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27.潜入捜査
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執事に変装して王城に侵入したトムは、驚いた。ミランダが婚約破棄される前は大量にいた使用人が、半分ほどに減っていたのだ。エドガーが手配した偽名の紹介状を持参したトムは、同僚たちに憐みの視線を向けられていた。
「こんな時に採用になるなんて、ついてないな」
「なんだか人が少ないようですが……やはりあの騒動のせいですか?」
「その通りだよ。夜会の次の日、三分の一の使用人が辞めた。今じゃ半分になったよ」
「迅速すぎませんか?」
「最初に辞め始めたのは侍女達だ」
「もしかして、ミランダ様を慕っていた侍女達ですか?」
「大正解。夜会が終わった日に辞表を出して出て行った侍女までいる」
「それはまた……」
「人が少なくなれば負担も増えるだろ? だから益々人が逃げていく。このタイミングで採用になるなんて、本当についてないな」
「騒動は聞いていましたので覚悟はしていましたが、これほどとは思いませんでした」
「だよな。頼むから、辞めないでくれよ」
「安心してください。私にも生活がありますから。クビにならない限り辞めるつもりはありませんよ」
「そうか、助かる。早速仕事を説明するから、ついてきてくれ」
「かしこまりました」
トムは実直に仕事をこなし、すぐに仲間達の信頼を勝ち得た。エドガーや、エドガーの影は入れない国王夫婦や王太子の私室に入室を許されるようになるまで、一カ月もかからなかった。しばらくして、王妃の宮に使いに来たトムは驚いた。侍女達の顔に生気がなく、王妃の姿はどこにも見えない。
「王妃様へ手紙が届いております」
「ありがとうございます。新人さんですか?」
「はい。先月採用されたトーマスと申します」
「トーマスさんね。覚えておくわ」
「あの、ところで王妃様は……」
「寝込んでおられるわ」
「え……」
「王妃様は体調不良で、ベッドから起き上がれないの。お部屋に入れるのは数人の侍女と医者だけよ」
「そうなのですね。差し出がましいことを申しました」
「いいのよ。侍女もすっかり減っちゃって、大変なの。わたくしは抜けそびれてしまったわ」
侍女が髪飾りにしている小さな真珠に気が付いたトムは、侍女と会話を続ける。
「お疲れ様です」
「ありがと。あーあ、もう嫌になっちゃう」
侍女が髪に耳を掛けると、髪飾りが落ちた。トムは床に落ちる前に素早く拾い、侍女に手渡す。
「とても美しいですね。王妃様からの賜り物ですか?」
「そんなわけないじゃない。ミランダ様が城中の侍女に下さったの。一粒ずつだけどね。それを髪飾りにしたの。大事なものだから、拾ってくれて助かったわ。あーあ、ミランダ様がいたころは良かったわ。ミランダ様の担当になった日は世界が明るく見えた」
「そうなのですか?」
「そうよ。ミランダ様は本当に優しい方なの。わたくしの妹が病気になった時は、貴重な薬を手配して下さったのよ。おかげで、妹は結婚して子供を産んで、幸せに暮らしているわ。ミランダ様が王妃になるなら、一生お仕えしようと思っていた」
「やはりミランダ様は素晴らしいお方なのですね」
「そりゃそうよ! 王妃様が寝込んじゃったのも、アルフレッド殿下が勝手に婚約破棄したりしたからよ」
「アルフレッド殿下は、いまどこに?」
「さぁ? 知らないわ。国王陛下がどこかに幽閉なさったらしいけど」
「さすがに、貴族牢ではないでしょうからね」
「そりゃそうでしょ。腐っても王太子様なのだし。でも、私室は空っぽよ。たまにお掃除に行くくらいだもの」
「なるほど」
「いけない、しゃべり過ぎちゃったわ。最近、人が少ないからおしゃべりに飢えているのよね。それになぜか、注意されなくなったし」
注意されなくなったのは、人手不足に加え、影の監視がなくなった為だ。
「みなさん、お忙しいのでしょう」
「そうね。そろそろ仕事に戻らないと。トーマスさん、今の話は内緒ね」
「もちろんです。私も仕事に戻りますね」
「ええ、良かったらまたお話ししましょうね」
トムは深々と頭を下げ、王妃の宮を後にした。
「こんな時に採用になるなんて、ついてないな」
「なんだか人が少ないようですが……やはりあの騒動のせいですか?」
「その通りだよ。夜会の次の日、三分の一の使用人が辞めた。今じゃ半分になったよ」
「迅速すぎませんか?」
「最初に辞め始めたのは侍女達だ」
「もしかして、ミランダ様を慕っていた侍女達ですか?」
「大正解。夜会が終わった日に辞表を出して出て行った侍女までいる」
「それはまた……」
「人が少なくなれば負担も増えるだろ? だから益々人が逃げていく。このタイミングで採用になるなんて、本当についてないな」
「騒動は聞いていましたので覚悟はしていましたが、これほどとは思いませんでした」
「だよな。頼むから、辞めないでくれよ」
「安心してください。私にも生活がありますから。クビにならない限り辞めるつもりはありませんよ」
「そうか、助かる。早速仕事を説明するから、ついてきてくれ」
「かしこまりました」
トムは実直に仕事をこなし、すぐに仲間達の信頼を勝ち得た。エドガーや、エドガーの影は入れない国王夫婦や王太子の私室に入室を許されるようになるまで、一カ月もかからなかった。しばらくして、王妃の宮に使いに来たトムは驚いた。侍女達の顔に生気がなく、王妃の姿はどこにも見えない。
「王妃様へ手紙が届いております」
「ありがとうございます。新人さんですか?」
「はい。先月採用されたトーマスと申します」
「トーマスさんね。覚えておくわ」
「あの、ところで王妃様は……」
「寝込んでおられるわ」
「え……」
「王妃様は体調不良で、ベッドから起き上がれないの。お部屋に入れるのは数人の侍女と医者だけよ」
「そうなのですね。差し出がましいことを申しました」
「いいのよ。侍女もすっかり減っちゃって、大変なの。わたくしは抜けそびれてしまったわ」
侍女が髪飾りにしている小さな真珠に気が付いたトムは、侍女と会話を続ける。
「お疲れ様です」
「ありがと。あーあ、もう嫌になっちゃう」
侍女が髪に耳を掛けると、髪飾りが落ちた。トムは床に落ちる前に素早く拾い、侍女に手渡す。
「とても美しいですね。王妃様からの賜り物ですか?」
「そんなわけないじゃない。ミランダ様が城中の侍女に下さったの。一粒ずつだけどね。それを髪飾りにしたの。大事なものだから、拾ってくれて助かったわ。あーあ、ミランダ様がいたころは良かったわ。ミランダ様の担当になった日は世界が明るく見えた」
「そうなのですか?」
「そうよ。ミランダ様は本当に優しい方なの。わたくしの妹が病気になった時は、貴重な薬を手配して下さったのよ。おかげで、妹は結婚して子供を産んで、幸せに暮らしているわ。ミランダ様が王妃になるなら、一生お仕えしようと思っていた」
「やはりミランダ様は素晴らしいお方なのですね」
「そりゃそうよ! 王妃様が寝込んじゃったのも、アルフレッド殿下が勝手に婚約破棄したりしたからよ」
「アルフレッド殿下は、いまどこに?」
「さぁ? 知らないわ。国王陛下がどこかに幽閉なさったらしいけど」
「さすがに、貴族牢ではないでしょうからね」
「そりゃそうでしょ。腐っても王太子様なのだし。でも、私室は空っぽよ。たまにお掃除に行くくらいだもの」
「なるほど」
「いけない、しゃべり過ぎちゃったわ。最近、人が少ないからおしゃべりに飢えているのよね。それになぜか、注意されなくなったし」
注意されなくなったのは、人手不足に加え、影の監視がなくなった為だ。
「みなさん、お忙しいのでしょう」
「そうね。そろそろ仕事に戻らないと。トーマスさん、今の話は内緒ね」
「もちろんです。私も仕事に戻りますね」
「ええ、良かったらまたお話ししましょうね」
トムは深々と頭を下げ、王妃の宮を後にした。
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