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15.エドガーの本心

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「じゃぁ、今の陛下は……」

「焦っておるのだ。影が減り、自身の支持が揺らいでいる。アルフレッドの影がバーナード侯爵家を調べていたと兄上は知らなかったようだな。【セルラ】が減ったと気付いた兄上は、焦ってミランダに無茶な指示を出すようになった。それが自身と息子の首を絞めていると気付けない兄上は、もう王の器ではない。間違いなく裁定者が動く。アルフレッドは裁定者の審査中だろうが、あの様子では不合格だろう。王になるのは私だ」

「エドガー殿下は審査されないのですか?」

「されておるだろうな。だが、私に後ろ暗いところはない。影も優秀で、仕事もきちんとこなしておる。正直、最初はお前が裁定者ではないかと疑った。だが、お前は違うようだ」

「裁定者なんて初めて聞きましたよ。俺は自分の為に動いただけです」

「そうか。都合の良い駒が、我が手に転がり込んできただけか」

「それは、俺を評価してくれていると思って良いですか?」

「ああ。いいぞ。野心のある若者は大歓迎だ。最終審査だ。ミランダに見合う身分をやる。彼女と結婚してみせろ。バーナード侯爵家が確実に味方になるなら、お前に子爵の身分をやる位容易い。貴族どもの反感を押さえて、貴族社会に溶け込め。でないと、セルの名は背負えない。とはいえ、身分だけでは心許ないだろう。二つだけ質問に答えてやる」

「ありがとうございます。では一つ目の質問です。影を持てる王族の方は、自由に影を増やせるのですか? エドガー様は、俺にセルの名を与えると仰いました。それに、影が付かない王は淘汰されるとも。それなら、王は裁定者を騙そうと影を増やすのでは?」

「本当に聡いな。影に許されたミドルネームを与えるのは王だ。王の許可があれば【ラッセ】【セルラ】【セル】のミドルネームが許されなかった貴族に使用を許可する事はできる。どこで裁定者が見ているか分からないからむやみに増やせんが、兄上は少しずつ自分の影を増やしているようだ。訓練が不足している者を影にするから、お前のような若造にやられるのだ。まぁ、お前が優秀なのは間違いないだろうが。だから、お前にセルの名を与えるのは簡単ではない。数年前ならともかく、今の兄上が許可するとは思えない。だからトム、お前を私の知る貴族の養子にする。派閥に入っていない公爵家だから兄上は疑わないだろう。男爵になったお前を気に入った公爵が養子にした事にする。セルの名を与えるのは私が王になってから。今日からお前は公爵子息だ」

「いきなりランクアップし過ぎですよ」

「文句があるか? ミランダと添い遂げたいのだろう?」

「何一つありません。謹んで養子にならせていただきます。男爵になった時、家族は全て俺の好きにしていいと言っていました。反対されたりはしません」

「懸念点を先に報告するのは素晴らしい。しかし、今回に関しては要らぬ気遣いだ。平民が王弟である私の命令に逆らえるとでも?」

「逆らいません!」

「素直で良い。しかし、セルの名を与えられたら逆らわないだけでは不足だ。兄上やアルフレッドがどのように影を扱っているか知らぬが、私は自分で考えない影は要らん。だが、私情に流されて勝手な行動をとる影は論外。即刻クビだ。私は量より質を求める」

「承知しました。独断で侵入して直談判する俺のような人材を求めておられるのですね」

「その通りだ。自信に見合った実力を求めると付け加えておこう」

「期待以上の働きをしてみせます」

「良い目だ。では、最後の質問をしろ。そしてさっさと、ミランダを救ってやれ。アルフレッドにミランダは勿体ない。あの子は、お前のような有能な男に愛されて初めて真の実力を発揮する。ミランダはアルフレッドの尻拭いで一生を終えて良い女性ではない。私は王家に振り回されたミランダの幸せを全力でバックアップする。お前がミランダに相応しくないなら、ミランダがお前を望まないなら容赦なく排除する。それが、甥っ子に振り回され少女時代を全て王家に捧げた女性に私が出来る唯一の償いだ。兄上を説得して、結婚前に王家の秘密を明かさないようにして良かった」

 王家の秘密は多岐にわたり、王族になって初めて知らされる。ミランダは王家の秘密を知らない。だが、稀に婚約者の段階で王家の秘密を明かされる女性もいる。王太子が婚約者を心から愛しており、早く結婚を望む場合などだ。記録に残っている限りは王家の秘密を明かされて婚約解消や破棄された女性はいないようだ。だが、王家の恥なので隠されている可能性もある。王家の秘密を知った女性が王太子と結婚しなければ、命はない。

「一番聞きたいことを教えて頂きました。質問はありませんので、後日権利を行使させていただきます」

「いいだろう。では、すぐに養子の手続きをするぞ」

トムは静かに、エドガーに頭を下げた。エドガーはニッコリ笑い、トムを引き連れて部屋を出て行った。
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