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第一章 離婚

3.覚醒

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「おい。ビオレッタの誕生祝いをするから今すぐ着飾れ。お前の両親も来るからな。いつものように、上手くやれ」

聞いてないわよ。馬鹿国王!
しかも、今日?!

マリーが解雇されてしまったせいで、全く情報が入らなくなってしまった。覚悟はしてた。けど、マリーと別れるのは辛かったわ。

「なんだその顔は?」

「……国王陛下の命令に従いますわ。うちの両親も来ているのですか?」

「二度も言わせるな無能。分かってると思うが、ビオレッタはお前の子として紹介しろよ。一年も育てれば懐いているだろう。いつものように上手くやれ。今回は子煩悩な正妃様を演じろよ」

夫の言う通りビオレッタはわたくしにべったりだ。今だって、夫の事など見向きもせずわたくしに抱っこをせがむ。

もう! なんて可愛いの!

でも、ビオレッタを可愛いと思えたのはマリーのおかげなのよね。二人で交代しながらビオレッタを見ていたから、なんとか乗り切る事が出来た。これを一人でやってたら、ビオレッタを可愛いと思えなかったかも……ああでも、やっぱりビオレッタは可愛いわ!

ビオレッタの夜泣きに悩まされていても、マリーが助けてくれた。通いなのに泊まってくれた事も何度もあるわ。離乳食が始まるまではずっと泊まり込みだった。マリーが倒れないか心配で仕方なかったわ。なんで乳母が一人なのよ。王族なのよ?! 交代制で少なくとも五人は付けなさいよ! 大国だから比べちゃいけないかもしれないけど、お姉様は乳母が十人もいたのに!

授乳は変わってあげられない。疲れたマリーにお風呂も用意してあげられないなんて……。

うちの国なら、ありえない。

その時、ふと閃いた。

うちの国は、里帰り出産が当たり前。お姉様も、一年位は里帰りしていたわ。

そうよ! どうして今まで、こんな馬鹿に怯えていたの?!

国王だ、夫だと威張ってるけど、義務も果たさない夫を尊敬するなんて無いでしょ。ビオレッタの教育に悪いわ。

すっかり牙を抜かれていたけど、こんな環境……異常だわ。

「かしこまりました。父と母には、ビオレッタの可愛さを存分に伝えさせて頂きます」

「ビオレッタ様だ!」

「わたくしが仮初の母親なのでしょう? そんな他人行儀な呼び方をしていたら、父に疑われますわ。父はわたくしを大事にしておりますから、離縁して帰って来いと言い出すやもしれませぬ……ああ……もちろん国王陛下がそうお望みなら……従いますわ」

目を伏せ、ビオレッタを抱きしめる。
わたくしが産んだ子ではないけど、一度もビオレッタの顔を見に来なかった親になんて渡せないわ。

わたくしは表向きはビオレッタの母親。蔑ろにはできないわよねぇ?

夫は、面白くなさそうに部屋を出て行った。自分の立場を忘れるなと捨て台詞を残して。

そうね。自分の立場を思い出したわ。国力だって、わたくしの実家の方が上。なんでこんな男に従っていたのかしら? 目が覚めたわ。

いつものように上手くやれと命じましたわよね? ビオレッタの為に上手くやらせて頂きますわ。

さぁ、旦那様。

反撃の始まりですわ。ビオレッタに見向きもしないあなたは、父親失格。ビオレッタに少しでも声をかけていれば、迷いも生じたでしょうけど……もう迷わない。わたくしは、生まれながらの王族。甘やかされた末っ子ではあるけれど、父や母、兄や姉達の生き様をすぐ側で見て、学んで生きてきた。

……必要とあらば、冷酷な判断が下せるのよ。それが王族、だもの。
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