上 下
4 / 46
第一章 離婚

4.お父様の包囲網

しおりを挟む
「お父様、お母様、お久しぶりでございます!」

いつものように、当たり障りのない会話をする。夫が隣でにこやかに笑っている。

いつもは少し話すだけ。だけど……今日は違う。

「ああ……この子が……なんて利発そうなの!」

孫を溺愛するお母様に、夫はタジタジになっている。さっさと逃げたそうにしてるけど、格上の妻の実家を蔑ろには出来ない。

「もう! なんで里帰りして来ないの?! ようやく孫が生まれたと思ったのに、全く連絡をくれないじゃないの!」

「申し訳ありませんお母様。ビオレッタの育児に忙しくて」

嘘は、吐いてない。

夫の命令通り、子煩悩な王妃を演じているわ。けどね、わたくしの発言の異常さに気が付いた招待客は引いてるわ。

夫が満足そうに微笑んでいられるのも、今のうちよ。

「まぁっ! 乳母はどうしたの?!」

「今は、乳母がおりませんわ。以前はとても優秀な方が付いていたのですけど……」

夫の顔色が変わった。わたくしを睨みつけても無駄よ。ご覧なさい。お父様の顔が真っ赤に染まっているわ。

「……どういうつもりだ。王妃に乳母をつける事が出来ないほど困窮しているのか? 充分援助はしていたはずだろう?」

ゾッとするようなお父様の声が、会場中に響き渡った。第一王女の生誕祝いは、他国の王族がたくさん招待されている。

その場で援助の事を口にしたお父様。

いつもの優しいお父様ではない。為政者の目をした、冷酷なお父様。ふふ、ずーっと穏やかに笑っているお父様しか知らない夫は固まっているわ。

なんとかしろ、目がそう語ってる。

そうね、なんとかしてあげる。可愛いビオレッタの為だもの。

「わたくしが、自分の手でビオレッタを育てたいと我儘を言ったの。だから、乳母は一人だけで……」

「王族なのに、乳母が一人?! まぁ?! そんなところに娘を嫁がせてしまったの?!」

お母様が、大声で叫ぶ。夫の顔色が、どんどん青ざめていく。

「……国王陛下は、いつもお優しいですわ」

命令通りの言葉を吐く、わたくし。だけどね、笑ってわたくしの腰を抱けるのも今のうちよ。

「そうか、夫婦で育児をする事にしたのだな。王族であっても、自らの手で子を育てたい。素晴らしい考えだ。だから里帰りも許されなかったのだな」

穏やかに微笑むお父様。ホッとする夫。お父様の包囲網が完成した。

「そ! そうなんです! 正妃は育児だけしていれば良いですが、私は仕事もあり……忙しい中ビオレッタの世話をしているんです!」

終わりね。さぁ、馬鹿国王様。自分の発言のミスに気が付いて。

「……正妃、か。では側妃の方は寂しい思いをしておられるだろう?」

「そうなんです! 私が正妃にばかり構うから……可愛い側妃との時間が……」

「そうか! 私は側妃様とお会いした事はない。是非お会いしたい。連れてきてくれ。さぞかしお美しいのだろう?」

友好的なお父様に安心したのか、大喜びで側妃を呼びに行った夫。わたくしを正妃と呼ぶのなら、側妃がいると言外に伝えている事になる。そんな事にも気が付かなかったの?

ほんっと、馬鹿国王ね。

会場は、シーンと静まり返っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

あなたの子ではありません。

沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。 セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。 「子は要らない」 そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。 それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。 そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。 離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。 しかし翌日、離縁は成立された。 アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。 セドリックと過ごした、あの夜の子だった。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...