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第四章 守りたいもの

3.モーリス視点2

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「はい。お父様とお母様が厳重に抗議してくれて、正式な謝罪も頂きました。あの子、わたくしと全然似てませんでした。同じ……親から産まれた姉妹の筈なのに……」

ビオの産みの母親は、あの国の正妃様。元々は劇団の女優だったらしい。キャスリーン様が引き取り、育てたそうだ。表向きは、キャスリーン様がビオを産んだ事になっている。

真実を知っているのはごく一部、更に隠された秘密を知るのはもっと僅か。おそらく、ビオの母親は不貞をしてビオを身籠ったんだ。あの妹だって、国王の子か怪しい。ビオも薄々勘づいているみたいだ。

くっそ。隠すならもっと上手く隠せよ! ビオの不安は、全て取り除きたいのに。

あの国は堂々とビオの母親なのだから優遇しろと僕に文を送りつけてきた。それだけならまだしも、妹だと名乗る女がビオを訪ねて来たらしい。姉なのだから、支援しろ。帝国と繋ぎを作れ。僕と結婚するのは自分だと、要求してきたらしい。父親までついてきた。

すぐに国から迎えが来て帰って行ったが、やった事を取り消す事はできない。クリス様は若い頃様々な国に留学なさっていたから顔が広い。そんなお方が娘を蔑ろにされたとあちこちに文を書いておられたから、他の国からも切られるだろう。ったく、蔑ろにしていた元妻の国を堂々と訪ねるなんて馬鹿だよなぁ。しかも、夫はあのクリス様なのに。

あの人普段は優しいけど、怒ると父上より怖いんだよな。権力も武力もあるって最強だろ。うちも王妃様が怒って外交を止めた。元々たいした交流も無かったしな。あちらは大騒ぎだろうが知るか。ビオを蔑ろにする国はいらん。他国にうちの恐ろしさを示す礎になってもらおう。

戦争をしなくても、国を潰す方法はある。神殿様々だな。神殿が裁判所のような役割をしてくれるおかげで、民に血を流さず国を獲れる。

あいつらが暴走してくれたおかげで、クリス様の許可が取れて早々にビオと結婚できるのもラッキーだ。

可愛い可愛い僕のビオ。そんな顔をしないで。あんな奴ら、ビオの親じゃない。

「ビオの父上と母上は、キャスリーン様とクリス様だよ」

「……そう、ですよね。でも、わたくし誰にも……」

「ビオレッタ」

ビオの肩が、小さく震えている。怯えさせてごめんね。けど、これだけは分かってもらう。

「孤児院から引き取られた子どもであっても、君の母上はキャスリーン様で、父上はクリス様。ビオは間違いなく王族だ。不安に思うのは分かる。でも、僕はビオ以外と結婚する気はないよ」

「……モーリス様……わたくしで良いのですか? こんな事……お父様にも、お母様にも言えなくて……」

「ビオが良いの。おいで」

ビオを抱き締めて口付けをする。まだ彼女は幼い。ま、僕もだけど。だから、しばらくはこれだけ。

あーあ、早く大人になりたいなぁ。

ビオの妹だというあの下品な女……、絶対に許さない。なにが、わたくしの方が帝国に相応しい、だよ。まだ子どもだからって許す程、僕は優しくない。

せっかくだし、功績に利用させてもらうよ。

やっぱり、教育って大事だよね。ビオは、小さな頃からずっと、思慮深くてしっかりしていた。そんな彼女が、僕の前でだけ弱音を吐くのがたまらなく愛おしい。

……だからもっと、僕だけを頼って欲しい。
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