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21.罪を問えば

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 国王の声が響いた。会場が静寂に包まれる。国王の迫力に、アルフレッドは震えあがった。

「兄上、一度退出しましょう」

 エドガーが促すと、国王の表情が緩んだ。アルフレッドは、ホッと息を吐く。叔父上が助けてくれた。別室で父上と話せば自分が正しいと分かってもらえる。アルフレッドは相変わらず甘く、都合の良い事しか見えなかった。
 
 どうして、夜会の場で国王が声を荒げたのか、どうして、黙れと言われたのか。少し頭を働かせれば理解できたのに、考えようとしなかった。
 
 エドガーはため息を吐き、兄を見つめる。国王は益々焦り、とにかく息子をここから連れ出そうと思った。夜会で声高に婚約者の罪を告発するアルフレッドに国は任せられない。しかも、婚約者の罪を暴くと言いながら自分自身の罪を告白し、国王すら共犯であると叫んだのだ。
 
 こうなってしまえば、アルフレッドを王太子のままにするわけにはいかない。だが、ミランダを言い包めればまだ挽回の余地があるかもしれない。

「ああ、そうだな。アルフレッドは黙れ。ミランダも来い。王妃は私が運ぶ」

 国王は王妃を抱きかかえ、ミランダに背を向けた。息子の発言がどのような影響を与えるか理解した王妃は気絶していた。

「いえ、わたくしはここで失礼します」

「なんだと?」

「婚約破棄された令嬢が、王太子殿下の隣にいる訳には参りません。アルフレッド殿下、今までお世話になりました」

「ふざけるな! お前の罪を告発しているのだぞ!」

 アルフレッドが叫ぶと、王妃が目を覚ました。奇声を上げる王妃に気をとられ、国王は息子をコントロールできない。ミランダは笑顔で、アルフレッドに対峙する。

「アルフレッド殿下の告発が本当なら、わたくしだけでなく国王陛下とアルフレッド殿も同罪という事になります。アルフレッド殿下が仰いましたよね? 王族でも罪になると」

「そ、それは……」

 ようやく自分の発言の意味を理解したアルフレッドは、呆然と立ち尽くした。ミランダは微笑み、小声でアルフレッドに耳打ちする。

「命じたのがアルフレッド殿下なら、アルフレッド殿下も同罪です。王族でも地位がはく奪される。アルフレッド殿下は王太子ではなく、ただの平民になりますわ。国王陛下も同様です。国王陛下が、自身を引きずり降ろそうとする息子を許すとお思いですか?」

「……ミランダ……」

 ミランダはアルフレッドから距離を取り、臣下の礼をした。

「非常に残念ですが、既にわたくしとアルフレッド殿下の婚約は破棄されました。わたくしは、アルフレッド殿下に尽くして参りました。ソフィア様のようにアルフレッド殿下を癒すことはできませんでしたが、王妃教育を完璧にこなし、公務のサポートを行って参りました。幸い、王家の秘密は教わっておりませんので婚約破棄されても死を賜ることはないでしょう。全く覚えはありませんが、わたくしが罪を犯したのなら平民となり償います」

 あなたも、共に平民になる? 無言で微笑むミランダの圧に、アルフレッドがガタガタと震えだした。ミランダを処分すれば、自分も、父も処分される。頭に血が上った自分がどんな発言をしたのか、アルフレッドはようやく気が付いた。

「ねぇ、アルフレッド殿下、本当にわたくしは罪を犯したのですか?」

「い、いやだ……平民なんて……」

「まぁ、なんてことを仰いますの。国民の大半が平民です。貴族とは違う苦労があるでしょうが、大半の人々が楽しく暮らしております。贅沢は出来ませんが、貴族にはない自由があります。わたくしは、平民になっても構いませんわ。父や母、兄もそう言うでしょう。ですから、アルフレッド殿下のお心のままに」

「ミランダ……どうしたら……」

 自分がしたことを棚に上げ、いつものようにミランダに縋るアルフレッド。ミランダは優雅に微笑み、一本の蜘蛛の糸を垂らした。
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