45 / 49
45.裁定者は、怒る
しおりを挟む
「さて、貴方は廃嫡されて王族ではなくなったわ。それは理解してる?」
「はい……しています」
「あら、案外潔いじゃない」
「裁定者の前で取り繕っても無駄ですから」
「わたくしが裁定者だと信じて良いの?」
「裁定者の事を知っているのは王位継承権のある王族のみ。影すら裁定者の存在を知らない。そう、父上から聞いています。それに、貴女の腕にある飾りは、裁定者の紋章です。片方だけなら、疑った。両方あれば疑う理由はない」
「ふうん。迷走していても、ちゃんと国王だったのねぇ。口が軽い王弟殿下とは大違いね」
「口が、軽い? 叔父上が?」
「ええ、初対面の少年に裁定者の秘密を簡単に明かすくらい口が軽いわ」
「じゃ、じゃあ!」
僅かな希望を、裁定者は粉々に砕く。
「裁定者は民が困らないように王族を監視し、酷い時には警告する。最終警告をしても変わらない王族は速やかに排除する。それだけの存在よ。あの王弟殿下は、警告を出すほど酷い失態を犯していない。民が困らない為にあの王弟殿下は必要なの。貴族達が多少困っても知らないわ。だって貴族は、優遇されている分役割があるのですもの。自分達で考えていただかないと。それとね、お父様を恨むのは筋違いよ。貴方を廃嫡したのは、貴方を殺させない為。わざわざ安全な執務室に連れて行って貰ったのに、なんで逃げ出しちゃうのよ」
最終警告が来た国王は、ルールを破りニコラスを巻き込んでアルフレッドを改心させようとした。だが、アルフレッドは父の心に気付かず、逃げた。再び現れたアルフレッドは愚かなまま。せめて息子の命を守りたいと思った父は、裁定者が手を出す前にアルフレッドを廃嫡した。
「……殺さない……為?」
「そ、貴方にも警告したのよ。でも、無視したじゃない。あの叔父上が、形骸化してるって一言言っただけで。だから、お父上に警告を出した。それなのにあの人は何をどう勘違いしたのか、ミランダまで利用して貴方を良く見せようと画策した。腹が立ったけど、警告はひとりにつき一回だけ、最終警告は五年後と決まっている。裁定者である以上、そのルールは破れない。ミランダがどんどん疲弊しているのに、わたくしは何も出来ず王族達を監視し続けるしかなかった」
アルフレッドの頭は真っ白になった。目の前の女性がヒラヒラと掲げる紋章が透けた便箋がゆっくりと動く。見覚えがある便箋が記憶を呼び起こした。
「婚約者を蔑ろにするもの、王の器にあらず」
「あらすごい! 覚えていたのね。……なぁ、警告を受け取ったお前は何をした?」
口調の変わった裁定者の質問に、アルフレッドは答えられない。
「……申し訳、ありません」
「謝罪なんか聞いてねぇ。ミランダに何をしたかって聞いてんだ!」
「申し訳……ありません……」
「謝罪する相手が違う! お前は! ミランダを殴った! その上、口止めまでしたんだ! ミランダはなにも悪くないのに、ただ、王家の為に尽くしただけだったのに!」
突如発せられる、明確な殺気。アルフレッドはようやく、彼女の正体に気が付いた。
「貴女は……侍女の……」
口籠るアルフレッド。彼女が侍女としてミランダに付き従っていた記憶はあるが、名前は思い出せなかった。当然だ、聞こうともしなかったのだから。名前を呼ばないアルフレッドを、冷たく見つめる裁定者。
視線に耐えられず、アルフレッドは謝罪を繰り返す。
「……申し訳……あり……」
「ミランダは侍女だけじゃなくて自分に関わる全ての使用人の名前を覚えているのに。アンタ、謝るしかできないの? そもそも、王太子のくせになんでミランダに仕事を押し付けていたのよ」
「叔父上が……」
「あははっ、やっぱり人って変わらないわね。この期に及んで、叔父上のせい? このままここで死んだら?」
あまりにあっさりと突き放し、裁定者はアルフレッドに背を向けた。ここで見捨てられればどうなるか、分からないアルフレッドではない。
死の恐怖から解放されたい。アルフレッドは必死で目の前の女性に頭を下げた。
「助けて! 助けてください! 助けてくれたら、なんでもします!」
「王太子なのになんで誰も来ないんだー! 影はどこだ、ミランダ助けてくれって泣きべそかいてたじゃない。そんな貴方に、どんな力があるっていうの?」
「そ、それはっ……」
「見て、コレ。貴方の名前が刻まれたコイン」
「私の名前が……」
「コレはね、影の家が一代につき一度だけ使う事が許されているコインなの。こんなに一斉に使われたのは初めてらしいわ。全部、貴方の影のお家からよ。見覚えがある紋章ばかりでしょう?」
「あ、あの。このコインは、私を支持している証なのですか?」
「おめでたいわね。逆よ」
「……ぎゃく?」
「コレはね、主人を見限った証。もう二度と、貴方に仕えないという決別の証よ」
「はい……しています」
「あら、案外潔いじゃない」
「裁定者の前で取り繕っても無駄ですから」
「わたくしが裁定者だと信じて良いの?」
「裁定者の事を知っているのは王位継承権のある王族のみ。影すら裁定者の存在を知らない。そう、父上から聞いています。それに、貴女の腕にある飾りは、裁定者の紋章です。片方だけなら、疑った。両方あれば疑う理由はない」
「ふうん。迷走していても、ちゃんと国王だったのねぇ。口が軽い王弟殿下とは大違いね」
「口が、軽い? 叔父上が?」
「ええ、初対面の少年に裁定者の秘密を簡単に明かすくらい口が軽いわ」
「じゃ、じゃあ!」
僅かな希望を、裁定者は粉々に砕く。
「裁定者は民が困らないように王族を監視し、酷い時には警告する。最終警告をしても変わらない王族は速やかに排除する。それだけの存在よ。あの王弟殿下は、警告を出すほど酷い失態を犯していない。民が困らない為にあの王弟殿下は必要なの。貴族達が多少困っても知らないわ。だって貴族は、優遇されている分役割があるのですもの。自分達で考えていただかないと。それとね、お父様を恨むのは筋違いよ。貴方を廃嫡したのは、貴方を殺させない為。わざわざ安全な執務室に連れて行って貰ったのに、なんで逃げ出しちゃうのよ」
最終警告が来た国王は、ルールを破りニコラスを巻き込んでアルフレッドを改心させようとした。だが、アルフレッドは父の心に気付かず、逃げた。再び現れたアルフレッドは愚かなまま。せめて息子の命を守りたいと思った父は、裁定者が手を出す前にアルフレッドを廃嫡した。
「……殺さない……為?」
「そ、貴方にも警告したのよ。でも、無視したじゃない。あの叔父上が、形骸化してるって一言言っただけで。だから、お父上に警告を出した。それなのにあの人は何をどう勘違いしたのか、ミランダまで利用して貴方を良く見せようと画策した。腹が立ったけど、警告はひとりにつき一回だけ、最終警告は五年後と決まっている。裁定者である以上、そのルールは破れない。ミランダがどんどん疲弊しているのに、わたくしは何も出来ず王族達を監視し続けるしかなかった」
アルフレッドの頭は真っ白になった。目の前の女性がヒラヒラと掲げる紋章が透けた便箋がゆっくりと動く。見覚えがある便箋が記憶を呼び起こした。
「婚約者を蔑ろにするもの、王の器にあらず」
「あらすごい! 覚えていたのね。……なぁ、警告を受け取ったお前は何をした?」
口調の変わった裁定者の質問に、アルフレッドは答えられない。
「……申し訳、ありません」
「謝罪なんか聞いてねぇ。ミランダに何をしたかって聞いてんだ!」
「申し訳……ありません……」
「謝罪する相手が違う! お前は! ミランダを殴った! その上、口止めまでしたんだ! ミランダはなにも悪くないのに、ただ、王家の為に尽くしただけだったのに!」
突如発せられる、明確な殺気。アルフレッドはようやく、彼女の正体に気が付いた。
「貴女は……侍女の……」
口籠るアルフレッド。彼女が侍女としてミランダに付き従っていた記憶はあるが、名前は思い出せなかった。当然だ、聞こうともしなかったのだから。名前を呼ばないアルフレッドを、冷たく見つめる裁定者。
視線に耐えられず、アルフレッドは謝罪を繰り返す。
「……申し訳……あり……」
「ミランダは侍女だけじゃなくて自分に関わる全ての使用人の名前を覚えているのに。アンタ、謝るしかできないの? そもそも、王太子のくせになんでミランダに仕事を押し付けていたのよ」
「叔父上が……」
「あははっ、やっぱり人って変わらないわね。この期に及んで、叔父上のせい? このままここで死んだら?」
あまりにあっさりと突き放し、裁定者はアルフレッドに背を向けた。ここで見捨てられればどうなるか、分からないアルフレッドではない。
死の恐怖から解放されたい。アルフレッドは必死で目の前の女性に頭を下げた。
「助けて! 助けてください! 助けてくれたら、なんでもします!」
「王太子なのになんで誰も来ないんだー! 影はどこだ、ミランダ助けてくれって泣きべそかいてたじゃない。そんな貴方に、どんな力があるっていうの?」
「そ、それはっ……」
「見て、コレ。貴方の名前が刻まれたコイン」
「私の名前が……」
「コレはね、影の家が一代につき一度だけ使う事が許されているコインなの。こんなに一斉に使われたのは初めてらしいわ。全部、貴方の影のお家からよ。見覚えがある紋章ばかりでしょう?」
「あ、あの。このコインは、私を支持している証なのですか?」
「おめでたいわね。逆よ」
「……ぎゃく?」
「コレはね、主人を見限った証。もう二度と、貴方に仕えないという決別の証よ」
976
更新止まって申し訳ございません。少し家庭が落ち着いたので、また少しずつ更新しますが、頻度が毎日ではなくなるかもしれません。申し訳ございません。いつも誤字報告ありがとうございます。承認不要と書かれたものは基本的に承認しませんが、すぐ反映しています。反映されてなかったらご連絡下さい。(一週間開けなくて、承認になったらごめんなさい)
お気に入りに追加
3,563
あなたにおすすめの小説
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ
榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの!
私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
どうやら我が家は国に必要ないということで、勝手に独立させてもらいますわ~婚約破棄から始める国づくり~
榎夜
恋愛
急に婚約者の王太子様から婚約破棄されましたが、つまり我が家は必要ない、ということでいいんですのよね?
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる