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40.もういらない
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「ソフィア様は想像力が豊かですね。さすが、小説家だ。私も読みましたが、知的な表現が随所にちりばめられていました。ストーリーはあまり好みではありませんでしたが、私はおじさんですからな。ご容赦頂きたい」
「さすがソフィアだ。やはりソフィアは王妃にふさわしい。ミランダよりかわいいし、頭も良い」
「違う! 違います! 私はストーリーを考えただけです!」
「何を言っている? あれはソフィアの本だろう?」
「文章はほとんど直されました! 私に王妃なんて無理です!」
「……なんだと?」
アルフレッドは顔を歪ませ、ソフィアを突き飛ばした。
「きゃ……」
「殿下、なにをなさいます? 大事な方でしょう?」
「もういらん」
「は?」
「もういらんと言ったのだ。アレが偽物なら、母上はお前を認めない。だからいらん。おいお前たち、そいつは放っておいていいからついてこい。仕方ないから、ミランダで妥協してやる。父上もミランダを連れてくれば認めて下さる。あの家の真珠を根こそぎ奪って父上に献上しよう」
アルフレッドは澄んだ目で影達に微笑んだ。
「さあ行くぞ。ついてこい」
誰かに危害を加えない限りアルフレッドの行動を止めないようにとエドガーから指示されていた影達は、黙ってアルフレッドに付き従った。
背筋に寒いものを抱えながら。
* * *
青い顔をしたトムが、ミランダとヒースの元へ駈け込んで来た。
「トム、どうしたの?」
「あの王太子、領地に馬車を走らせやがった。ミランダを狙っている。ここに来る事はないだろうが、しばらく出ないように気を付けておいてくれ。すぐ、回収されるだろうから」
「そうか。思ったより早かったな。なぁトム、その話は誰から聞いた?」
一瞬だけ迷ったトムの表情を、付き合いが長いヒースは見逃さなかった。
「その顔、やはりか。トム、伝言を頼んでいいか?」
「……はい」
「言えない事は聞かない。あの時言った言葉は一生有効だと伝えてくれ」
「かしこまりました」
ヒースはトムに伝言を頼むと、静かに部屋を出て行った。
「トムが急に公爵家の養子になって、あっさりわたくしと婚約が整った理由は、シャーリー様達が味方になってくれたからだけじゃないわよね?」
「ああ、そうだ」
トムがエドガーと接触したと知っている者はごくわずか。ミランダはもちろん、バーナード侯爵家の者たちは誰も知らない。影の技術は、当主が認めた子のみ伝承される。トムが子爵になり、家を興したとしても妻であるミランダに影のことを明かすことは許されない。
「理由は、言えないのでしょう?」
「……ああ。一生言えない」
「そう。ならわたくしも一生聞かないわ。だから、そんな顔しないで」
「ミランダ……」
「トムは、わたくしが好き?」
「当たり前だろ!」
「そうよね。わたくしもトムが好き。隠し事なんて、みんなあるわ。特に貴族はそう。わたくし、もう我慢するのはやめたの。トムが嫌だって言っても、もう離れてあげないわ」
「離れるわけ、ないだろ。ミランダが嫌だって言っても、一生離してやんねぇよ」
「あら素敵。わたくしたち、両想いね」
ミランダがトムの手を握る。トムの顔は、トマトのように真っ赤だ。
「さすがソフィアだ。やはりソフィアは王妃にふさわしい。ミランダよりかわいいし、頭も良い」
「違う! 違います! 私はストーリーを考えただけです!」
「何を言っている? あれはソフィアの本だろう?」
「文章はほとんど直されました! 私に王妃なんて無理です!」
「……なんだと?」
アルフレッドは顔を歪ませ、ソフィアを突き飛ばした。
「きゃ……」
「殿下、なにをなさいます? 大事な方でしょう?」
「もういらん」
「は?」
「もういらんと言ったのだ。アレが偽物なら、母上はお前を認めない。だからいらん。おいお前たち、そいつは放っておいていいからついてこい。仕方ないから、ミランダで妥協してやる。父上もミランダを連れてくれば認めて下さる。あの家の真珠を根こそぎ奪って父上に献上しよう」
アルフレッドは澄んだ目で影達に微笑んだ。
「さあ行くぞ。ついてこい」
誰かに危害を加えない限りアルフレッドの行動を止めないようにとエドガーから指示されていた影達は、黙ってアルフレッドに付き従った。
背筋に寒いものを抱えながら。
* * *
青い顔をしたトムが、ミランダとヒースの元へ駈け込んで来た。
「トム、どうしたの?」
「あの王太子、領地に馬車を走らせやがった。ミランダを狙っている。ここに来る事はないだろうが、しばらく出ないように気を付けておいてくれ。すぐ、回収されるだろうから」
「そうか。思ったより早かったな。なぁトム、その話は誰から聞いた?」
一瞬だけ迷ったトムの表情を、付き合いが長いヒースは見逃さなかった。
「その顔、やはりか。トム、伝言を頼んでいいか?」
「……はい」
「言えない事は聞かない。あの時言った言葉は一生有効だと伝えてくれ」
「かしこまりました」
ヒースはトムに伝言を頼むと、静かに部屋を出て行った。
「トムが急に公爵家の養子になって、あっさりわたくしと婚約が整った理由は、シャーリー様達が味方になってくれたからだけじゃないわよね?」
「ああ、そうだ」
トムがエドガーと接触したと知っている者はごくわずか。ミランダはもちろん、バーナード侯爵家の者たちは誰も知らない。影の技術は、当主が認めた子のみ伝承される。トムが子爵になり、家を興したとしても妻であるミランダに影のことを明かすことは許されない。
「理由は、言えないのでしょう?」
「……ああ。一生言えない」
「そう。ならわたくしも一生聞かないわ。だから、そんな顔しないで」
「ミランダ……」
「トムは、わたくしが好き?」
「当たり前だろ!」
「そうよね。わたくしもトムが好き。隠し事なんて、みんなあるわ。特に貴族はそう。わたくし、もう我慢するのはやめたの。トムが嫌だって言っても、もう離れてあげないわ」
「離れるわけ、ないだろ。ミランダが嫌だって言っても、一生離してやんねぇよ」
「あら素敵。わたくしたち、両想いね」
ミランダがトムの手を握る。トムの顔は、トマトのように真っ赤だ。
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