愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり

文字の大きさ
上 下
16 / 46
第二章 新しい生活

6.父と兄

しおりを挟む
「で、わざわざクリスを家に帰したのか」

「ええ。今頃鉢合わせしてるでしょう。ピーターに説明しておきましたから、キャスリーンは喜ぶでしょう」

「私はピーターを選んだのに、勝手なことをしおって」

「父上、いい加減クリスを認めて下さいよ。キャスリーンを街に連れ出したのは、キャスリーンが我儘を言ったからです。クリスは真面目で優しい男です。キャスリーンだって、クリスの事を忘れていないのでしょう?」

「……おそらくな。結婚相手は騎士でもいいかと聞いたんだ。そうしたら、悲しそうに微笑んで好きな人などいない。そう言った」

「クリスは平民のふりをしていましたからね。行方が分からなくて諦めたのでしょう」

「騎士はたくさんいる。キャスリーンが好いている騎士がクリスとは限らんだろう」

「はっきりさせる為に再会させたんですよ。キャスリーンがクリスの事をなんとも思ってなければ、予定通りピーターと婚姻させれば良いでしょう。ピーターにも、キャスリーンが気に入ったら兄の事など気にせず口説けと伝えてあります。私は相手がピーターでも構いません。キャスリーンが幸せであればそれで良いんです。あの子は表向きは再婚だけど、実際は心も身体も初婚と変わりません。国外には出せない」

「再婚となれば、よほどキャスリーンが気に入られないと正妃になれぬだろうからな。側妃なら、引く手数多だが……」

「再婚で、側妃となれば大事にされない可能性もある。それに、ビオレッタを置いていかねばならなくなる。キャスリーンがあれだけ必死で守った子です。血が繋がっていなくても、我らの家族だ。親子が離れ離れにならぬように、他国から打診がある前に早くキャスリーンを結婚させた方がいいと思います」

「分かっておる。ジェニファーが来月来る。その前にキャスリーンの婚約をまとめておきたい。帝国の王子の側妃を打診されたら、断るのは大変だからな。全く、こんな事ならキャスリーンを外に出さなければ良かった」

「父上、それは今更ですよ。仕方ないでしょう。政略結婚は王族の務めなんですから」

「分かってる。けど……娘の幸せを望んで何が悪い。大体、政略結婚だからこそ大事にするものではないのか! あれほど立派な国王の息子なら安心だと……そう思ったのに!」

「やはり、見つかるリスクを承知で密偵を送り込むべきでしたね」

「……何もかもが今更だ。私が甘かった。キャスリーンなら、困ったら教えてくれると思っていた。だが、あの子は予想以上に責任感が強くて……」

「侍女達がいれば、別だったのでしょうけどね」

「解雇した上、国外に出れないようにしているとはな。見張りを付けていない辺りは甘いが、我が国が連れて来た侍女を即解雇するとは……ずいぶん舐めてくれたものだ」

「全くです。キャスリーンと結婚する前からあの女と関係があったというではありませんか」

「劇団の女優だったな。見目は良かったが品がなかったよ。側妃にする為に貴族にしたらしい。派手好きで、うちの援助で宝石やドレスを買い漁っていたらしい。金は全て返ってきた。あの男が返すとは思えんから、おそらく宰相辺りが動いたんだろう」

「側近は優秀ですね。返さなかったら、訴えられたんですけどねぇ。残念です」

「そのかわり、金が無いのか警備が甘い。密偵は送り放題だ。そうそう、面白い事が分かった。あれだけ毎日のように盛っている割に、まだ次の子ができる気配はないらしい」

「キャスリーンが帰ってきて、まだ半年ですよ」

「……確かにそうだが、ビオレッタはあの男の特徴がひとつもない。そう思わないか?」

「まぁ、確かに……」

「女優をしていた頃は、パトロンから劇団仲間まで、ずいぶん多くの男と遊んでいたようだ。過去の男と縁が切れていないのかもしれん」

「キャスリーンと違って、あの女には品がない。街に溶け込むのも簡単でしょう。使用人は外出時でもあまり付き従っていなかったようですし……密会する隙はあったでしょうね。ビオレッタの父親も、誰なのか怪しいものですね」

「ビオレッタの父親については、しばらくキャスリーンの耳に入らないようにしておこう。これ以上、悩みを増やしたくない」

「そうですね。せめて、キャスリーンが幸せを掴むまでは、黙って見守りましょう。ビオレッタの養子縁組は済んでいます。ビオレッタがどこの生まれだろうと、ビオレッタはキャスリーンの子です」
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

処理中です...