上 下
26 / 46

26.誰も来ない

しおりを挟む
「バーナード侯爵家の屋敷に、誰もいません」

「なんだと! どういうことだ……。いくらなんでも戻るのが早すぎるだろう。仕方ない、領地に早馬を走らせろ! ミランダの居場所をなんとしても把握するんだ!」

「はっ! かしこまりました!」

「どこに行ったんだ……。はっ! 真珠は?!」

 国王は大慌てで影を呼んだ。ところが、いつもすぐに現れる影は誰一人現れなかった。

「……なぜ、誰も来ないのだ……まさか……」




「今頃、兄上は大慌てだろうね」

「この展開を予想しておられたのですか?」

「まさか、こんな未来予想外だよ。影が全員、こちらに付くなんてね」

「ご機嫌ですけど、簡単に主人を鞍替えするような人達を信用していいのですか?」

「辛辣だねぇ。トム」

「思った事をなんでも言えとお命じになったのはエドガー様でしょう?」

「まぁね。けどなんか嬉しくてさ。こっちからお願いしても君みたいになんでも言ってくれる人は少ないから」

「俺は平民でしたから貴族のめんどくさいしがらみはありませんし」

「言うね。今じゃ公爵子息なのに」

「あれも、エドガー様のおかげでしょう? あ、おかげでミランダと婚約が調いました。ありがとうございます。三ヶ月後に公表します。それまで、バーナード侯爵家は無人です」

「どこに隠れたのかな?」

「それは、秘密です」

「そっか。連絡が取れるなら、戻って来たら大々的に真珠の養殖をお願いしたいと伝えてくれるかな?」

「もちろんです。お気遣いありがとうございます」

「良かったね。これでトムも心置きなく影の仕事に専念できるね」

「そうです……ね」

「何その顔? 不満でもある?」

「いや、不満は一切ないです。ただ、ちょっと体力がもたないだけで」

「トムはみんなの評判もいいよ。いい訓練相手ができたってみんな大喜びさ」

「その訓練がキツイです」

「強くなれば、ミランダを守れるよ」

「そうでした。全力でやりますから、これからもよろしくお願いします!」

「本当に単純だな」

「そのくらいの方が裏を考えなくていいから楽でしょう?」

「それもそうか、トムの大事な人達を守ってやればいいだけだからな」

「ミランダに苦労をさせたくないのでそれなりの給金は下さいよ」

「もちろん。さて、給金を払うのだから、そろそろ働いてもらおう」

「喜んで。どこに行けばいいですか?」

「王城に侵入して、アルフレッドの幽閉先を調べて。ついでに、あの子の居場所も調査して」

「多くないですか?」

「影は増えたけど、まだ単独行動させられないからさ。しばらくセルのメンバーは動けない」

「それってつまり……」

「調査関係は、ほとんどトムにお願いする事になるね。君はまだ正式なメンバーじゃないからさ。色々と都合がいいのさ」

「人使い粗すぎでしょうよ」

「報酬は充分前払いしていると思うけど」

「そうですね。頂いた前払い分くらいは働きますよ」

「裁定者に気を付けてね」

「誰か分からないのでしょう? どう気を付ければ?」

「気を抜かなければ良い。トムなら、異常に気付ける筈だ」

「ずいぶん信用して頂いたようで。期待に応えられるように頑張りますよ」
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初恋を奪われたなら

豆狸
恋愛
「帝国との関係を重視する父上と母上でも、さすがに三度目となっては庇うまい。死神令嬢を未来の王妃にするわけにはいかない。私は、君との婚約を破棄するッ!」

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

処理中です...