上 下
38 / 45
番外編 誰が兄上壊したの?

第七話

しおりを挟む
「やあ、イオス待ってたよ」

「兄上……お待たせしました。話とは何でしょうか?」

「イオスは、僕に何を隠してるんだい?」

「兄上……」

「怒らないから、教えてくれる? 僕を怖がってるよね? それに……イオスはいつから自分の事をオレと呼ぶようになったの? セーラと会ってからだよね。セーラが悪いのかな?」

イオスは、全身が震える事を抑えられなかった。怖がり、泣き、それでも返事をしないイオスに、フォスは悲しそうに言った。

「イオスは、僕の事が嫌い?」

「いいえ! 兄上の事は大好きです!!!」

「……どうやら、嘘ではなさそうだね。なら、どうしてこんなに怯えてるかちゃんと教えてくれる? でないと、イオスの大事な……」

「オレは、未来の記憶があるのです!!!」

フォスの目を見て、セーラに危害が及ぶと感じたイオスは、全てをフォスに話す事にした。イオスにとって何より大事なのはセーラだったから。セーラの記憶がない事にすれば、自分にしか怒りは向かないだろうと考えた。

「未来の記憶?」

「はい、オレは一度イオスとしての人生は終わりました。老人まで生きて、死んだ後に気が付いたら今の自分になっていました。記憶が戻ったのは、初めてセーラと昼寝をしていた時です。夢と言っていた事は、本当はオレが一度体験した事なのです。そこで、母上が亡くなってしまってからは兄上は……オレを殺そうと暗殺者を仕向けたり、毒を仕込んだりしてきました」

「だから……僕に怯えていたの?」

「今の兄上と、私が過去に接した兄上は別人です。それは分かっていたのですが、幼い身体で恐怖を抑えられませんでした」

「以前のイオスは、僕を憎んでいたの?」

「いいえ。ですが降りかかる火の粉は払わせて頂きました」

「殺されかけたのに、僕を憎まなかったの?」

「オレにした事では、特に憎しみは抱きませんでした」

フォスはイオスの言葉を聞き、自分はイオス以外にも何かをしたんだと気が付いた。自分が、弟が泣き、怯える程の事をした。フォスは怖くてたまらなかった。

「僕は……他に何をしたの? イオスの知ってる僕は、未来で何をしたの?!」

フォスは、真っ青な顔でイオスを問い詰めた。そうか、兄上も怯えていたのか。オレが何も言わずに怯えたりするから。

イオスは、兄が愛しくなり、全てを話す覚悟を決めた。

「兄上……、今の兄上は何もしていません。ですが、私が知っている未来では……兄上は……俺を殺そうとして、父上も殺そうとします。それから……」

「それから?! いいから教えてくれ! 僕はどれだけ残虐な事をするんだ?!」

「裏で手を回して、セーラの国を滅ぼします。セーラ以外の王族は全員殺され、セーラは兄上の指示でフランツから暗殺者に仕立てられて……オレを殺そうとします」

「そんな……残酷な事を……僕が……。だから、降りかかる火の粉を払ったと……イオスは、僕がセーラに手を出したから怒ったんだね。それほど、セーラが大事だったのか」

「そうですね。母上が死んで荒れていたオレを助けてくれたのはセーラだけでしたから。父上はオレに無関心でしたし、兄上は毒を盛るわ暗殺者を仕掛けるわ……味方とは思えませんでした」

「僕は……なんて事を……」

「兄上が失言をした事で貴族の支持を失い、オレが皇帝になりました。兄上は、罪を暴かれフランツと共に生涯幽閉されました。フランツと罵り合いながら幽閉されるのは地獄だったでしょう。しょっちゅう怪我をしていたようですし、最後は……。幽閉を命令したのは皇帝になったオレです」

「僕を処刑しなかったの? 僕の罪を考えたら、公開処刑が妥当だよね。その方がイオスの治世は安定した筈だよ」

「そう……ですね。そんな声があったのは事実です。ですが、オレには出来ませんでした。幽閉は、ギリギリの処罰だったのです。フランツも共に幽閉するなら罰になるだろうと認められました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

処理中です...