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第一章 うちの娘は、世界一美しいわ!
24.許す
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「……ん? 俺、なにしてたんだ?」
鏡の目が、元の黒い瞳に戻った。良かった……。
「鏡、無事? あなた、暴走しかけてたのよ」
「へ? ってか、なんで俺この姿なんだ?! 悪りぃ、全く記憶がねぇ! 俺は一体なにをやったんだ?」
「急に男の姿になって、陛下に怒って魔力が溢れたのよ!」
こんな状況じゃ、鏡から目を離せない。出来れば師匠に相談したいけど、鏡が嫌がるからもう少し様子を見ましょう。しばらくはずっと鏡はわたくしの側に居てもらうわ。
「陛下! ご無事ですか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
「申し訳ありません。鏡の失態はわたくしの失態ですわ。すぐに騎士達を回復します」
怪我はないみたいで良かったわ。けど、許して貰えるか分からない。国王に害が及んだかもしれないんだもの。
鏡も覚悟を決めた顔をしてる。鏡を破壊しないといけなくなる……かしら。
でも、わたくしは鏡を壊したくない。最悪、白雪と一緒に国を出るか……いや、それも駄目ね。あの子は姫なんだから……わたくしが鏡と逃亡するしかないかも。白雪とは、いつでも話せる魔道具を作るか毎日転移で会いに行くか……。
最悪の事態を考えていたら、国王は今までとは全く違う威厳のある声で言った。
「カタリーナ、貴女の鏡の失態は許す。みんなも、この場ではなにも起きなかった。そういう事にしてくれ。良いな?」
騎士達に緘口令まで敷いてくれた。
「陛下の温情に感謝致します。もう2度とこんな事にはならないように暴走の原因を調べます」
「調べなくて良い! 鏡殿も記憶はないのだろう?」
「はい。急に頭がカーッとしちまって……本当に、申し訳ありませんでした」
「誰も怪我をしてないのだから気にしないでくれ。カタリーナ、今後についてきちんと話をしたい」
さっきもわたくしと夫婦でいたいとか、言ってたわよね。わたくしはムッとして、そしたら鏡も怒って……。もしかして、わたくしの感情を鏡が察知して暴走したのかもしれないわ。冷静に、感情をコントロールするのよ。
「陛下は、今後はどうなさりたいのですか?」
「せめて白雪が結婚するまでは夫婦でいてくれないか? その方が白雪……マルガレータにとっても良いだろう。もちろん、マルガレータが許してくれるまでは会わないと約束するよ。鏡殿も、どうかマルガレータをよろしく頼む。だが……暴走は無しで頼む。2回目は親としても国王としても、お、男としても許容出来ない」
「……良いんですか? 俺は人間じゃない、魔女が作った鏡です。暴走した鏡は、壊されちまうもんじゃねぇんですか?」
確かにそうだけど……暴走はギリギリで止められた。鏡はまた作れるけど、今の鏡と同じものにはならない。壊しちゃったら、今わたくしの隣に居る鏡とはもう会えなくなる。だから、最悪の場合わたくしは鏡を連れて逃げるつもりだ。
「暴走はしてない。魔法で作られた鏡の精が暴走したらこんなものでは済まない。それくらいは知っている。それにな……カタリーナは鏡殿を壊すつもりはないだろう?」
「……はい。鏡を壊したくはありません」
「だろうと思った。カタリーナは大事な人が多いようだからな。鏡殿だけでなく、マルガレータも大事にしてくれているんだろう?」
「白雪は最優先です!」
「そこに私を加えてくれと言うのは……流石に傲慢だろうか?」
「その、今すぐは無理ですけど……少しずつなら……」
「そ、そうか! ありがとうカタリーナ!」
なんだか急に好意的になったわね。
けど、今の彼は悪くない。以前のように話すら出来ないなんて事はないし、鏡の事も許してくれた。元々は優しい人なのかもしれない。
だからこそ、ミレーユ様の事を忘れられないのかもね。
「陛下……いえ、フリッツ様。これからもよろしくお願いします。もちろんわたくしを愛して欲しいなんて思いませんからご安心下さいませ。あんなに長いこと想っておられたミレーユ様を忘れる事など出来ないでしょうし、白雪が素晴らしい子になったのもミレーユ様のお力でしょうから。あくまでも、白雪の父と母として……しばらくの間よろしくお願いしますね」
優しい方のようだから、わたくしとの関係を修復する為に無理矢理わたくしを愛そうとするかもしれない。そんなの辛いわ。わたくし達はあくまでも白雪が成人するまでの仮の関係よね。ちゃんとお伝えしておかないと今のフリッツ様はわたくしの事で悩まれるかもしれないわ。
ミレーユ様の事を想い続けたいフリッツ様に、これ以上無理をさせてはいけない。
「ぶっ……ははっ……あははっ……」
急に、鏡が大笑いし始めた。
「どうしたの? 鏡? まだ調子悪い?」
「いや絶好調だ。食事を作るんだろ? 早くやらねーとみんな腹を空かせてるぜ」
「ああ! そうだわ! すぐ作るわね!」
「アンタの手料理を食いそびれたら白雪姫が悲しむぜ。呼んで来いよ」
「そうね! フリッツ様、白雪も呼んでよろしいですか?」
「嬉しいが……白雪は私に会ってくれるだろうか……」
「そこは俺が説得してみますよ。家庭教師として、ね」
そう言って、鏡は女性の姿になった。
「良いのか?!」
「さっき俺を許してくれた礼です」
「感謝する。ありがとう鏡殿!」
穏やかに笑う鏡を見ていると、さっきの暴走が夢だったんじゃないかと思えてくる。それに、鏡が不機嫌な様子もない。良かった……暴走の原因は急いで調べるけど……鏡が穏やかに笑ってると安心するわ。
あれだけ嫌な気持ちになった夫とも今までよりも穏やかな関係が築けそうだ。親が穏やかでないと、子にも影響があるもの。今の夫なら、白雪も受け入れてくれるかもしれない。
もちろん、無理強いは出来ないけどね。
鏡の目が、元の黒い瞳に戻った。良かった……。
「鏡、無事? あなた、暴走しかけてたのよ」
「へ? ってか、なんで俺この姿なんだ?! 悪りぃ、全く記憶がねぇ! 俺は一体なにをやったんだ?」
「急に男の姿になって、陛下に怒って魔力が溢れたのよ!」
こんな状況じゃ、鏡から目を離せない。出来れば師匠に相談したいけど、鏡が嫌がるからもう少し様子を見ましょう。しばらくはずっと鏡はわたくしの側に居てもらうわ。
「陛下! ご無事ですか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
「申し訳ありません。鏡の失態はわたくしの失態ですわ。すぐに騎士達を回復します」
怪我はないみたいで良かったわ。けど、許して貰えるか分からない。国王に害が及んだかもしれないんだもの。
鏡も覚悟を決めた顔をしてる。鏡を破壊しないといけなくなる……かしら。
でも、わたくしは鏡を壊したくない。最悪、白雪と一緒に国を出るか……いや、それも駄目ね。あの子は姫なんだから……わたくしが鏡と逃亡するしかないかも。白雪とは、いつでも話せる魔道具を作るか毎日転移で会いに行くか……。
最悪の事態を考えていたら、国王は今までとは全く違う威厳のある声で言った。
「カタリーナ、貴女の鏡の失態は許す。みんなも、この場ではなにも起きなかった。そういう事にしてくれ。良いな?」
騎士達に緘口令まで敷いてくれた。
「陛下の温情に感謝致します。もう2度とこんな事にはならないように暴走の原因を調べます」
「調べなくて良い! 鏡殿も記憶はないのだろう?」
「はい。急に頭がカーッとしちまって……本当に、申し訳ありませんでした」
「誰も怪我をしてないのだから気にしないでくれ。カタリーナ、今後についてきちんと話をしたい」
さっきもわたくしと夫婦でいたいとか、言ってたわよね。わたくしはムッとして、そしたら鏡も怒って……。もしかして、わたくしの感情を鏡が察知して暴走したのかもしれないわ。冷静に、感情をコントロールするのよ。
「陛下は、今後はどうなさりたいのですか?」
「せめて白雪が結婚するまでは夫婦でいてくれないか? その方が白雪……マルガレータにとっても良いだろう。もちろん、マルガレータが許してくれるまでは会わないと約束するよ。鏡殿も、どうかマルガレータをよろしく頼む。だが……暴走は無しで頼む。2回目は親としても国王としても、お、男としても許容出来ない」
「……良いんですか? 俺は人間じゃない、魔女が作った鏡です。暴走した鏡は、壊されちまうもんじゃねぇんですか?」
確かにそうだけど……暴走はギリギリで止められた。鏡はまた作れるけど、今の鏡と同じものにはならない。壊しちゃったら、今わたくしの隣に居る鏡とはもう会えなくなる。だから、最悪の場合わたくしは鏡を連れて逃げるつもりだ。
「暴走はしてない。魔法で作られた鏡の精が暴走したらこんなものでは済まない。それくらいは知っている。それにな……カタリーナは鏡殿を壊すつもりはないだろう?」
「……はい。鏡を壊したくはありません」
「だろうと思った。カタリーナは大事な人が多いようだからな。鏡殿だけでなく、マルガレータも大事にしてくれているんだろう?」
「白雪は最優先です!」
「そこに私を加えてくれと言うのは……流石に傲慢だろうか?」
「その、今すぐは無理ですけど……少しずつなら……」
「そ、そうか! ありがとうカタリーナ!」
なんだか急に好意的になったわね。
けど、今の彼は悪くない。以前のように話すら出来ないなんて事はないし、鏡の事も許してくれた。元々は優しい人なのかもしれない。
だからこそ、ミレーユ様の事を忘れられないのかもね。
「陛下……いえ、フリッツ様。これからもよろしくお願いします。もちろんわたくしを愛して欲しいなんて思いませんからご安心下さいませ。あんなに長いこと想っておられたミレーユ様を忘れる事など出来ないでしょうし、白雪が素晴らしい子になったのもミレーユ様のお力でしょうから。あくまでも、白雪の父と母として……しばらくの間よろしくお願いしますね」
優しい方のようだから、わたくしとの関係を修復する為に無理矢理わたくしを愛そうとするかもしれない。そんなの辛いわ。わたくし達はあくまでも白雪が成人するまでの仮の関係よね。ちゃんとお伝えしておかないと今のフリッツ様はわたくしの事で悩まれるかもしれないわ。
ミレーユ様の事を想い続けたいフリッツ様に、これ以上無理をさせてはいけない。
「ぶっ……ははっ……あははっ……」
急に、鏡が大笑いし始めた。
「どうしたの? 鏡? まだ調子悪い?」
「いや絶好調だ。食事を作るんだろ? 早くやらねーとみんな腹を空かせてるぜ」
「ああ! そうだわ! すぐ作るわね!」
「アンタの手料理を食いそびれたら白雪姫が悲しむぜ。呼んで来いよ」
「そうね! フリッツ様、白雪も呼んでよろしいですか?」
「嬉しいが……白雪は私に会ってくれるだろうか……」
「そこは俺が説得してみますよ。家庭教師として、ね」
そう言って、鏡は女性の姿になった。
「良いのか?!」
「さっき俺を許してくれた礼です」
「感謝する。ありがとう鏡殿!」
穏やかに笑う鏡を見ていると、さっきの暴走が夢だったんじゃないかと思えてくる。それに、鏡が不機嫌な様子もない。良かった……暴走の原因は急いで調べるけど……鏡が穏やかに笑ってると安心するわ。
あれだけ嫌な気持ちになった夫とも今までよりも穏やかな関係が築けそうだ。親が穏やかでないと、子にも影響があるもの。今の夫なら、白雪も受け入れてくれるかもしれない。
もちろん、無理強いは出来ないけどね。
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