が毎日ではなくなるかもしれません。申し訳ございません。いつも誤字報告ありがとうございます。承認不要と書かれたものは基本的に承認しませんが、すぐ反映しています。反映されてなかったらご連絡下さい。(一週間開けなくて、承認になったらごめんなさい)
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