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22.ソフィアは逃げられない

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「もう一度だけ、伺います。アルフレッド殿下、本当にわたくしは罪を犯したのですか? アルフレッド殿下の筆跡を真似て、書類の代筆をしたのですか? わたくしは全く覚えがありません。確かに、わたくしはアルフレッド殿下が担当する書類の草案は書いていました。確認して頂き、訂正して清書をなさったのはアルフレッド殿下ご自身ですが、あれを代筆と言われてしまえばそうなのかもしれません。わたくしはアルフレッド殿下に尽くして参りましたが、ソフィア様のように殿下を癒すことはできませんでした。ですから、無理に理由を探さずとも婚約破棄を承りますわ。もちろん、慰謝料などいりません。アルフレッド殿下を癒せなかったわたくしのせいでもありますもの。ですが、さすがにわたくしの有責とは仰らないでしょう?」

「そ、それは……」

「わたくしの有責で婚約破棄だと言われればさすがに家族が黙っていませんわよ。ねぇお兄様?」

「ええ、ミランダを蔑ろにするのなら、我々は貴族の義務を放棄します」

 来月納品する真珠を、渡さない。そう暗に宣言したヒース。真珠がなければ外交が難しくなる。あまり仕事をしないアルフレッドだが、バーナード侯爵家の真珠の価値は理解している。エドガーに無言で睨まれ、叔父の怒りを感じ取ったアルフレッドは父に縋ろうとした。だが、国王は奇声を上げる王妃を宥めるのに必死で、アルフレッドに背を向けている。ミランダは頭を下げ、アルフレッドの裁定を促した。

「国王陛下はお忙しいご様子。我々は未来の王となるアルフレッド殿下の裁定に従います」

 未来の王と言われ、アルフレッドは安心した。ミランダが言うのなら、自身の地位は安泰なのだろう。ミランダの罪を告発すれば自身も破滅する。それならアルフレッドが取れる選択肢はひとつしかない。

「……ミランダは罪を犯していない。全て私の勘違いだった。ミランダ、今まで尽くしてくれてありがとう。今後の婚姻は、王家がサポートすると約束する」

「必要ありません。ミランダは連れて帰ります」

 ヒースがミランダを庇うように前に出た。怒りを露わにしたヒースの表情は、多くの貴族達と、アルフレッドを震え上がらせた。

 すかさずエドガーがアルフレッドをフォローするように動いた。エドガーの真の意図に気付かないアルフレッドは、いつものように周りのフォローを享受し、思考を放棄した。

「アルフレッド、一度退出するぞ。そちらのお嬢さんも連れて行け」

 ひっそり逃げようとしたソフィアは、エドガーの一言で逃げ場を失い震え上がった。

「ミランダは自由にしてやれ。いいな?」

「はい。行こう、ソフィア」

「あ……あの、私は……」

「安心してくれ。王太子アルフレッドが宣言したのだ。君たちの婚約は認められる」

 逃げるなよと言いたげなエドガーの笑みは美しく、ソフィアは頬を染めた。
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