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第一章 うちの娘は、世界一美しいわ!

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「鏡よ鏡、例の王子はどうしてる?」

「旅に出た」

「た、旅ぃ?!」

「ああ、墓を暴くのはまずかったみたいだな。国王にバレて、城から追い出された。たっぷり金は貰ってたし、生活するには困らねえだろ。反省するまで帰ってくるなって言われてたから、いずれ帰れるんじゃね。今は茨だらけの城の前に居るぜ」

そう言うと、ご主人様の顔が強張った。

「その城に100年眠り続けてるお姫様が居たりしない?」

「いるな。なんで知ってんだよ」

あんま有名な話でもねぇし、知らないと思ってだんだけどな。

「あのね、眠り姫っていう童話があって……もしかして、それかなって」

「どんな話だ?」

「娘の生誕祝いに、国王が12人の魔女を招待したの。魔女達はそれぞれお祝いに、赤ん坊に祝福を授けていった。優しい心や美しさ、手先の器用さとかだったかしらね。11人目まで祝福を授けたところで、呼ばれなかった13人目の魔女が現れたの。そして、15歳の時に糸車のつむに刺されて死ぬって呪っちゃうの」

「魔女様はプライド高いのも多いからなー。周りの魔女は呼ばれてて自分は呼ばれないってなるとキレるのも当然か」

「魔女用のお皿が12枚しかなかったらしいのよね」

「そこは上手くやれよ。国には13人の魔女が居たんだろ?」

「うーん、そんな話が書いてあるのもあったかも。自分だけ呼ばれなかったって怒ってたから。でね、まだ祝福を与えてなかった12人目の魔女が、呪いを消す事は出来ないけど弱める事は出来るからって死ぬのではなく100年の眠りにつくだけって事にしたの」

「他の魔女は祝福で魔力を使い切ってた訳か」

「多分そう。で、国王は呪いが来ないようにって娘を城から出さずに育てるんだけど、15歳になったら城に居た老婆の糸車に興味を示してね。糸を紡ごうとした時、つむに触れて眠ってしまうの」

「城に隠したくらいで呪いが防げる訳ねぇし」

「この辺、いろんなパターンがあるのよ。糸車のつむで死ぬって13人目の魔女が予言してたから、国王は国中の糸車を破壊させたのに、老婆はそのお触れを知らなかったとか、糸車の話は特に出てこなくていきなりつむに触れたら倒れちゃうとか。同じなのは、糸車のつむに触れたら100年の眠りにつくってところね」

「その老婆は魔女が化けてたのか?」

「化けてたパターンと、普通の一般人パターンがあるわ」

「……ややこしいなおい」

「そこはまぁ、童話だし。お姫様と一緒に城中の人達も眠りについて、城は茨に覆われてしまうの。100年経過するまでは誰が入ろうとしても駄目で、ちょうど100年経過した時に王子様が現れるのよ」

「都合が良すぎんだろ!!」

「童話だもの。そんなものよ」

「それもそうか。じゃあ、眠り姫の王子と白雪姫の王子は同一人物なのか?」

「だとしたら浮気よね。許せないわ」

「待て待て待て! 無駄にキレんな! 大体、童話の話だろ? 実際はあのヤベエ王子は白雪姫と会った事はねぇんだからよ」

「当然よ! 絶対会わせないわ! だって白雪に会ったら好きになってしまうもの」

そうかぁ?
あの腹黒お姫様に?

俺ならゴメンだぞ。

確かに白雪姫はご主人様より美人だ。それは間違いない。けど、ご主人様の方が人気だぞ。

白雪姫は美しい姫君だと有名になりつつあるけど、白雪姫を溺愛する慈悲深い女王様も有名だ。

あの王子が好きなのは間違いなくご主人様の方だ。今まで墓を漁ってた女達の見た目はどちらかというとご主人様に近いし、白雪姫の話や絵姿を見ても興味を示さなかったけど冷たい女王様の話は聞きたがっていた。

白雪姫を溺愛する優しい女王だと聞いて興味を失ったが、会っちまったら好きになるかもしれない。出来ればあの王子とご主人様を会わせたくない。

「どうしたの? 何か隠し事?」

「ちょっとな」

「ふぅん、必要ならちゃんと言ってよ。特に、白雪に関係する事で隠し事は無しでお願いね」

「白雪姫は関係ねぇから大丈夫だ。それに、確証はないからな。ハッキリしたらちゃんと教えるよ」

「分かったわ。白雪に害がないなら構わないし。ねぇ、眠り姫のお城って開く気配がある?」

「今のところ、ねぇな」

「よっし! なら眠り姫の王子は別の人なのね!」

王子が現れた途端、イバラが動いて城が開けるらしい。きっと白雪姫の王子とは違う男が現れるんだろう。

「アンタが心配する事か?」

「白雪姫の物語を崩壊させたわたくしが言う事じゃないんだけど、さすがに100年眠った直後に出会った男が死体愛好家はあんまりでしょう。眠り姫は何も悪くないわ。迂闊な親の犠牲になっただけだもの。ちゃんと幸せを掴んで欲しいわ」

「なら、あの王子が城に入ろうとしたら教えてやるよ。安心しな、白雪姫は間違いなく童話より幸せだ。あんなヤベェ王子と結婚しなくて良いし、優しい母親も出来たしな」

そう言うと、ご主人様はそれはそれは嬉しそうに笑った。可愛い。こりゃあの国王陛下も惚れる筈だ。全く気持ちが伝わってないのが可哀想だが、自業自得だし知らね。

「ねぇ、鏡。どこかに白雪にピッタリの王子様は居ないかしら?」

「白雪姫の好みがわかんねぇんだよな。俺の見た目は好きみたいだけど……」

「鏡は美しいものね。確かに白雪とお似合いかしら?」

「勘弁してくれ。俺は人間じゃねぇんだぞ」

「そうだったわね。残念だわ」

残念。そうだな。こんな感情を持つなんて思わなかった。俺がもし人間なら……。
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