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23.国王の思惑

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 その時、ようやく王妃がおとなしくなり国王が近づいてきた。

「エドガー……状況を説明してくれ」

「アルフレッドとこちらのお嬢さんを裏にお連れするところさ。ミランダの冤罪は晴れたよ。まぁ、誰もミランダを疑ってなかっただろうけど」

「ミランダは……」

「正式に婚約破棄されたよ。アルフレッドが宣言して、ミランダが受け入れた。アルフレッドはこちらのお嬢さんを正妃にするそうだ」

「正妃って……ソフィアは男爵令嬢なのよ!」

 王妃の声が会場に響き渡る。

「母上! 安心してください! いつもソフィアは賢いと言っていたではありませんか! 大丈夫です! ソフィアならすぐ王妃教育を終えますよ。だってソフィアは、母上が認めた女性なのですから」

 ようやく立ち上がった王妃が、アルフレッドの発言を聞いてまた気絶した。

「ミランダ……お前は……」

 国王はミランダに掛ける言葉が見つからない。ここでミランダを無理矢理アルフレッドに縛り付けてしまえば、王家の信頼は失墜する。いや、もうすでに失墜しているか。どこか、どこかに挽回の余地はないか。国王の思惑を見透かしているかのように、ミランダが微笑み、王に頭を下げた。

「ご安心ください。お互い慰謝料などは求めないとお話しさせていただきましたので。本来は国王陛下の裁定が必要なのでしょうが、国王陛下はいつもアルフレッド殿下の意思を最大限尊重するようにと王命を出しておられましたので、問題ありませんわよね? アルフレッド殿下の幸せが一番ですわ。婚約破棄の理由を無理矢理作るなんてアルフレッド殿下らしくありませんが、よほどソフィア様を愛しておられたのですね」

 ミランダは遠回しに国王を脅した。ミランダが代筆をしていようといなかろうと、命じたのはアルフレッドと国王であると大勢の貴族の前で公表してしまった。
 
 ミランダの罪を問えば、同時にアルフレッドと国王の罪も問われる。国王の正解は、アルフレッドを黙らせてミランダと共に別室に連れて行くことだった。

 だが、もう遅い。アルフレッドの発言で、王家は窮地に立たされている。

 ここでミランダを無理矢理連れて行ってしまえば、ミランダがアルフレッドの婚約者のままでも、ミランダを秘密裏に始末しても、貴族の疑惑を払拭できない。

 国王が取れる選択肢は少ない。まず、ミランダに礼を尽くすか、尽くさないかを考えた。ミランダを蔑ろにすれば多くの物を失う。侯爵家の真珠は来月納品だ。真珠がなければ、外交で不利な立場に立たされる。国王はすぐに、ミランダに頭を下げた。

「ミランダ、今までアルフレッドに尽くしてくれたのに、こんなことになって申し訳ない。ミランダが罪を犯したとは思えない。アルフレッドに話を聞くが、おそらく勘違いであろう。後日バーナード侯爵を呼んで、正式に謝罪する」

 勘違いとは、無理矢理な言い訳だ。しかし、王が頭を下げればある程度の無理は通る。ミランダなら、許すと言うだろう。ミランダを失うのは惜しいが、真珠には代えられない。

 国王は、即座に計算して下げたくない頭を下げた。婚約破棄は避けられないが、ミランダの罪を隠ぺいした報酬に真珠を要求しよう。ミランダが代筆したかどうかは分からないが、アルフレッドの様子から恐らくミランダは代筆していたのだろう。証拠を探し、後でバーナード侯爵を脅す。

 爵位を取り上げ、領地を奪ってもいいかもしれない。愚かな国王は、内心ミランダを見下しながら殊勝な態度で頭を下げる。

 だが、国王の思惑をすべて破壊する低い声が響いた。

「国王陛下、謝罪は結構です。今すぐミランダを連れて帰ります」
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